三日前

 母様にお手紙書こう。あと、贈り物。

 可愛い便箋に、今までのありがとうを詰め込んで。

「今日でお別れだね」

 今までずっと、一緒に居てくれた、犬のぬいぐるみ。お気に入りのわんちゃん。きっともしかしたら、産まれた日から。明日には母様の手に渡る。私を忘れないで欲しいから。

 最後に一緒に過ごそう。一番のお友達。何も言わないで、ずっと傍に居てくれた。何度も私の涙を拭ってくれた。「大丈夫だよ」って云ってくれた。酸いも甘いも一緒に歩んできた。

 だからこそ母様に預けたい。

 もし、もしも私と治さんに子供があったなら、その子に譲ったかもしれない。遊んであげてって、私にしたみたいに。それも叶わなかったから。

 欲しかった。

 でもね、神様が要らないだろうって。何度重ねてみても駄目なものは駄目ね。不義の子を沢山送り出した罰かしら。きっと可愛い子が産まれたでしょうね。だって治さんの子だもの。

『拝啓 尾崎紅葉様──』

 あの夜、母様は、何を思っていたのかしら。急に世話を押し付けられて、手を繋いで、歩かされて。嫌では無かったのかしら。同情した? 哀れだと思った? 邪推かもしれないけど、愛が嫌いだと公言する母様が、何故私を養育してくれたのか、解らない。それを裏切っても尚、母として居てくれる。

 皆は知らないのよ。母様がどれだけ優しくて、懐が広いか。夜叉の印象が先行しすぎるのよ。

 私、母様の子として産まれたかった。

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