第11話 特大の秘密をもう知ってるんだけど
彩乃にも三人四脚をやってもらおう。そうしたら天道と咲希が一緒の組み合わせになる確率が下がるはず。しかし、そのためには天道が三人四脚を希望しているということを本人から聞いたことにする必要がある。現状の僕と天道の関係性じゃ信じてもらえないかもしれない。天道と仲良くならなければ。それに仲良くなれば、もしかしたら彩乃とくっつけるための情報も手に入るかもしれない。
日高の席に向かう。
「金木、ワックスつけるの下手くそだな」
「仕方ないだろ。初めてだったんだから。それより」
「昼飯だろ? いいぜ一緒に食おう」
「よく分かったね……」
「実は俺、エスパーなんだよ」
「それ前にも聞いたから」
呆れながらそう返すと、自分の席に戻った。
昼になり、日高と学食に来る。僕はカルボナーラパスタ、日高は唐揚げ定食を注文した。
「パスタって腹に溜まらなくね?」
「麺が好きなんだよ。すぐ食べ終わるし」
現実では昼休みにマンガのプロットやネームを考えていた。だからすぐに食べ終わる麺類は都合が良かったのだ。
「育ち盛りなんだし、もっと食えよ」
「家ではちゃんと食べてるって」
僕らは料理を受け取ると、会計を済ませ、テーブルに向かい合わせに座る。
「それで、中野はなんだって?」
「しばらく別行動だって。その間、僕らだけで、彩乃が天道と付き合える方法を探せって言われた」
「ふーん。んで、なんか思いついてんの?」
「考えたんだけど、僕自身が天道と仲良くなろうかなって」
「いいんじゃね? ま、難しいと思うけど」
「え? なんで?」
天道はクラスの中心人物で誰にでも優しい。僕とだって仲良くしてくれるはずだ。まさか。
「そんなに僕ってステータス低い?」
「それが理由じゃないって。それも否定しないけど」
否定しないのかよ。
「じゃあ、どういう理由?」
「あいつって男友達いないから」
「え?」
僕は衝撃を受けた。天道に友達がいない? そりゃマンガでは、咲希や彩乃とのシーンばっかり描写していたけど。
「天道みたいな人間に友達がいないなんて、そんなわけ……」
「俺が言ったのは、男友達な」
日高は唐揚げを頬張ると、ご飯をかき込んだ。男友達がいないということは、女友達はいるということ。確かに天道はモテるけど。もしかしてそれが理由?
「天道ってもしかして、男子から妬まれてる?」
「50点。金木だって、立花が天道のこと好きになったらムカつくだろ?」
「それは……まぁ」
「うちのクラスにも結構いるんだよ。自分の好きな子が天道のファンだっていうパターン」
咲希が実はモテてるという話もそうだけど、モブの好感度ってそんなふうになってるの? 僕は頭が痛くなった。
「もう半分は天道自身の問題。昨日、中野が天道のことミステリアスって言ってたけど、あいつフレンドリーな割に妙に距離があんだよ。特に男子相手だとなおさら」
それはきっと天道が、男装していることがバレたくないからだろう。
「だから天道に友達って呼べるような男は、これまでいなかったと思うぜ」
人間関係ってそんなに複雑なのか……。ずっとボッチだったからわからなかった……。
「え? じゃあ僕はどうすればいいの?」
「わかんない」
そう言って味噌汁をすする日高。
「いや、わかんないじゃなくてさ……」
せっかく妙案が浮かんだと思ったのに、早速暗礁に乗り上げてしまった。ガックリと肩を落とす。
「まぁ、これでも食って元気出せよ。肉はいいぜ?」
そう言って日高は、最後の唐揚げを僕のパスタ皿に乗っける。
「……ありがと」
そう返すと、唐揚げを口に入れた。確かに肉はいいかもしれない。僕も今度注文してみようか。現実逃避したくて、そんなことを考えた。
午後の授業を受けながら考える。そもそも天道と仲良くなるという作戦は、天道の性格の良さにつけ込んだものだったのだ。
日高や彩乃は、向こうから話しかけてくれたから話せるようになったけど、元々僕は中高と筋金入りのボッチなのだ。僕から誰かと仲良くなることなんて、本来めちゃくちゃハードルが高い。それなのに、天道は仲良くなるのが普通に難しいなんて。
だけど今の僕に、他にできることなんて……。
放課後になり、天道が帰り支度を始める。こうなったらダメ元で行くしかない。僕は天道に声をかける。
「途中まで一緒に帰らない?」
