おっさん、依頼を受ける⑤

 禁忌の森攻略前に大分揉めたが、攻略スタートになったら順調に進み始める。

 蟠りが解けたのがとにかく大きく、話がスムーズに進んだ。


「まず、この森はダンジョンの一部だと思ってくれていい。基本的にダンジョンは地上に出ずに別空間に留まるのだが、ここは地上に介入、つまりダンジョンブレイクした一例として取り上げられた場所だ。ダンジョンがある世界に生まれた洋一さんにならわかるだろうが、国が滅びるレベルの災害だよ。それをなんとか制御されたのが禁忌の森、つまりここってわけだ」


 入り口から内側に入るためにはとあるアイテムが必要不可欠だと聞かされた。

 それが『霊視ベリー』と『迷宮茸』。

 霊視ベリーを見つけなければ迷宮茸は見つからず、その迷宮茸はダンジョンの入り口を封印しているのだそうだ。


「ああ、あった。みんな、これを口に含んでくれ。一度口に含めば問題ない。これが迷宮茸を目視する条件なんだ。酸味が強く、食べつけない味だがダンジョンに侵入するにはこれが必要不可欠で」


 そう説明を繰り返すシルファスの横で、ヨルダが懐かしそうに口に放り込む。


「あ、味変ベリーじゃん! これうまいんだよねー」


 ひょいぱく、と特に危険視せずにもぐもぐする。

 シルファスはまるで見慣れた果実であるかのような態度に驚きながら尋ねる。


「知って、いるのか?」


「味変ベリーでしょ? 知ってる知ってる。肉の味付けに塩も胡椒もない時にこれを塗ったくって食べてたんだ。口の中がさっぱりするから、結構重要だったんだぜ。ね、師匠?」


「ああ。料理人として肉オンリーじゃ、どうにもいけない。何かハーブの代わりになるものはないか? そう考えて行き着いたのがこれだ。仕留めたジェミニウルフの肉を干し肉にする際の味付けの一部として使った。目が覚めるような酸味は臭み消しに最適だった」


「そうか……じゃあ迷宮茸もどこかで見ているのかもな」


 なんか納得しきれないという顔で迷宮茸を探すシルファス。


「あった、これがその迷宮茸だ。見覚えは?」


 この森で暮らしていた、という洋一達に尋ねる。


「めちゃくちゃある。というか、七輪茸だろ? こうやって内側を【隠し包丁】で刻んでからこうやって表面を叩くと燃えるんだ。ヨルダと出会う前はこいつで火起こししてたんだよ。懐かしいなー」


「懐かしいのか。これはダンジョンの封印が解けて、周囲にダンジョンモンスターが溢れる仕組みの一部なんだ。それを解いた時、洋一さんの近くにモンスターが現れたりしなかったかい?」


「ああ、あったな。めちゃくちゃでかいクマ。ヨルダから聞いた話だと、悪魔の部下であるデーモングリズリーと言ったかな?」


「よりにもよってレベル100のモンスターにエンカウントしたんか。そいつ強かったでしょ?」


「うん? まぁ虹色狼。ヨルダがいうにはジェミニウルフよりは少し手がかかったが、基本【熟成乾燥】でワンパンだったからな。大した苦労もないよ。悔しかったのは【熟成乾燥】を強くかけすぎて熊節にしちゃったことかな。普通に倒して熊鍋にしたいと思ってたんだが、なかなか出会わなくてなー、いつしか狼肉の味変要因の一つになってたよ。そっか、レアな個体だったのか、あれ」


「レア、というかレベル100でも逃げる敵ですね。あれはダンジョンが生み出した守護者、いわゆるゲートキーパーです。階層主と言った方が良いでしょうか。そいつを正攻法で倒すと鍵がドロップしましてね」


「鍵?」


「ええ、魔核です。それがダンジョンの攻略の一部になるんです。やり込み要素の一つですね。レベルオーバーモンスターの討伐。これをクリアすればダンジョンに赴かなくても攻略したことになる。謎解きよりもバトルが好きな人向けの要素となります」


「核ってこれですか?」


「うんうん、そういう色合いの……って、なんで持ってるんですか!?」


「そういえばもう一匹と出会ったなと。弟子の卒業記念に討伐したのでその時のですよ。俺は一切手を出してないので、ヨルダとティルネさんの勝利の証です。卒業証書みたいな?」


