第8話 王都行き
食事も終わると俺は家に帰ることになったのだが、その道中でアレシアが話しかけてきた。
「ユースケ兄さん。少しお話があります」
「どんな?」
「王都で働きたいんですよね?」
「そうだね。金がないし。王都の仕事なら高給だって聞いた」
「なら王都で試験を行いませんか?王都で行えば試験は1回で終わります」
「王都で?でも受かんなかった時帰ってくるのだるいんだよな」
「ご安心を。あなたの実力は私がいちばん知っています。それから考えて受からないということはないでしょう」
たしかに。
アレシア、というか俺は奴隷達と数日間暮らしたことがある。
その時には俺が実力を見せたこともあった。
でも……
「力を見せたのも何年前だと思ってるんだよ。かなり前だぞ?今の俺はそのへんにいるただのおっさんだって」
ぶっちゃけ今の俺じゃヴァイスに勝てるかどうかもよく分からん。
(王都の試験官を相手にした時、俺が勝てるか、だよなぁ。自信ないなぁ)
ルーナには勝てたけど正直なんでもありの実戦で強引に勝ちに行ったようなものだしな。
俺もあまり思い出したくないような戦い方をしたし。
それに、
「もうあの頃みたいに体は動かないぞ?」
「そんなことはありませんよ。私の目から見たあなたは今も昔も変わりません」
「今も変わらない、か。でも最初は俺だって気付かなかったよな?」
「気付いてましたよ?でも確信が持てなかっただけです」
言動からしたらマジで気付いてたっぽい。
恐ろしいものである。
「俺は自分のことは信用してないけど、アレシアの言うことなら信用するよ」
いわゆるお前の信用する俺を信じるってやつ。
「では明日の朝我々と王都に移りますか?」
「昼くらいまでは待てるか?別れの挨拶したいやつらがいてさ」
「分かりました。私もヴァイスには話を通しておきましょう、試験は王都で行うと」
◇
翌日。
俺はグルーの家を訪れた。
「どうしたんだよユースケ」
「王都に向かうことになった」
「え?まじかよ!」
ビックリしたのか目をパッチリ開けていた。
「すげぇじゃん。ってことは王都で働くってことか?」
「たぶんね」
「ちょっと待っててくれスイレンのやつ呼んでくるから」
しばらくすると妹のスイレンがやってきた。
「ユースケさん、王都にいくんですか?」
「だから別れの挨拶でもしにきたんだよ」
「私も同行していいですか?私も王都でテスト受けたいんです。魔法軍団に入りたいんです」
「そうなんだ。とりあえずアレシアに聞いてみようか」
アレシアたちはここに馬車で来たらしい。
だからもしかしたらスイレンまで載せられないかもしれない。
そんな不安を覚えながら俺はアレシアとの待ち合わせ場所である広場に向かった。
広場ではアレシアが馬の面倒を見ていた。
「よしよし」
「アレシア話があるんだ」
「どうしましたか?」
「ふむ。なるほど、話は分かりました。それでその子を連れて行けばいいんですね?」
「頼めるかな?」
「もちろんですよ。馬車にはまだ人が乗れるスペースはありますから」
胸をなでおろす。
よかった。空きがあったんだな。
これでなかったらすっごい気まずい雰囲気になっていたことだろう。
「この村では大勢の仲間を失いましたからね」
(そういえばそうだったな)
この村でヴァイスとアレシア以外の騎士団は全滅した。
だから馬車にはかなりの空きがあるんだろう。
(嫌なことを思い出させたかもな)
「そのすまなかった。いらないことを言ったかも」
「お気になさらず。彼らの力が及ばなかっただけですよ。兄さんは何も悪くないです」
その言葉に俺は救われたような気がした。
「じゃぁ行きましょうか」
「あぁ。別れの挨拶は済んだし、よろしく頼むよ」
こうして俺は10年間世話になったこの村を出ていくことになった。
「そういえば、王都に行くのもだいたい10年ぶりくらいか」
当時のことが何だか懐かしくなって呟く。
「おっさんは王都に来たことがあるんだな」
ヴァイスは意外そうな顔をしていた。
「俺も昔は王都に住んでたんだよな。ははは」
ふと、アレシアを見ると彼女はワクワクしていた
「ユースケさん、あの時ぶりにの店に行きませんか?」
「どれだっけ?」
「クレープ屋さんですよ。私初めて食べた時からあの店の味が忘れられなくてずっと通ってたんですよ」
(覚えてない)
でもアレシアが言ってるし、当時の俺はクレープ屋に行ってたんだろう。
スイレンが呟いた。
「うー、緊張しますぅ。初めての王都。どんなところなんだろう、それにテストも緊張するのです」
そうだよなぁ。緊張は誰でもするよなぁ。
そうして走り続けて数時間。
俺たちは王都に無事に来れていた。
さぁ、あとは試験に受かることだけ考えないとな。
「兄さん、話したいことがあります」
「なに?」
「ここからは少し別行動になります。私たちは先に【ユカイン】の件を報告しないといけませんので。それとあなたの受験の手続き、これらの作業には一日は必要です」
「おっけー、俺はとりあえず待ってればいいんだな」
アレシアは頷いた。
「ホテル【バニラ】という場所があります。そこで宿泊してもらえませんか?明日の朝には帰ります」
お金を渡してきた。
「こちら宿泊代です。お使いください」
「あとは好きにしていていいんだな?」
「もちろん、久々の王都でも満喫してみてください」
今日はとりあえず、久々の王都でも見て回ることにしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます