第35話 藤本要のブランド計画④
「さぁて、お前らにはこれからオレの魔法の餌食になってもらおうか」
とりあえずエネルギーは全部もらうつもりでいるヨーダ。
なので周囲に宣伝しながら、相手どった。
ここ、ミンドレイではとにかくダンジョンに対しての知識が無さすぎると言うのもある。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
もはやまともな会話をすることすらままならなくなったアソビィ。
中途半端な知識を私怨で使うと碌なことにならないという典型だ。
オークが巨腕を振るう。地面を軽々と抉り、それはミンドレイ国民にとっては衝撃的な一場面となった。
何せ気軽にはなった動作で中級魔法クラスの威力がある。
格式と伝統を重んじるお貴族様の魔法は、詠唱というネックがあって、ようやくそれと同等の奇蹟を行使できる。
しかしモンスターは素のスペックでそれをやってのけるのだ。
「ヨーダ様、これは何事かの?」
そこへ現れたのが、ダンジョンには慣れっこのジーパの姫君だ。
<ダンジョン管理者反応を確認! これより討伐リソースの奪い合いが始まります>
なるほど、紀伊にもこの声が聞こえてるわけか。
じゃあ、回収しにくるよなと内心で思う。
「ああ、うちの問題児がどうやら粗相をしてしまったらしい。少し手が足りないと思っていたところだ。背中は頼めるかい?」
「相手にとって不足なし。学園ではお披露目することなんてないと思っておったがの。これは鬼人としての面目躍如かもしれぬ」
結局、暴れたりないとその顔には映っていて。
鬼人はどこまで言っても鬼人か、と内心でロイドに哀れみを覚えるヨーダ。
生徒たちは逃げ惑いながらもその戦いを胸に刻んでいく。
中には自分の出世を阻んだ憎い奴。
ヨーダをそう見る生徒も少なくない。
しかし命辛々助けられ、脱出経路を導いてくれた相手に対してそこまで憎しみを抱くことは叶わない。
よもやヨーダと紀伊が別の目的で動いてるとは考えられず、そのノブリスオブリージュを讃え、この人の下につきたいと心振るわせるきっかけとなっていく。
こうしてヨーダと紀伊は自分たちの知らないところでファンクラブができるほどの活躍をしていくわけだが、それを快く思わない人物もいた。
それがアソビィだ。
「何で何で何で何で何で!」
自分の発言に賛同してくれた人たちまで、どうしてそんな奴を称賛するのか!
仲間じゃなかったのか! 裏切られた、悔しい! 殺してやる!
憎しみの連鎖がアソビィの中で増大していく。
寿命を消費してのエネルギー増幅。
それはクーネル家が長井時間をかけて純粋培養してきたエネルギー増幅方法だった。それをフトルの研究室から盗み取ったアソビィは、闇の研究に対して魅入られ、だったら学園ごと葬り去ってやる! と自暴自棄になっていた。
手駒のオークが易々と倒された。ならばもっと強靭で勇ましく、裏切った生徒を巻き込む形の破壊の権化を望んだ。
<ダンジョンよりドラゴンが生成されます>
消費エネルギー:150
さっきのオークの三倍のエネルギー請求量。
数ではなく質で攻めてきた。
空を飛び、炎のブレスを吐き、その上で人を丸呑みするほどの巨躯。
オークさん当分では到底足らない圧倒的存在の生成。
代償はエネルギーの他にアソビィの片腕まで奪った。
望みに対してリソースが足りなかったのだろう。
「いやぁあああああああああ!」
自分が無傷のままで、寿命を対価に物事を成す研究のはずだった。
なのに、どうして自分の腕がもがれ、痛みを感じているのか?