「卒業証書……ゲーム内最強の一角ですけど? 最強のノーマルモンスター、七つ星、悪魔を冠する名、ダンジョンの守護獣……いろいろ呼び名はありますが、なんの用意もなく出会えば即ゲームオーバーの負けイベの象徴なんですよ。なんで普通に倒してるんですか?」


「ほら、俺の能力って君のゲーム換算でチート扱い受けてるから。それでかな?」


「まさかデーモングリズリーをワンパンしてるレベルだとは思わんでしょう。まぁいいです。これで強さの指標が測れました。洋一さんがいればダンジョンクリアも目前です。どうしよう、俺、ここにきてから何の役にも立ってないぞ?」


「何言ってるんですか、俺には新発見ばかりですよ。当時は特に何も考えずにここで暮らしてましたが、生活の一部にそんな仕掛けがあっただなんて思っても見なかった。そしてザイオンに赴く前にザイオンの味を知れた。俺にとってはこれ以上ない収穫だよ。君にとってそう感じない程度のものでもね」


「そっか、俺にとっての普通は洋一さんにとっては未知なのか。じゃあ、少しは役に立てたのかな?」


「そうそう。まさか、ザイオンが大阪系の粉物文化が主流だなんて思いもしなかったよ」


「単純に俺が好んで食べてるだけだけどな。うちらは獣混ざりだと師匠が仰ったように肉の味が最適化された料理を好むんだ。何なら生肉なんかも好き。ユッケみたいなのなんか最高。けど、俺にはどうも受け付けなくてさ……で、粉物ばかり口につけてる。ザイオンの恥さらしだ、なんて言われてるし」


「それは粉物の魅力をまだ知らないだけでしょう。俺がザイオンに赴いた際に宣伝してあげますよ。肉を生のまま食べるのは肉への冒涜、だとね」


「洋一さんのたこ焼き、めちゃうまだったから楽しみだな」


「ザイオンにたこ焼きは?」


「生食だけど魚は食わないんだよ、うちら。そういうのは軟弱モンが食うもんだと」


「は、舐めてるのかそ奴等。くびり殺すぞ?」


 あまりこちらの話に首を突っ込まずに、黙ってついてきた紀伊姫が、ザイオンの食事事情を聞いた途端キレ散らかした。

 ジーパは煮物文化、特に肉より魚を食すからな。


「わっ、別にジーパに喧嘩売ってるわけじゃねーよ。遠い異国の食事文化を知らなかっただけの話さ。俺たちザイオンは他国に興味を持たねぇからな」


「なおさら不快じゃ。どちらが格上か証明するか?」


「落ち着いて、二人とも。ジーパは粉物の魅力を、ザイオンは煮魚の魅力をお互いに知らないだけだよ。俺がそれを今から証明する。お互いに食べ慣れない味だから最初こそは困惑するだろうが、そこは我慢してほしい」


 食文化の違いで喧嘩するのは如何ともし難い。

 攻略の間に食事を挟むことで諍いを解消していくのも洋一の仕事だ。


 早速お互いのお国料理を粉物、フライを作り上げる。

 衣で包んで油で揚げるシンプルな料理だ。

 一部崩れやすい部位は熟成乾燥で凝固、それを串に刺して揚げる。

 俗にいう串揚げというやつだ。


 今回フライをわざわざ取り上げたのは、ミンドレイ出身者もこの場にいたからである。山国に木を使える料理を作れるのはこの場では洋一だけだったためだ。


「あ、これお店で食べたことがあります。確か串揚げでしたよね?」


「野菜を油に浸す料理は数あれど、衣に包む工程を挟むだけでエールが進むんだよ」


「それのザイオンバージョンとジーパバージョンもお見せするよ。まずはミンドレイバージョンでお上がりください。『ソース』『醤油』『味噌ダレ』『マヨネーズ』『ケチャップ』『マスタード』お好みで味変してみてください。シンオウルに塩でも美味しいですよ。ヨルダ、揚げ場が足りない、増設を。ティルネさんは油の準備をお願いします」


