第7話 出会い
村に戻ってくると酒場へ向かっていた。
俺は金庫から金を奪っていたのもあって、先にヴァイスが帰ってきたらしい。
酒場の入り口前で他の騎士と雑談している姿が見える。
(あれ?あいつの仲間全員死んだって聞いたんだが……死んでないじゃん)
まぁいいや。
ヴァイスとは目が会わないように近付いてたのだが……。
「そこのあなた」
騎士に声をかけられた。
「なに?」
騎士の顔を見た。
女だった。
金色の髪の毛を腰くらいまで伸ばした女の子。
この村では見たことがない騎士だ。
さきほどの作戦の生き残りの騎士ってわけでもないんだろう。
そう言えばこの騎士団の団長にまだ会っていないな。
「ヴァイス、騎士団の団長ってのはどんな人なんだ?」
「この方がそうだ」
なんとなく察してはいたけどやっぱりそうだったか
「ど、ども〜」
俺はそう言って酒場の中に入ろうとした。
この騎士団とはオフであまり関わりたくないからな。
(そもそもの話俺は騎士団のメンバーでもなんでもないのに。なんでこんなに関わってんだよっていう)
つーか、そうだそうだ。
思い出した。
請求できるものはしておかないとな。
「ヴァイス。ここを出る前にした話は覚えてるよな?」
「はて、なんのことだったか」
(こいつ……なかったことにするつもりか。まぁいい。金庫の金はパクってきたからな)
俺がそう思っていたら助け舟が思ってもいない方向からやってきた。
「ヴァイス、なにか約束をしたのか?」
「団長には関係の無い話です」
「関係はある。私の部下のお前が約束を守らないようなことがあってはならない」
ジーッと見つめられてヴァイスは困っているようだったが。
俺は更に畳み掛けることにした。
「実はですね団長さん。俺たちはついさっきまで【ユカイン】という犯罪組織とバトっていたところなのですよ」
「その話なら私も知っています」
なら話が早い。
「俺はそれに同行したんですよ。報酬は払うし、王都の仕事に応募するための面接もする、という約束をしたんですよ」
「ヴァイス?」
ヴァイスは渋々といった様子で頷いていた。
「くそっ……時間の無駄なことはしたくないんだが」
ヴァイスは団長の顔を見た。
「アレシア団長。聞いてくださいよ。この男は実務経験もほとんどないと言うのに32で王都の仕事に応募したいと言うんですよ」
「だから?」
「どうせ、面接するだけ無駄ですよ」
「お前がそう思っているだけだろう。面接はしろ」
ヴァイスは「うぐっ」と漏らして渋々頷く。
どうやらこの男も団長様には勝てないらしい。
「今から面接内容を説明する。ちゃんと聞くように」
ヴァイスが話した内容はこうだった。
面接で測るものはただひとつ。
戦闘能力のみ。
これが基準より上回っていれば次は王都での最終面接。
だが、この基準というのがかなり高いらしい。
俺に突破出来るかどうかは分からないけど、でも試してみるだけなら無料だからな。
「日程は明日の朝だ。広場に来れるか?おっさん」
「ヴァイス。名前で呼べ」
「おっさんでいいでしょ。どうせもう会うこともないのに」
ヴァイスのやつはここで俺とは完全に縁を切りたいようである。
しかし俺の性格はよくはない。
(頑張って王都までいってやるぞぉ〜)
俺は酒場に入っていくことにしたのだが。
「おっさん」
「まだなんかあるのかよ?ヴァイス」
「ひとつ聞いていいか?」
「なに?」
「どうしてお前が【勇者の剣】を使えた?」
その言葉にアレシアが反応を示した。
「勇者の剣を?」
「はい。俺は見ました。この男が勇者の剣を使ったのを」
「偽物では?」
「あれは紛れもなく本物です」
アレシアとの会話を終えてヴァイスは俺を見てきた。
「なぜお前が使えた?あれは勇者様だけが使える必殺技だ」
「企業秘密だ」
俺はそう言って酒場へと入ることにしたのだが……アレシアが着いてきた。
(飯が食いたいのか?)
そんな事思いながら俺は酒場の席に着いた。
「にゃふっ」
ルーナは俺の横に。
アレシアが俺の対面に座った。
そして口を開いた。
「お久しぶりですね、お兄ちゃん」
俺の目を真っ直ぐ見てそう言ってきた。
「はて、俺には妹なんていないが」
「お忘れですか?アレシアのことを」
「アレシア……」
うーん。
眉間を軽くつまんで思い出してみた。
すると、1人の女の子の顔が浮かんだ。
「ひょっとして……」
「そうです。思い出して頂けましたか?」
俺が買った奴隷の中にアレシアという子がいた気がした。
俺が21歳くらいのころの話だ。
アレシアという5歳の女の子を買った。
「勇者の剣と聞いてパッと思い浮かんだのがお兄ちゃんの事でした」
ポロポロと涙を流していたアレシア。
「まさかこんなところで会えるなんて思いもしませんでした」
俺の両手を取ってきたアレシア。
「覚えてますか?あの時の話」
(なんにも覚えてない)
「私はあなたに言いました。『結婚して欲しいって』あなたはどう返したか覚えてますか?」
たしか……。
俺はこう返した。『キミが大きくなったときまだその気持ちが変わっていないなら結婚しよう』って。
正直言わせてもらうわ。
その時の気分で適当に口にしただけの言葉なんだよなぁ、これ。
5歳の子供に結婚してって頼まれたらみんな似たような言葉返すだろ?
それと同じなんだよなぁ。
チラッ。
アレシアの顔を見た。
「私はあの時から気持ちは変わりません。ずっとお兄ちゃんのことだけを考えて生きてきました。そして、あなたに相応しい人間になるために騎士団長の座まで上り詰めました」
スっ。
机の上におもちゃの指輪を出てきた。
「なにか覚えていますか?」
(覚えてない)
「あなたが小さい私に送ってくれたものです。私はずーっと大事に取っていました」
(俺なら捨ててるか、無くしてるな)
「私はあの日の言葉通り、大きくなりました。もう一度言います。私と結婚してくれませんか?」
そのときルーナが「にゃーっ」っと口を開いた。
「ご主人〜、二人で真面目な話してるとこ悪いんだけど、腹減ったにゃ。焼き鳥食べていいかにゃ?」
「いいよ」
チーん。
この空気の中、ルーナは容赦なく呼び鈴を鳴らした。
つーか。俺も腹減った。
呼び鈴鳴らすタイミングを完全に失ってた。
ナイスアシストだぞ、ルーナ!
俺は注文しながらアレシアに目をやった。
ガックリと肩を落としてた。
軽くフォローしとくか。
さすがの俺もルーナほど容赦がないわけじゃないし。
「結婚よりまずはとりあえず彼女からじゃないの?」
「では、彼女にしてくれますか?」
右手の親指をグッと立てた。
アレシアの顔に笑顔が浮かんだ。
でも、勘違いするなよアレシア。
俺は絶賛金なしその日暮らしのヤバい奴だよ。
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