五日前

「途中でお花買わなきゃ」

「いざとなれば、君の異能もあるし」

 花束を抱えた卯羅を伴いながら、海沿いの道を往く。海風に揺れる花弁を眺めながら、彼女が笑う。

「結婚の報告もこのお花持っていったね」

「そうだった?」

 天竺牡丹ダリア大千本槍ガーベラ土耳古桔梗トルコキキョウといった、大振りの紅基調。それに添えられた九輪草クリンソウ枳殻カラタチ。よく覚えているものだ。いや、私も記憶には有ったが、何故その花を選んだのか、彼女の意図を汲めなかった。

「花言葉は?」

「いやよ、知ってるくせに」

「どれも純愛を示すような花言葉を持つ花だ」

「そうよ? 私にとっては、これが貴方への純愛」

 歪んだ純愛だと云われそうだ。

 歪な純潔は、純潔たるや?

「やあ、来たよ。一つ報告があってね」

 善いことだろな、と訊かれそうだ。私達からしたらこの上なく善いことだけれど。

 花を添えてから、いつものように裏へ回り込む。腰を下ろして、墓石に寄り掛かり、私の脚を枕にする卯羅を撫でながら、話を続ける。

「漸くね、決心したのだよ。君は喜んでくれると思うけど」

 お前の選択なら間違いは無いな、そう云っておくれ。

「幸せの形はそれぞれだ。だから、私と卯羅にとってはこの結末が最上なんだ。林檎自殺、憶えているかい? あれの体現かもね」

 花を咲かせては消して、を繰り返す卯羅。蒲公英タンポポの綿毛を生やすと、ふうっと息を吹きかけた。風に乗り舞う綿毛。

「見て、小さな踊り子さん達だよ」

「綺麗だね」

 嬉しそうに笑う彼女が、幼くて、少し私を揺るがせた。けれど、手放せない。

「矢張り、君の異能力は綺麗だ」

「治さんが手向けの花って云ってくれたから」

 あと少しで会いに行くから。二人で共に。君たちが暮らす処へ。あの咖喱を作って、待っていてよ。辛さは控えめでお願いしたいね。手土産にはそうだな、可愛い花束と、子供たちのおやつ。彼女、子供たちの善い遊び相手になるよ。私達には、子が無いからね。きっと我が子のように可愛がってくれると思うよ。

 もう少しだけ、待っていてくれ。

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