「オレも揚げるぜ!」


「私も参加いたしましょう。恩師殿は食材の加工を」


 弟子たちが名乗り出て洋一のサポートに回る。

 五人の王族関係者は、それぞれの国民食を食べ比べしては舌鼓を打った。


「ああ、これ! カレー風味がついてる。魚をこうアレンジしたか!」


「ザイオンは魚の臭みを嫌うと聞いたことがあります。ジーパの方からしたら邪道に取られると思いますが、旨みを凝縮する仕事の一つだと思っていただければ」


「ポンちゃん、白飯はある? 串から外してご飯の上に並べてかっ込みたい」


「ヨーダ嬢?」


 ヨーダの貴族の淑女らしからぬ発言に、思わずシルファスも目を剥いて驚く。


「ああ、彼女はオレの知り合いがこちらの世界に転生した存在でね。身分上は素を出せないから、今まで演技してたんだよ。こっちが素」


「うふふ、ごめんなさい。私ったら故郷の料理を目前にすると自制が効かなくなってしまって」


 だとしたって限度があるだろう。しかしシルファスにも覚えがあった。

 家族の前ではそのように振る舞わなければ舐められる。

 最低限のマナー。それを演じているというのは筋違いだと。

 だとしても相当に猫をかぶっていたことになる。


 一目惚れだと思っていたが、今では己の節穴具合に嫌気がさしそうだった。


「ご飯ならヨルダの畑のストックにあるな」


「いよ! スクナビコナ様!」


「簡単に妾の土地神様を名乗りあげないでくださいまし!」


 紀伊の訴えに、とんでもない名前なのだなと窺い知るシルファス。

 そんな関係と親しいヨルダに改めて敬意を示した。


「すまない、俺にも白米はいただけるか? 大阪人にとって粉物はおかずなんだ」


「ええ、そう伺ってます。茶碗か丼。どちらになさいます?」


「まずは茶碗で。箸もあるか?」


「もちろん」


 これだけ会話がスムーズに進むのは何とも心地がいい。

 ザイオンでこの会話を成立させるだけでいくつかの説明が必要となる。

 欲しいと思えるものがすぐに形を伴って出て来るのは、涙が出てくるほどのありがたかった。


 久しぶり。否、この地に生まれて初めて口にした白米は、想像していた通りの味だった。最初こそ自分の猫舌っぷりを憎んだシルファス。

 フーフーと息を吹きかけて熱気を飛ばし、前世でのように食べ進める。


 ご飯、揚げ物、ご飯味変した揚げ物、ご飯。

 すっかりサイクルが出来上がってしまったようだ。


「漬物もありますよ。揚げ物だけだと脂っこさがしつこくなってしまうでしょう」


「あー、最高! この柴漬けが最高に白飯と合う!」


 夏野菜を赤梅酢で漬け込んだもの。


「シルファス殿下は通でございますわね。実は前世では結構お年を召していらした?」


「三十を少し越えたくらいですね」


「あら、同世代」


「どうりで。同年代特有の落ち着きが見られました」


 前世トークを弾ませる二人。

 そんな二人の前に洋一はさらなるサプライズを披露した。


「へい、豚玉お待ち」


 自分で鉄板を囲んで作るスタイルのお好み焼きだ。

 それをシルファスに作って見せろと用意したのだ。

 今までは用意されたものを食べる側だった。


 用意された鉄板に、鉄ベラ、油引き。

 大阪人の血が騒いだのか、シルファスは俺は結構うるさい方ですよ? と今まで落ち込んでいたのが嘘のように活気に満ちていくのがわかった。


 シルファスにとって粉物は作ってもらうのではなく、自分で作るもの。

 だから、自分ならこうしたのに、どうしてしてくれないんだ?

