第2話 これからのこと

スイレンは俺に興味があったらしく話しかけてくる。


「ユースケさんはこれからどうするか、とか決めてるんですか?」


「これからのこと?将来のことなら考えてないな」


俺はスマホゲーの石があればそっこう回すタイプだ。


「兄からはSSSランク冒険者って聞きました、冒険者とかはしないんですか?」

「もうやんないかな」


冒険者じゃなくて勇者だっけど、地獄みたいな日々だった。


あれを経験したあとにまた似たような経験をしたいとは思えない。


だがまぁ、よく考えてみれば、このままでいいのか?という思いもあるな。


(俺の体もいつまで持つか分かんないしな)


今はその日暮らしで生きていけるけど、あと10年後同じように体が動いてるかは分からないものである。


なら、ここらでどかっと稼いでおくのもいいかもしれないな。


勇者生活で溜まった疲れはもう十分に取れたし。


またガッツリ働くのもいいかもな。


「冒険者にはならないと思うけど、確かに仕事を変えてもいいかもなー」


今の俺の仕事は誰でも出来るようなどうでもいい仕事だ。

そのため稼ぎも少ない。


「現在王都で剣士を募集しているみたいですけど、そういうのはどうでしょう?」


「剣士か」


俺はもともと勇者という名の剣士だった。

だから剣の扱いにはそれなりの自信はある。


「たしかにいいかもね」


「それならさっそくお話してみませんか?」


酒場の外に目をやっていた。


「さっき、騎士がいたじゃないですか。あの人たちは簡単な試験官もできるみたいです」


「そうなんだ。じゃああいつらに簡易面接みたいなことを頼むことが可能ってわけね」


王都で仕事するなら応募も試験も王都でしないといけない。


そのために王都までいくのはダルいと思っていたところなので朗報だ。


「ふむ。では食事が終わったら話に行ってみてもいいかもな」


ところで、だ。


「剣士を募集してるって話だけどどんな仕事するんだろ?」


「さぁ?色んな職業があるみたいです。細かいことは聞いてみては?」


なるほど。

聞いてみることにするか。



食事が終わった。


俺はグルーたちとは別れてひとりで騎士たちを探し始めたのだが……。


(まだいるかな?こんな夜だけど)


じゃっかん不安に思いながら騎士たちを探していたのだが、ヴァイスが見つかった。


普通に道を歩いていた。しかも仲間と談笑していて暇そうだ。


「こんばんは〜」


普通に話しかけてみた。


「どうかしました?」


さっきと違ってむすっとした顔をしていたのが、少しだけ違和感。


「忙しいとは思うんだけど。王都での仕事に興味があって、簡易面接とかちょっとした話をして欲しいんですけど」


頭を下げた。


しかしヴァイスはクスクスと笑っていた。


なんか気になるような笑い方だった。


「すみません。いちおう年齢確認しても?」


「今32ですけど」


「年齢でアウトです。王都の仕事は若い時から教え込むものでして」


そういうことか。


手間を取らせたし謝って去ろうとしていると、ヴァイスが口を開いた。


「ほんとに迷惑なものですよ。こちらも忙しいんですよね。今話しかけていいのかどうかも分からなかったんです?」


明確に敵意を向けられた気がして俺は顔を歪めた。


だが、反対にヴァイスは笑顔を浮かべている。

こいつだけはこの状況を少しだけ楽しんでいるような、そんな感じだった。


「たまにいるんですよね。あなたみたいなのが。若い頃はいい動きをしていたのを忘れられず自惚れて応募してくる間抜けなおっさんが。あなたもう歳なんですよ?分かりますよね?役に立てないことくらい」


ヴァイスがそう言うと周りの奴らも流され出す。


「おっさん年だけ重ねたのか。終わってんなぁ〜」

「俺らはお前らみたいに暇なわけじゃねぇからなぁ。頼むから空気読んでくれよな〜」


みたいな反応。


(感じ悪いなこいつら。今まで道歩きながら喋ってただけじゃないか)


百歩譲って今話しかけたのは悪かったとしよう。

でもそこまで言う必要あるか?


その後ヴァイスたちはゲラゲラ笑いながら去ってこうとしていたのだが、


「おっさん、あんたにはその日暮らしがお似合いだよ。見るからに貧乏くさいし、王都はおっさんのこと、お呼びじゃないよ。ばーか」


最後にそう言ってきた。


本当に感じの悪い奴らだ。


(それにしても年齢でアウトか)


何かを始めるのに遅すぎることなんてないという言葉は聞いたことがあるが、どうやら遅すぎたらしい。


あの言葉って嘘だよなー。


俺はそのままモヤモヤした気分のまま自分の家に帰ることにした……のだが。


(追い酒するか)


この不機嫌な気持ちのまま寝れる気がしない。


酒を浴びるほど飲んでベロンベロンになってから寝ようと思う。


酒場で酒を買って財布を見た。


「マジで金がねぇ」


俺の今の所持金は5000イェン。


これは日本円とほぼ価値は同じくらいである。


ちょっと豪遊すれば溶けるような額だし。


病気したときには目も当てられない。


今までは騙し騙し生きてきたけど……


(そろそろこの先のことも考えなきゃダメよなぁ)


どうにかして王都の職につければいいんだけど、なんかないなかなぁ?抜け道みたいなものは。



朝起きるととんでもない事になっていた。


「うぷっ……」


気持ち悪い。


まじであんなに飲むんじゃなかった。

とか思うけど、後悔後先たたずってやつ。


切り替えよう。


今日の仕事に行こう。


そう思って職場に向かい始めたのだが……酒場前を通ることになった。


その時にヴァイスに出会った。


俺はスルーしようと思ったのだが……向こうは面白いオモチャを見つけた、みたいな目で俺を見てくる。


「見るからに昨日は随分と飲まれたご様子で」

「だとしたらどうしました?」

「今日も仕事でしょう?随分と体調管理ができないだらしない人間なんだなぁと思いまして。ばかじゃねーの?」


周りの騎士たちもゲラゲラ笑っていた。


「そんなんで王都の仕事が勤まると思っているのですか?あまぁい!考え方がチョコレートのようにあまぁい!」


(こいつら……ほんとに……いや。言い返す言葉がないや)


悔しいが昨日はベロンベロンになるまで飲んだ俺が悪いか。


そう思いながら歩いていこうとしたらヴァイスがすれ違いざまにこう言った。


「そんなんじゃいざと言う時剣も握れないでしょう?論外ですよ」


(それは、どういうことだろう?)


剣くらい握れるだろ?


俺は言葉の意図を理解できなかったが……。

こいつと話す必要性も感じなかったのでそのまま職場に向かった。



で、職場に向かった俺を出迎えたのは張り紙だった。


【本日作業中止】


張り紙を見た従業員がゾロゾロと帰っていく。


「急だな」


「しゃあないよね。こういう仕事って急になくなったりするもんなぁ」


グルーの声。


「なんもしないと干からびてしまうんだけどな」


「そんなユースケに朗報でーす」


「ん?」


「実は今日近所の婆ちゃんに依頼されてさ、今日はこっち行かない?スイレンと3人でさ」


「それはいい案かもな」


という訳でグルーとスイレン、それから俺の3人で依頼に行くことにした。


内容は知らんけどどうせ大したことないものだろう。


ここ、ゲームでいうなら【はじまりの町】だし。


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