第5話 【ヴァイス視点】予想外

ヴァイスは森の中を走っていた。


モブ騎士の1人と彼は会話していた。


「大丈夫でしょうか?奴らは」


モブ騎士は残してきた仲間たちのことを心配していた。


しかしヴァイスはその不安を打ち消すように首を横に振った。


「問題ないはずだ。我々騎士は過酷な訓練の末こうして騎士団に所属しているからな。並大抵の相手では負けないさ」


通常騎士団に入るのであれば騎士要請学校と呼ばれる専門の教育機関に通う必要がある。


それも子供の頃から。


合計10年以上は通うことになる。

それだけ長い年月をかけて通うにはとうぜん幼い頃から通うのが一般的である。


そして10年かけてやっと卒業して、仕事に着けるようになるのだが、ここでも人気職は取り合いになる。


騎士団なんてものは最たるものであった。


その倍率、なんと250と言われている。


250人受けて一人受かるかどうかという厳しい倍率。

しかし、騎士団に所属できれば勝ち組と言われている世界だ。


だから苦しくても殆どの者が騎士を目指す。


そして、ヴァイスはそんな環境でも更に上を目指そうとしていた。


エリート中のエリートである。


だからこそ、32にもなって叶いもしない夢を見ているユースケをバカにしていた。


例えるなら日本人のいい歳したおっさんが、将来の夢を語る時に「空を飛びたい」などと馬鹿げたことを言っている感覚に近い。


だからヴァイスはユースケを馬鹿にしていたのだ。


(こんな奴に王都の仕事など務まるはずがない)


それが彼の本音であった。


(と、くだらないことを考えたな)


そのとき、彼らは足を止めた。

目の前に老朽化した建物。


「ヴァイス副団長、ここですね。目的の廃墟は」

「そのようだな。突撃するぞ」


ヴァイスたちは廃墟の中に入っていく。

元々2階建ての建物だったのだろうが、既に1階部分しか機能していない。


中は静まり返っていた。


音を立てないように彼らは歩いていく。


奥までたどり着いた。


「入るぞ」


ヴァイスは部下たちと共に奥の扉を開けた。


そこには金色の髪を肩くらいまで伸ばした男の姿。


「もう逃げ場はないぞアロンゾ」

「刺客を出したのだがな。使えん奴らだ」

「仲間たちに任せて来た」

「なるほどな。ではその仲間たちは死んだかもな」

「俺は仲間たちを信じているぞ」


アロンゾは剣を構えた。

最早なにも語る必要はないという意思表示だった。


ギャイン!


アロンゾの一振でモブ騎士達が吹き飛んだ。


「ぐぎやあぁあぁぁぁあ!!!」

「うわぁぁあぁぁぁあっ!!!」


生き残ったのはヴァイスだけだった。


「脆い。脆い脆い脆いぃっ!」


剣と剣がぶつかり合う。


「この様子だと貴様の仲間は既に死んでいるだろうなぁっ?!」


アロンゾは鍔迫り合いの状態でニヤリと笑った。


「お前たちは知らないだろうが、我らには新たな仲間が加わった【死の風】という名を聞いたことがないか?」


「死の風だと?」


目を見開いたヴァイス。


もちろん、その名には聞き覚えがある。


数年前から王都で噂されるようになった都市伝説である。


数年前から王都で謎の死体が出るようになった。

しかし、犯人は分からないという話だった。


そこで犯人に着いたのが【死の風】という異名だった。


「あいつはこの俺すら凌駕する力の持ち主だ。貴様の仲間は今頃全滅だろうなぁっ!」


「抜かせぇ!」


ヴァイスは必死に抵抗していた。

しかし、


「【スラッシュ】」


アロンゾの一言でヴァイスは壁際まで叩きつけられた。


「かはっ……」


「死の風の話を聞いて一瞬力が揺らいだな、まだまだだな騎士団長よ」


ヴァイスは肩で息をしていた。

それからアロンゾに向かって口を開いた。


「俺はここで負けるだろう」


「負けを認めるんだな?」


「だが、勘違いするなアロンゾ。俺は団長ではない。副団長だ」


「なんだと……?」


今度はアロンゾが驚愕する番だった。


「俺たちの騎士団の団長の名を教えてやろう。アロンゾ」


ヴァイスはポツリと呟いた。


「アレシア・フォン・スノーブレイク」


「アレシアだと?!」


叫ぶアロンゾ。


「あの、【剣聖】と呼ばれた女か?!」

「そうだ。あの人に比べたら俺など路傍の石だ。今アレシア団長がここに向かっているはずだ」


アロンゾの顔に明らかな動揺が見えた。


「とどめを……刺している時間は無いな。アレシアとなると素早く逃げなければ……逃げる時間くらいは【死の風】が稼ぐはずだ」


アロンゾは廃墟から出ていこうとしていたが、そのときだった。


ザッ、ザッ。


足音。


「アレシア団長?やっと来てくれたんです……ね?」


ヴァイスは入口の方を見た。


しかし、顔を覗かせたのは思いもよらない人物だった。


予想だにしない人物が現れたためヴァイスの目は驚愕で大きく見開かれた。


「おっさん、どうしてお前がここに……」

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