まだ正式にダンジョン契約者になったわけではないアソビィは知らなかったのだ。
ドラゴンなどの
それを媒介にモンスターはダンジョンと契約を結ぶ。
主人の体の一部。むしろ腕だけで済んだのは僥倖であるが、それを予定外と感じ取ったアソビィはこの世で一番自分が不幸であると嘆き悲しんだ。
その怒りの矛先は、当然ヨーダに向かった。
自分が迎えるはずだった『前世知識のハーレムエンド』その邪魔をしてくれたヨーダには痛い目に遭ってもらわなければならない。
「全部お前のせいだ!」
ドラゴンが鎌首をもたげる。ブレスの構えだ。
「責任転嫁がお上手なことで」
「そこ、煽らない!」
否。むしろ自身に注目を寄せているのだ。
被害が他に向かないように。
ドラゴンがアソビィの命令に忠実か、はたまた自由意志で動くかの見極めをヨーダはしていた。
「その女を殺せ! ブレスだ!」
アソビィの宣言に従い、ドラゴンはブレスをヨーダに向けて放出した。
ヨーダは何もしてない。直撃コースだ。
「ヨーダ様!」
紀伊の叫びが校舎裏に響いた。
勝った! あれだけの炎を体全体で覆えば流石に死んだだろう。
そんな予感を覚えるアソビィ。
そして一人葬れば二人も三人も同じ。
学園にはいられなくなるが、こんなふざけた学園認められるはずがない!
自分がヒロインになれないのなら! こんな学園消えてなくなればいい!
あまりに自己的な判断で多くの生徒の人生を棒に振ろうと考えるアソビィだったが、ブレスの着弾点にヨーダの死体が転がってないことに気がついた。
「遅すぎてあくびが出てしまいますわ」
男装姿のヨーダを脱ぎ捨て、そこに現れたのはヨルダ、いや藤本要である。
ドラゴンの認識はヨーダのまま。
それが消失したら見分けがつかないのだ。
「ヨーダ様、生きていらしたのね」
「初級魔法二個で突破したオレを褒めてくれてもいいのよ?」
「あれを初級魔法二つで?」
「守る以外にも手段はたくさんあるのよ? そもそも炎の弱点って何だと思う?」
そんなものあるわけがない!
ブレスは校舎裏を焼き、庭園を焼いた!
空に逃げたわけでもない。
ならどうやって逃げ仰せたのか?
藤本要は服についた土を払う。
「答えを教えてやろうか? 【土塊】を二回だ」
理屈が通らない!
それは初級魔法どころか生活魔法の類ではないか!
アソビィは悶絶した。
しかし状況は変わってない。
こちらの手札にはドラゴンが……アソビィがドラゴンの存在に目をやったところ、ようやく自分が無防備になていることに気がついた。
「私のドラゴンをどこにやりましたの?」
「オレが土の中に隠れてやり過ごしたように、今地面の中でおねんねしてもらってる。知ってるかい、お嬢様。魔法に限界はねぇんだぜ? 特に【蓄積】の加護持ちはお前ら【放射】を上回る。まぁ、ちぃとばかし頭は使うけどな」
「こい! ドラゴン!」
さらに片腕を代価にドラゴン生成を決意するアソビィ。
目の前の女に、ドラゴン一匹じゃ心許ない。
正解だ。
だが同時に不正解でもある。
「懲りない奴だな。回復魔法で部位欠損は治らねぇぜ?」
藤本要の動き出しが見えなかった。
足音を感じなかった。
気配を感じなかった。
そして、紀伊の存在すら目で追うことができない。
同時生成の弊害を、アソビィは甘くみすぎていた。
まだ存在している対象を使役しながらの複数生成。
それは自由意思を許可してしまう。
ダンジョン契約者が、ダンジョン外で使役できる魔物は一体のみ。
同格を二つ生成したのならば、一つは自由意志によって行動する。
ゲーム的に言えばAI操作のようなものか。NPCかもしれない。
能力を限定されない。完全な破壊な権化が、契約者の被害も考えずに暴れることをまだ頭の中で理解できずにいるアソビィ。
「ギャオオオオオオオオオオオオン!!」
初手、眷属召喚。
本体に比べたら小さな、馬車サイズの亜竜が。
人を糧にしてそうな獰猛な存在が、生成されたドラゴンの足元から無辺沸きしてくる。
いや、無限ではない。
アソビィの保有エネルギーがみるみる減っていく。
「ちょっと、やめなさいよ! 私がマスターよ!」
ぎろり。ドラゴンの眼光がアソビィを射抜く。
マスターならば命令を聞く。そう教わったアソビィは理解が及ばない。
