第10話 ちょっと変わった王都満喫


夕方になると俺は指定されたホテルに帰ってきた。


しばらくするとルーナも合流した。


「にゃにゃにゃ、もう1人のスイレンって子は?」

「俺の知り合いに預けた。つまり今日は君と2人きりってわけさ」


「にゃにゃっ?!ご主人様と?!」


両手を擦り合わせて俺に近寄ってきた。


どうやらゴマをスっているようだ。


「なにか私にして欲しいこととかはありますにゃ?ご主人様♡」


「この王都のことには詳しいの?」

「ある程度にゃ」

「なら、ちょっと装備屋にでも案内してもらおうかな」


「それにゃら取っておきがあるにゃよ」


ペロリと舌を舐めていたルーナ。


「悪い子が使うような装備屋?」

「そうですけど、効果はお墨付きにゃ」


悪い顔で笑っていたルーナだった。


ルーナは宿を出ると俺を路地裏の方に案内した。


「随分奥まったところにあるんだな」


「悪い子が使う装備屋なのでにゃ」


そうして俺たちは袋小路の突き当たりまでやってきた。


「ここ?なんもないけど」


ルーナは地面を指さした。

そこにあったのはマンホール。


パカッ。


「マンホールの中に入っていくんですにゃ。にゃ〜」


ルーナは案内するようにマンホールの中に入り込んだ。

壁には手すりがついており、それで降りられるようにはなってるけど……。


(下水の中入るのなんかやだけどワクワクもするな)


俺も中に入っていくことにした。

もちろん、マンホールは閉めた。


マンホールの中は真っ暗闇。


一生続くように思えるほどの闇が広がっていたけど……


タン、とルーナが着地する音。


「もう飛び降りてもいいですにゃ〜」


「はいよっと」


俺も手すりから手と足を離して地面に降りた。


(くさっ)


鼻ひん曲がりそうな匂いが周りに充満してる。


「これあげますにゃ」


ルーナはマスクを取りだしてきた。


「ここの常連になるとマスクが貰えますにゃ。2枚あるのでぷれぜんとふぉーゆ〜」


「ありがとうルーナ」


ルーナが俺の体に抱きついてきて胸の辺りを触り始める。


「のんのん。ご主人様は私に命をくれたのにゃ♡この程度とうぜんですにゃ〜♡」


猫なで声ってやつで迫ってくる、だけど。俺も大人だ。


「その先は色々やばいからそろそろやめてくれよ?俺もいつまで我慢できるか分からんぞ?」

「一線越えても大丈夫ですにゃ?私はご主人様のど・れ・いですにゃ♡」


お尻フリフリしてる。


それに釣られてしっぽもフリフリ。


(小悪魔系だな)


「それより、ルーナ。早く案内を」


「はいですにゃ」


初めて下水道の中に入ったけど一応人が通れるようにはなっていた。


網目状の鉄板(多分グレーチング)があってその上を通れるようになってる。


それを通っていると通路の先の方に青い炎が見えてきた。


炎の横には全身黒ずくめの人間らしき奴が立っていた。そいつの近くにはたくさんのアタッシュケースが積まれている。


そいつに近付くと話しかけてきた。


「ようこそ、秘密の武器ショップへ。何が欲しいんだ?兄ちゃん」


いちばん大きなアタッシュケースを開いて中身を見せてくる。


アタッシュケースいっぱいに武器が詰まっていた。


「触ってみていいのか?」

「ご自由に」


俺は手近にあった武器をひとつ手に取った。


「いい剣だなこれ。しかも安い。利益出るのか?」


なんていうか、1.5Lのペットボトルコーラが10円で売られてる、みたいな値段設定だった。


安すぎてこわい。


「一応訳あり品だから安くしてるよ」


「どんな?訳あり品?」


「そいつに関して言えば『含有してる魔力量が多すぎる』ってとこだな。普通に使っても魔力暴走が起きちまう」


武器には魔力が含まれているものがある。


含んでいる理由に関しては魔法の発動を簡単にするためっていう目的なんだが。


多すぎると予想以上の魔法が発動してしまって自分も魔法の餌食になることがある。


「魔力量が多い武器はほんとに売れにくくてね。本来は廃棄に回されるものなんだが、回り回ってここに来たってわけ」


(なるほどな)


まぁちょうど良かったかもしれない。


「これいくら?」


「3000イェンだ」


俺は金を払って武器を買った。


「いい武器をいい値段で買えたな。耐久値も新品同然」


そう呟くと商人は聞いてきた。


「あんた、すげーな。その武器が新品同然って見抜けるなんて」

「そうか?」


商人はすっごいびっくりしてるみたいだ。


そんなに驚く様なことはなかったと思うが。


「パッと見で武器の耐久値が分かるなんて大したもんだよ。あんた一体何者なんだ?かなり長い間剣を見てないと出来ない芸当だぜ?」


「別に大したことないよ。そのへんにいるプー太郎さ」


「はははっ。プー太郎ってことは金に困ってるよね?ひとつ組まないか?」

「組むって?」


「これだぁ」


商人は俺に紙を渡してきた。


そこにはこう書いてあった。


【アンダーグラウンドチャンピオンシップ】


という見出しがあって、参加者募集中と書いてあった。


なんとなく理解した。


(漫画に付き物のアングラマッチってやつかな)


「悪いけど、パスかな」

「そーか。いい線いけると思ったんだが」

「ちょうど上で別の用事があってさ」

「それは残念、でも参加したくなったらいつでも声をかけてくれよな」


ルーナに目をやった。


「帰ろっか」


ルーナは返事をして帰り道を歩き始めた。

その道中、ルーナは曲がり角を曲がっていた。


来る時は来なかった場所だった。


そこはほとんどニオイもせず屋台が並んでいた。


ルーナはとある屋台の前まで歩いていった。


ジュージューと、肉の焼ける音。


どうやらここは焼き鳥屋のようである。

使っている材料は


(フェニックス?)


フェニックスなんて、食えるのか?


いろいろ考えていたらルーナが話しかけてくる。


「ご主人様、ルーナは役に立ちましたか?」

「うん、立ったね」


「これ、買ってくれませんか?焼き鳥。食べたいにゃー」


じゅるり。

ヨダレ垂らしながら目をキラキラさせているルーナ。


そんな目で見られたら断れないよな。


店員に声を掛ける。


「いいよ。焼き鳥2本くれ」

「あいよ。2本で3万な」


(フェニックスたっかっ!)


「やっぱり一本でっ!」


こうして俺は少し変わった王都を満喫することになったのだった。


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