四日前
「意外と物持ちね、私達」
「必要最低限で暮らしていたつもりなのにねぇ」
押入れの整理。錻缶から出てきた写真。懐かしいね、と思い出話に花が咲く。
終わらないと解っていても、どうしても手を止めてしまう。どの貴方も素敵で、何故貴方と連れ立って来たか、身に沁みるから。
「ねえ、懐かしいよ。これ、私が組みした時に、森さんが無理矢理撮ったやつだ」
「治さん不貞腐れてる」
「笑ってるの君だけだよ」
真っ白な襟衣と紺の内衣に、青の襟締を面倒そうに解いて。何度締め直しても、苦しいとか、煩わしい、とか云われて、解かれた憶えがある。私も少し上等な服を着て、治さんの腕にくっついてる。
「卯羅はあの頃から何も変わってないなあ」
「そうかしら?」
「君が少女から女性に成長するのを眺めていた私の感想。時折手助けしたけども。そりゃあ、外見は変わったさ。こんなに可愛らしい子が、婀娜く椿の精」
悪戯に笑う治さんも変わらない。でもあの日の眼はもう無い。彼の目元に触れると、ニヤッと笑った。
「目付きが優しくなった」
「結婚詐欺師と揶揄されるのだけど」
「一理ある」
昔の棘は奥に潜めて。奥で燻り、時折炎を魅せる。好きよ。その火に焼かれて、焦がされたの。
写真立てを手に取り、優しく笑う治さん。覗き込むと、婚礼催事に立ち寄って撮ったものだった。この時は本当にそうなれるなんて思わなかった。
「この写真、善いよね」
「本当に夫婦みたい」
「この時は、ね。お陰で今はこの通り」
「婚姻前に着ると婚期が遅れる、とか何とか云ってましたけど?」
「逃すわけ無いだろう? 私がそうさせないさ」
この写真から、二年もしないうちに、私は名字を変えた。何度も呼んだ大好きな人。
「矢張ね、名字を変えるって特別。治さんのものに成れた、そう実感したのも、何も知らないお役所の人から呼ばれた時だもの」
「私は君を『家内が』って示した時だなあ」
それも嬉しかった。治さんが、この子が私の嫁です、私は既婚者です、って云ってくれたの。相変わらず、貴方に対して、嫉妬深く、独占を剥き出しにしてしまう。きっとそうね、少年から青年へと成長する貴方を見ていたから。それだけじゃないもの。ただ見ていたんじゃないの。手と成り足と成り、一番の部下として、裏から支え続けたから。
「私は君の支えに甘んじていたのかもね。後ろを見れば卯羅が居る、その安心感に」
「寂しがりやさん」
「この写真は、大切にしないとね」
整理をしているのに、その写真は卓袱台の上に置いた。
「飾るの?」
「だって、必要だろう? 此れ以外は姐さんにでもあげようか」
「持って行きましょうよ、織田作に見せなきゃ……でも一枚は母様にあげたい」
どれにしようかしら。小さい頃の写真が善いかしら。母様と、治さんと、三人で写っているの。
「これ、善いかしら」
「幼い頃ので善いの?」
「だって、小さい頃の写真のほうが少ないもの。それ以外のは好きなのを勝手に持っていくわよ」
私はものぐさだから、写真を綴じたりはしなかったけど、きっと母様ならやってくれる。そうして、心を落ち着かせて欲しい。
「却説、お昼の支度しましょ? 何食べたい?」
一度区切りを付けて。そうでないと、私が引き返してしまいそう。貴方の手を取ると決めたのに。
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