「おっさんが王都の仕事なんてできねーよ」と馬鹿にされた底辺おっさんの俺、無事に王都で働くことになって馬鹿にしてきたやつの上官になったので思う存分こき使おうと思います

にこん

第1話 俺はダメなおっさん

「ユースケーって結婚したりしねーのー?」

「いきなりなんなんだ?ひょっとして、俺と結婚したいのか?」


目の前の少年の言葉に俺、佐藤 祐介は首を傾げた。


少年の名前はグルー。

俺とはなんだかんだで10年近くの腐れ縁だ。


「だってユースケが女連れてるとこみたことないもん。興味ないのかなって」


なるほど。

そういうことか。


肩を竦めてみせる。


「結婚したくても相手がいないからできないんだよ、って言えばグルーが紹介してくれたりするわけ?」


にんまりと笑っていた。


「妹がユースケさん、いいかもーって言ってたからありかも」


「そうか。なら迅速に紹介してくれ。いますぐにっ!」

「えぇ?まじで紹介しちゃっていいの?」


ニヤニヤしているグルー。


まぁ、ただの軽口だろう。


(大事な妹を俺なんかに預けるわけないからな、普通)


それを分かっていて俺も軽口を叩いてるわけだ。


「ところでさ。ユースケってここに来るまではなにしてたの?たしか今32歳だっけ?」

「聞きたいか?」

「めっちゃ聞きたい!」


ふん!と鼻息を鳴らして顔を近付けてきた。


それだけ聞きたいらしいので、俺も少しばかり話してやることにしよう。


「オフレコで頼むぞ。誰にも言うなよ?」

「なんかヤバいことしてたの?」


俺はありのままの自分の過去をグルーに語り始めた。



佐藤 祐介こと俺は普通の日本人だった。


17歳の高二のころ。異世界に召喚された。


当時の王様に「魔王倒してきてくれ、報酬もあります」と言われたので俺は「りょ」って返事して退治しにいった。


苦節3年くらい。

魔王を倒して戻ってきたら王様にこう言われた。


「魔王討伐の功績、我が息子に譲ってくれないか?報酬は追加します。もちろん、このことは秘密に」


俺はもちろん「りょ」って答えた。


そう、実は俺は勇者様だったんです。


以上っ!!



「これが俺の昔の話だよ」

「へぇ、魔王倒したんだ。うそくせー」


まぁ信じられないのも無理はないだろう。


この世界でこの話を知っているのは俺と当時の王様とその息子くらいだからな。


だから世間一般的には勇者と言えばもちろん王様の息子がイメージされる。


「でもさ、俺が嘘つく必要あるか?」

「妹に紹介するときに盛ってほしいんだろ?安心してくれよ。言われなくても盛るから。実はSSSランク冒険者なんだぜって話しとく」

「はっはっは、そいつは頼もしいな」


グルーは目を見開いて聞いてくる。


「んでさ、報酬って何貰ったの?」


俺は右手の人差し指の先端と親指の先端を使ってコインのマークを作った。


「金だよ。逆に金以外あるか?」


「んひゃー。やっぱ金かー。何に使ったの?」


「女、酒、飯」


「意外だなー。女の人なんて買ったんだ」


「勘違いするなよ。体を買ったわけじゃない」


「何を買ったの?」


「身分だよ。奴隷の子に金を渡して自由を与えてやったのさ」


いわゆる身請けというやつである。


下心がなかったかと言われればそれもまた嘘にはなるんだけど……。


檻に入れられた女の子を見ているとだんだん可哀想に思えてきたんだよな。


それで俺は奴隷を買ってから即解放した。


次の日も奴隷を買って解放した。


それを何十回も何百回も繰り返した。


一度も肉体関係を持ったことは無い。


「完全に金の無駄遣いだったな、あれは。どうかしてた」


ふふふって笑った。


この話だけはいつ思い出しても自分が馬鹿だって思うしかない。


「ユースケめっちゃ良い奴じゃん」


こんな話でうるうると感動してた。


「涙は親が死んだ時まで取っておくもんだぞ、グルー?」

「そうだな。それにユースケが勇者だったなんてやっぱり信じらんねぇよ」


相変わらずグルーは俺の話を信じていないようだ。


「だって、ユースケが勇者になれるくらい強かったんなら今も強いでしょ?」

「今の俺は弱いな」

「でしょ?それじゃ無理があるよ〜」


グルーはこう言いたいんだろう。


俺が今も強いんならこんな村でその日暮らししてないで、冒険者になって1発稼げばいいじゃん、っていうこと。


だが、俺はその日暮らしをしている。

だからこの話が信じられないんだとは思う。


でも、俺としてもこの話を信じてもう必要性も感じない。


なんなら、この話は本来秘密にしておいてくれ、と言われているものだ。

なので信じてもらえてない方がありがたい。


「グルー、今の話は忘れてくれ」

「うん。明日には忘れてると思う」


そこでグルーは目を輝かせた。


「ところでさ、ユースケ」


「なんだ?」


「俺今日で18なんだ!大人になったし酒でも奢ってくれよ!」


ということは酒場に行こうということか。


今日はこのまま家に帰ろうかと思っていたんだが、どうしたものか。


しかし、ここで断るのもグルーに悪い気がしてならない。


よし、こうなれば妥協案である。


「金がないんだよ。お前が自分の分は出すというのなら酒くらいは付き合うけど」


「それでもいいよ」


「わかったよ」


俺はグルーと共に酒場の方に向かうことにした。


この村は狭い。


酒場はひとつしかないし、村の住民は全員の顔を覚えられるくらいの人数しか生活してない。


だと言うのに……


「なぁグルー。あの甲冑のヤツら見たことあるか?」


今日は酒場前で知らない奴らがたむろしていた。


「知らね。どっかの冒険者かなんかじゃないの?」


「それにしては甲冑が多すぎる気がするが」


「まさか、騎士団とかって言いたいわけ?」


ゲラゲラ笑っているグルー。


騎士団は日本で言う警察みたいな連中だ。


「こんな村で事件起こすバカなんて居ないと思うけど。だって人口も少ないのにすぐばれちゃうよ」


「それもそうか」


俺たちはそのまま酒場へと近づいて行ったのだが、そのとき。グルーが話しかけてきた。


「ユースケ、先に酒場入っててくんね?家に忘れ物しちまってさ」

「いいよ」

「すぐ戻る」


俺はひとりで酒場に近づいて行った。

すると案の定というか、なんというか。


騎士のひとりが俺に話しかけてきた。


「失礼。私は騎士団のヴァイスという者だが」


「なんです?」


「この辺りで誘拐事件が発生してね。なにか知らないか聞きたいのだが」

「知りませんな」

「そうですか、それは失礼しました」


そう言って騎士は頭を下げて別のところに向かってった。


(誘拐事件か物騒なもんだな)


俺は酒場に入ることにした。


席に着くと適当に注文してグルーを待っていた。

やがて、足音と声。


「待たせたな、ユースケー」


「おう」


そう言って顔を上げた、のだが。


「ど、どうも〜」


この場に似つかわしくない女の子が立っていた。


「俺の妹、紹介するよユースケ」


女の子はぺこりと頭を下げてきた。


「私スイレンって言います。14歳です。よろしくお願いします」


(あの話冗談だと思ってたよ)


俺は心の中でボケーッとしてた。


まさか本当に将来も希望もないおっさんが、14歳の女の子を紹介されると思わなかった。


それにしてもかわいいなー、この子。

グルーにはぜんぜん似てない。


それはそうと、こんなおっさんはさすがにやめといた方がいいぜ?

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