 みたいな葛藤が表情に現れた。


 洋一は結構要望に近いのを提示してくれた。

 しかしシルファスの好みはもっと繊細で。


 腕をまくり、当時の血を目覚めさせるような繊細なタッチで、たちまちのうちにお好み焼きを焼き上げた。


「今の俺の全力を尽くした一品だ。まずは洋一さん、あなたに食べていただきたい」


「いただこう。君が俺に何を求めているのかを知るために」


 前世ではあまりいい思い出がないシルファスだったが、それでもこれだけは負けないと言う自負があった。

 しかし社会はそれだけでは認めてくれない。

 脱サラしてお好み焼き屋を開いた。

 やたらと客にあれこれを求めるスタイルだったために、客離れが酷くなって閉店に追い込まれた。

 それ以降の記憶は曖昧だ。

 とあるゲームをやりこんだ。その世界の王子に生まれ変わった記憶のみが知るd=ファスの中に残り続けた。


「ああ、これか。君が俺の串揚げに見出しきれなかったこだわりは。カリ、フワッとは異なるもっちり感。全く同じレシピでも至れない領域」


「食べただけでわかるのか?」


「同じ料理人であるからこそ、それを知ったら興味は尽きない」


「!」


 初めて出会った。初めて自分の味を認めてもらえた。

 もし死ぬ前に洋一に出会っていたら、ここまで落ちぶれてはいなかっただろう感覚がシルファスの中で駆け巡る。


「もしよければご教授願えないか? 俺はこいつの仕組みを解明したくて仕方ない。いや、俺がでしゃばるのは違うか。あなたの見極めた真髄、あなたがやるべきだ。他の誰でもない、あなたの見出した味なのだから」


「でも俺の料理は独りよがりで、店を回すのに不向きだ」


「だからこそ、商人ギルドのレシピ登録というシステムがある。正直、俺も料理を組み上げるのは楽しいが商売に向いちゃいない性格をしているんだ。だから登録した。あとは他の国の人たちが勝手に使い回してくれる。もし旅先でそのレシピの模倣に出会った時買った気になれる。だからレシピ作りはやめられないんだ。あなたもそれをやったらいい」


「そうか。それは盲点だった。それなら何かをやりながらでも同時にできる」


「ええ、今はまだ何も答えは出ていない。しかしこの一歩が必ずあなたの支えになる。趣味が見つかった。そこからどう繋げていくかはあなた自身で決めればいい」


「ありがとう、洋一さん。前世で諦めかけてた夢を、この世界で追求することもできるんだと知れた。もう無理だと心のどこかで諦めかけていた。でも、諦める必要はないのだと、そう言ってくれるんだな?」


「むしろどこに諦める必要があるのか俺には全くもってわからない。自分が好きでその道をあゆんだのでしょう? なら前身あるのみだ。俺はそうしてきたし、これからもそうするつもりでいる」


「ははは、悩み通していた自分が馬鹿みたいだ。そうだな、そうだ。自分の道を他人に、ゲームのストーリに委ねたところで納得などできるはずもない。決めた! 俺はこの世界でお好み焼きの伝道師として生きる!」


「その道は深く険しい道のりだとしても?」


「だからこそやりがいがある!」


 ただお好み焼きを振る舞っただけで、シルファスと洋一は分かり合い、ガッチリと固い握手を結んだ。


「なーなー、二人だけでわかり合ってないでオレたちにも食べさせてくれない?」


 ヨルダが洋一の認めた味がどんなものか気になり始めて要望を出した。

 洋一は目配せをする。材料は揃える、必要なものがあるなら言ってくれ、と。


 シルファスは頷き、まずは前掛けを要望した。

 前世で成し遂げられなかった夢の一つを、ゲーム知識とは全く関係ないところで活かすのだ。そしてそれを滅多に集まることのない各国の重要人物の前で披露する。


「これはザイオンの王子としての初めての仕事だ。忌憚なき意見を聞かせていただきたい」


 シルファスはそう告げてからさらに取り分けたお好み焼きを配膳した。

 ソースを塗り、かつぶしをふりかけ、青のりを塗す。

 細切りにした紅生姜を乗せて、箸で食べるように促した。


「あ、あーこれはエールが恋しくなる!」


「ふわ! モッチモチでシュワシュワしてます。でも生ではなく、具材の味もいきいき! 軽いのでいくらでも食べられちゃいますね!」


「これがザイオンの真髄だと? こんな小手先の技で妾の味覚を掻い潜れるなどと……何じゃこれは! 知らぬ味じゃ。悔しいがこれは負けを認めねばならぬ。魚介の風味をここまで繊細に引き出し、なおかつ味にまとまりがある。お好み焼きと言ったか、これは評価を改める必要がありそうじゃの」


