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それはつまり世界の消滅(あるいは終わり)を意味すると猫は語る。(男と女はいつのまにか椅子の上からいなくなっている。この世界には今は猫しか存在しない)
それはつまり永遠回帰の敗北である。永遠回帰とは世界を生み出す行為であり、世界とはあり続けるものではなくて人が空想することによって常に生み出し具現化し続けたいるものだとして、ここでようやく猫は世界の正体を読者に語りかける。
他者との触れ合いによって共通認識が生まれ、それは空想と呼ばれる。空想は世界を生み出す源であるが、精神がシフトせずに個人の内側から外側(世界)に飛び出さないと他者と触れ合うことはなく空想は生まれない。(個人はその生涯を個人の中で完結する完璧な世界である夢の中で暮らすことになる)空想が生まれなければ世界は生まれない。すると世界は消えてしまう。そうさせないために人々は永遠回帰を求めなければならない。猫はそう語り、存在と永遠回帰への空想は幕を閉じる。
メロディのメモはここで終わっている。
(もう一度メモを読み返してみて、メロディは第三章に急に語り部として猫が登場するのは、同時に男と女が消えてしまうのは、つまり存在と永遠回帰への空想の本の中では世界とは人の世界のことであり、人がいなければ世界がなくなってしまうから、あるいはそんな人の世界を語るためには人の外側にいる人でないもの、この場合は猫でなければならないからではないか、とふと思った)
存在と永遠回帰への空想はとても面白かった。ホラーは映画のできに満足した。(贅沢にお金を払った甲斐が確かにあった)
「面白かったね。思っていた以上にずっと良かった」ずっとにこにこしているホラーはいう。
「面白かった。でもやっぱり難しかった」疲れた顔をしてメロディは言う。
「メロディは真面目だもんね。頭で考えちゃうと疲れちゃうから、感覚でいいんだよ。感じたままでいい。理解する必要はないと思うよ。私も意味を全部理解しているわけじゃないからね」
「なるほどね」うなずきながらメロディは言う。
「贅沢しちゃたから、また明日から穴掘りのお仕事頑張らないと」と背伸びをしながら(寂しそうな顔をして)ホラーは言った。(小さながま口のお財布の中にはからっぽになってしまった)
「猫がさ、出てきたでしょ? 最後にさ」あごに指をつけながらメロディが言う。
「うん。出てきた。可愛い猫だったね。本のほうには精密な描写はなかったから、どんな猫を使って、どんな風に演出するのか期待していたけど、結構想像通りの猫で嬉しかった。あの猫。子猫だよね。きっと子供は神様って言う文章とかけているんだと思った」
二人は真っ暗な道を歩きながらそんなお話をしている。
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