天道は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「金木から誘ってくるなんて珍しいじゃん。もちろんいいぜ」
そして僕らは一緒に教室を出た。
「それで、俺に何か用?」
天道が探りを入れてきた。いきなりあんな提案をしてきたんだ。もっともな質問だった。
「いや、その……。用って程のものじゃなくて……」
「そうか? 悩みでもあるなら聞くぜ?」
悩み……。僕の今の悩みといったら……。
「あのさ……」
「ん?」
天道はなんでも言ってみろといった顔をして見せる。イケメンにしか許されない表情だろ、こんなの。でもそれなら……。
「ぼ、僕と友達になってくださいっ!」
そう言って頭を下げる。もうやぶれかぶれだ。当たって砕け散ってやる。
「……」
天道は何も言わない。
「……」
僕もそれ以上、何も言えなかった。
「えっとさ、とりあえず頭上げてくんね?」
「……へ、返事は?」
「うーん……」
腕を組んで考えこむ天道。
「一個、質問してもいいかな?」
「な、何かな……」
「金木にとっての友達ってなに?」
「え?」
なんだその質問。僕にとっての友達? そんなのボッチだった僕にわかるわけ……。
「悪ぃ。別に金木と友達になりたくないってわけじゃないんだ。ただ、金木が俺に何を求めてるのかなって」
僕が天道に求めてるもの。それは咲希に近づかないこと。彩乃と付き合ってくれること。
「えっと……。ただ仲良くなりたいってだけじゃダメかな?」
「それなら俺たちもう仲良いじゃん」
「そうなの?」
「少なくとも俺はそう思ってるよ。だけど……」
「だけど?」
「もし金木が、俺と一緒に放課後や休日に遊びたいとか考えてるなら、それには付き合えない」
それは明確な拒絶だった。
「そ、そうなんだ……」
天道の目を直視できず、視線を下に向ける。
「だから聞いたんだ。金木は俺に何を求めてるのかなって。それ次第で俺の返事も変わるから」
僕が天道に望んでいることは、咲希や彩乃に関することでしかない。僕自身が僕と天道との関係で望んでいるものは何もない。僕は天道を利用しようとしていただけだ。だからと言って、ここで引くわけにはいかない。
「ちょっと考えさせてもらってもいいかな……」
「もちろん。こっちこそゴメンな。変なこと聞いて」
「ううん。気にしないで」
ベッドで仰向けになり、スマホで「友達」と検索して、ヒットした記事を片っ端から眺めていたが、欲しい答えは見つからなかった。きっと僕が彩乃と付き合ってほしいと言ったところで、天道は拒否するだろう。でもそれは、僕が天道と仲良しじゃないからといった理由ではない。天道は自分が女子であることを隠そうとする間は、絶対に自身の内側に、誰も踏み込ませないだろう。それを今日、身をもって理解した。果たして突破口などあるのだろうか。
電車に揺られながら、あくびをかみ殺す。週末もマンガを繰り返し読み返したが、突破口になりそうなイベントは見つからなかった。そもそもマンガの次の展開が、体育祭の種目決めなんだよな。それまではコマとコマの余白の部分だ。僕一人では限界がある。日高に相談しよう。有用なアドバイスをくれるかはわからないけど。
今日も学食で日高と昼食を取る。僕はチャーシュー麺で、日高はハンバーグ定食だった。僕は天道とのやり取りを報告する。
「金木が天道に何を求めているか、ねぇ……」
「僕、答えられなくてさ……」
「ってか、いきなり友達になってくださいとか。相変わらずおもしれーのな」
「うるさいなぁ。それでどうしたらいいと思う?」
「でも金木は別に、天道と仲良くなりたくないんだろ?」
「いや、もっと仲良くなれたらとは思ってるよ……でも」
「あくまで中野のため、と」
「うん……」
「いっそのこと脅迫しちゃえば?」
「え?」
「俺と友達にならないと、お前の恥ずかしい秘密をバラしてやる、とか」
「えー……。それで友達にはなれなくない?」
「そもそも友達になる必要ないんんだって。彩乃とくっつけたいだけなんだから」
「そりゃそうだけど……」
「もっとも天道の秘密を知ってなきゃ成立しないけどな」
いや、僕は特大の秘密をもう知ってるんだけど。
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