泉鏡花

 光って、何?

 あの人は私の姉に相当する人だった。私と同じ場所で育ち、同じものに憧れた。初めて見た彼女はとても幸せそうだった。

 でも時々息苦しそうだった。そういう時に必ず彼が傍に居て、支えていた。

 私なんかよりも器用に振る舞えてるように見えた。

 そうではないと知ったのは、組合との抗争を終えた後だった。

 強すぎる光の中で、窒息しかけてた。その度に、彼が手を差し伸べて、救い上げていた。一度だけ訊いたことがある。幸せ? って。そうしたら、満面の笑みで、幸せ、って答えた。

 組織に居た頃の話は、本人達からは聞いたことが無かった。組織で耳にしたのは、冷酷な幹部が居たというのと、その秘書の噂だけ。普段の二人とはかけ離れていたし、訊いてみようとも思わなかった。

 でも「三十五人殺したぐらいで」と聞いた時、漸く解った。あの噂は、この二人の事なんだと。私が両親と暮らしている間、あの人は組織で養育されていた。骨の髄まで組織の人間として。

 あの「幸せ」は、光に魅せられての幸せじゃない。あの人と居られることへの幸せだった。

『闇に咲く華は、闇にしか憩えない』

 それはきっと、彼女の事だったんだと思う。あの二人は、此方の世界に居ても、きっと光は見えていなかった。闇に飲まれて、二人だけで居たのかもしれない。

「鏡花ちゃんは大丈夫だよ」そう彼女が笑顔で云ってくれたのは、闇から私を遠ざけようとしてくれたのだと思う。手本にするなと、警告も込めて。

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