坂口安吾

 僕に何か言葉を求められても困るのですが。

 そうですよ、彼らの後始末を担当したのは僕です。報道規制を掛け、彼らの葬儀から埋葬まで凡て秘密裏に行いました。全く骨が折れましたよ。二人を洗浄した時よりも大変でした。何せ、裏社会だけでは済まなかったですから。

 僕の所に連絡が来たのは、事の数ヶ月前でした。

「漸く卯羅と一緒になる決心が付いたよ」

 その一文だけでした。

 怪文書かと思いましたよ。お二人の婚姻に関しての証人は、僕ですから。僕も多忙の身ですので、悪戯だろうと思い、放っておきました。

 そうしましたら、探偵社の国木田さんより、連絡が入りました。二人が心中したと。

 問題はそこからでした。マフィアと探偵社の対立が再び加熱する可能性さえありました。彼女はあれでもマフィア幹部の養女です。母親が、止めることの出来なかった探偵社を仇とし、襲撃する危険が生じたのです。ですから、両組織の長が、両組織の忌事として扱ってくれたのは幸いでした。二人の意志に依って実行され、他人が関与する術は無かった、どちらの組織の誰にも止められなかった。そう明確に示せましたので。

 個人的な話ですか? 特に何の感情もありませんよ。彼らとの付き合いは昔の話ですし。ですが寂しいものですね。これで僕は本当に一人になりましたよ。孤独には慣れています。この仕事を始めた時から、潜入捜査官として、太宰くんに接触した時から。

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花の散るらむ ちくわ書房 @dz_pastecake

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