第11話 ついに試験が始まる。


翌日の朝のことだった。


「むにゃむにゃ♪」


裸のルーナが俺の胸の上で寝てた。


ルーナを自分の体の上からそっとどかした。


どかしても目覚めないのを見るに相当熟睡しているらしい。


ルーナの体が冷えないように布団をかけてやると、俺は服を着替えた。


そうしていると段々今までの記憶が蘇ってくる。


(思い出した)


昨日は服に下水道の匂いがついてたので洗濯してそのまま裸で寝たんだった。


この状況はそれだけの話である。


服を着替えると、コンコンと部屋がノックされた。


「開いてるよ」


「失礼します。お待たせしましたユースケ兄さん」


アレシアは中に入るとさっそく俺に手紙を渡してくる。


「こちらの作業はすべて完了しました。あとは兄さんが試験を受けるだけになっております。詳細は全てこちらの手紙に書いております」


手紙を受け取るとさっそく目を通す。



【現在募集中の職業】


・近衛騎士


業務内容:王城及び周辺の警備

難易度:高


要求条件:かなり多い


・守衛騎士


業務内容:町の警備。犯罪などを取り締まる

難易度:低



「本来であれば年齢制限がありますが、私からの推薦ということで特別に外させて頂きました」


「助かるよ」


「いえいえ、とんでもない。あなたほどの剣の達人を放置など私にはできませんので」


俺は頭を掻きむしった。


恥ずかしさからだった。


剣の達人か、そんなこと言われること今までなかったからなぁ。


褒められると恥ずかしくなる。


さて、どれにしよっかなー?なんてふうに頭を悩ませていると……意外な言葉が飛んでくる。


「兄さん。聞いて驚いてください」


「ん?」


「私は兄さんのために無理を言って3番目の選択肢をもぎ取ってきたんです」


「お?もしかして団内ニートできる役職?」


職場にいるだけで給料が発生するような職場の話でも持ってきてくれたのかもな。


だとしたらありがたい話である。


俺は無能なので働かなくていいならそれほど嬉しいことは無い。


「こちらを」


すっ。


アレシアは別の手紙を渡してきた。


「ん?なんだこれ」


俺は紙を取り出して中身に目を通した。


そこには驚くべきことが書かれてあった。


「特別推薦状?」


なんだこれ。


俺の疑問はすぐにアレシアが答えてくれることになった。


「私はあなたを我が団の団長に任命したいと考えているのです。ちなみにですが、本来はこんなことはできません。全員団員スタートですからね」


俺は手紙の続きを読んでみることにした。


細かい事情が書いてあった。


どうやらアレシアは【ユカイン】の件で評価されて昇格が決まっているらしい。


そこでアレシアの騎士団は団長が抜けてしまうことになる。

その後釜として俺を指名したいそうだが。


「ひょっとして俺があのヴァイスの上官になるってこと?」

「はい。そういうことになりますね」


俺は「ふっ」と笑って答えた。


「それもいいかもな。あの小僧には礼儀を教えてやろう」


「そうです。その心意気ですよ兄さん」


アレシアが俺を見つめる。


すごく嬉しそうな顔をしていた。


「で、試験の日時は?」


「今日でも構いませんよ。こちらの準備はできております」


アレシアから話を聞くとどうやら王都側は俺に期待しているらしい。


『アレシアに推薦されるほどの男』の実力を見たいらしいが……。


(もう全盛期終わってんだよなぁ)


ため息を吐いた。


「兄さん、私の信じる兄さんを信じてください」


アレシアは漫画の主人公みたいなセリフを吐いていた。


こんなに頼りになっちゃって、お兄ちゃん嬉しいよ。



俺はルーナに事情を説明してからアレシアと共に試験会場に向かうことになった。


試験会場は近くの守衛騎士団の詰所らしい。


敷地の中には小さめのグラウンドと、建物があった

グラウンドでは騎士がだべったり、訓練していたりした。


だが、アレシアが来たのを目指すると全員がアレシアに向かって敬礼した。


「アレシア団長、おかえりなさい!」

「おはようございます!アレシア団長!」


その中にはヴァイスの姿もあった。


ヴァイスだけは俺たちに近寄ってくる。


「おかえりなさい。騎士団長様」


ちなみに俺に目を向ける時だけはやはり睨むような目で見てくる。


「俺はキミにそこまで睨まれるような事をしたかな」

「俺はお前のことがなんとなく気に入らんのだ。おっさん」


そこでヴァイスはうっかり言葉を漏らした。


「ぽっと出のおっさんが団長とそんなに親しいのが気に入らないんだ」


(あ、こいつ、アレシアのことが好きなんだな)


俺はすぐに気付いたがアレシアは気付いていない。


「だからその呼び方をやめろと言っているだろう、ヴァイス」


俺の顔を見てくるヴァイス。


「名前聞いていなかったな」

「ユースケ。さん付けはしなくていいぞ?」

「言われなくてもするかよ。落ちこぼれのおっさん。今更騎士団になんて入れるわけないだろ」


プリプリ怒って詰所の方に戻って行った。


まぁ、気持ちは分かる。

自分が先に好きだったのにぽっと出の冴えないおっさんに女の子取られたらそりゃイライラもするわな。


俺は大人なのであの態度も許してやろうと思う。


「失礼しました。兄さん、ヴァイスにはキツく……」

「あいつはあれでいいよ」

「そうなのですか?」

「俺のことが嫌いな奴に俺の事を好きになるとまで言わん」

「兄さんはヴァイスと違って大人ですね。


俺は苦笑してしまった。


大人びて見えるが結局のところアレシアも年相応の女の子らしい。


そのとき、詰所の扉が開いた。


中から人が出てきた。


女だった。


雪のような白い髪は長い。


右目には眼帯。


その女を見た瞬間アレシアは居住まいを正す。


ビシッ!と敬礼していた。


「おはようございます!フブキ様」


どうやらあの女、アレシアより身分は高いらしい。


周りにいた騎士達は微動だにしない。

まるで動いてはいけないかのような雰囲気だった。


フブキと呼ばれた女は俺に目を向けた。


「あなたが最近噂のサトウ ユースケ?でいいのかな?」

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