「お姉様! これお箸でないと食べてはいけませんの?」


「ナイフとフォークでもいいぞ。むしろ切り分けて食べるのだったらそっちの方が食べやすいまである」


 とある偽者姉妹はそんなやりとり。


「師匠、これ美味しいね」


「ええ、これはポップエールに合う味わいですな」


「ポップエールって何? 聞いたことない」


 エールと聞いて呼び寄せられたのはヨーダである。

 酒には目がないため、吸い寄せられたのだ。


「ティルネさんがアンドールで開発させたキンキンに冷えた微炭酸エール、つまりはビールだよ」


「それ、くれ!」


 秒だった。秒で演技が崩れた。

 そして全員に注がれる。

 ジョッキ、コップ、シャンパングラス。様々な形態のグラスを通じてそれが口に注がれた。


 そして皆がお好み焼きに視線を落とす。

 あとはもう飲み食いするだけのマシーンとなった。


「ああ、これ。この味わい。前世で出会いたかった」


「あいにくと私はここにしかおりませんよ。だからこそ、殿下と出会えた今を喜びましょう。この味は語り継がれるべき味だと。そう評します」


「師匠!」


 シルファスとティルネがガッチリ握手を交わす。

 ようやく分かり合えた師弟。

 そして意気投合した後は迫り来るモンスターをバッタバッタと投げ飛ばし、快進撃。

 順調にダンジョンの最奥にまで進み、それと邂逅した。


『ようこそこの地の災いを退けてくれました勇者よ。さぁ、聖剣の力を解放いたしましょう。聖剣を前に』


「え、え?」


 まだ、ダンジョン内で何もしてない。

 なのにイベントが進んでいることに違和感を覚えた。

 確かにシルファスの知るシナリオ通り。


 が、前提であるダンジョンのクリアもボス討伐も行っていないのだ。


「じゃあ、はい」


『あれ? この聖剣には討伐情報が記載されてませんね』


「もしかしてこれが必要か?」


 洋一が取り出したのは、デーモングリズリーの魔核である。


『はい、はい! これですこれ。これを剣に飲み込ませてください。はい、切ればいいです。そう真っ二つに。これでよし』


 少しのトラブルの後、シルファスの聖剣が魔核を吸収し、妖精と名乗る存在がシルファスの肩に乗った。


『行きましょう、勇者よ。魔王の封印は解かれました。他のダンジョンに封じられた悪魔を討伐し、再び世界に平穏を取り戻すのです!』


「あ、俺のエネルギー上限も増えてる。なんで?」


 妖精の解放。なぜかエネルギー上限も解放されている謎。

 もしかしてこの妖精、ダンジョン管理者だったりしないか?


 何でまた人間を使ってそんな戦に投じるような真似をしてるか謎であるが、そういえば過去にオリンから聞いていた事象と合致した。


 『ダンジョンとは、力を授けた相手と守護者をぶつかり合わせてエネルギーを産ませるものだ』と。

 かつてダンジョンの侵食してきた世界での出来事を思い出す。


 つまりこれはダンジョン側が仕掛けたマッチポンプ。

 聖剣の担い手はダンジョン契約者の継承権を得る? だったら色々と辻褄の合う話だった。

 しかし洋一のエネルギー獲得量も上がったのは不思議なことである。


『……こえますか……聞こえますか』


 洋一にのみ聞こえる声で、シルファスの肩の上の存在、妖精が呼びかけてくる。


『俺ですか?』


『ええ、懐かしき気配を宿すお方。もしかしてあなた様は母君の探し人ではあられますか?』


 案の定、オリンの関係者、ドールだった。

 最古のダンジョン、ミンドレイが生まれるずっと前にこの地に降り立ったオリンが作り、そして使命を与えられた一番最初のドール『武蔵』


 伝説の武人のようでいて性別のないその存在は、洋一の生まれ故郷を彷彿とさせた。


『そうです。俺はここで意識を覚まし、迷っていました。もうここにオリンがいないと知りながらも、居心地が良くて』


『そうでしたか。今やるべき使命は理解されておりますか?』


『エネルギーの全解放。そのためには勇者伝説を準える必要がある?』


『左様でございます。遠い地へ旅立ってしまった母君があなた様に最後に残した一節にこうあります。もしすれ違っていたのなら、勇者と共に道を開け、と。この伝承はきっとあなた様の役に立つだろうと』


 妖精、武蔵からの伝言を受け取った洋一はどうしたものかと考え込む。

 勇者としての使命を全うするシルファスよりも、同じ職人として歩むシルファスを応援したい気持ちでいっぱいだからこそ、迷った。

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