ダンジョンの外に出たモンスターが、ダンジョン管理者とその責任者を守ってくれる保証などないということに。
あくまでもダンジョン内での全権委譲。
それが管理者と契約者の間に交わされたやり取りだ。
実際に契約してないアソビィはそれを知らなかったし、フトルもすっかり頭の中から抜け落ちていた。
今、このダンジョン生成組の中で一番力を持っているのはこのドラゴンなのだ。
エネルギーが切れれば、生成者がダウンする。
そうすれば自分がこの世界の王となる。
このドラゴン、決して頭は悪くない。
「早速王を裏切るとか、あんた、家臣失格だぜ?」
が、自分より同格を簡単に無力化してみせた存在を前に。
それはあまりにも隙が大きすぎるパフォーマンスだった。
矮小な存在と見下していた存在の声。
自分の大きな顎で噛み砕いてやろうと、ドラゴンは存在を確かめてその場所へ尻尾を振るう。
弾き飛ばし、握り締め、食う。
必勝パターンだ。
硬くて食えない場合はブレスで温めて食えばいい。
しかしその程度だ。
相手が地中を掘り進み、さらに見えない地中からの攻撃を繰り出してくる存在であることを認知できないまま、ドラゴンの二匹目が地中で身動きを取れずままに過ごす羽目になる時「あ、これ勝負を挑んじゃいけない相手だった」と理解する。
気がつけば体全体が冷え込んでいくのを感じた。
まるで檻に閉じ込められたような感覚。
封印のような生やさしいものではない、もっと根源の奥底から冒涜するような破壊者に覗き込まれているような心地だった。
「おし、いっちょ完了。やっぱデカブツは地中に埋めて冷して殺すに限るな」
これ以上安全な策はない。自慢するように言い放つ藤本要に、信じられないものを見るアソビィ。
先ほどまでの潤沢なエネルギーは、大して活躍しないくせに勝手に死んだドラゴンに使い込まれてしまった。
残りエネルギーは30と少し。
オークを生成しても秒殺されるのは目に見えている。
「さて、お嬢様。両腕を失い、これ以上惨めを晒す前に降参して欲しいのですがね?」
「私はあなたが気に食わない」
「そりゃどうも。前世を過信しすぎた哀れなお嬢さん。世の中は不条理だ。生まれガチャでSSRを引いても、クソみたいな加護で人生を台無しにされることもある。あんたは自分で自分の価値を決められる立場にいた。自らそれを台無しにしたんだ。オレから比べたらあんたの方が羨ましいよ」
「あなた……まさかあなたも?」
転生者なのか?
アソビィの質問に、藤本要は「ご想像にお任せするぜ」とだけ答えた。
「そう、私は頼るべき相手に自ら刃を向けてしまったのね。事情も知らずにごめんなさい」
「ま、罪を償うことから始めるこった。しでかした過去は消えないが、償おうとする者にまで石を投げつけるとこまで落ちたら、そんときは庇ってやるぜ?」
内心でエネルギーをたんまり獲得してホクホクの藤本要。
普段ならもっと厳しめに接するのだが、嬉しさが天元突破してニコニコだ。
アソビィはそれを同じ転生者の自分に向ける優しさと勘違いしてしまった。
クーネル家はまだ伯爵家という身分だけは残るも、アンドール国での代行領主の地位を失い、ドワーフの武器防具の売上も失った。
国内では下の下の生活をする羽目になったが、命までは取られなかった。
それというのも災害の規模の割に負傷者も死傷者も出なかったからだ。
ロイドにヨーダが掛け合ってくれたのだろうことはアソビィにもわかった。
そして自分のしでかした罪の大きさを。
一体自分はどれほど周りに迷惑をかけていたのか。
周囲から恐れられるような目を向けられて自覚した。
「それで、ヨーダ様はどうしてあの罪人に救いを与えたのです?」
咎人に容赦をしないお国柄のジーパ人は、ヨーダの其方に物申していた。
「いや、さぁ。確かに問題行動をしたのはあった。けどあれは起こるべくして起きたものだよ」
「起こるべくして?」
「ああ、このミンドレイって土地はあまりにもモンスター、この国基準で言えば魔獣か? それに対する認識が甘すぎる。基本的にこの国の魔法っておままごとみたいなもんだろ?」
「それを公爵家のあなたがいうの?」
「オレから言った方が説得力が増すだろう? 実際にこの国でえらぶってたやつはオレ以外にたくさんいた。しかし実戦で勇敢に立ち向かった貴族は何人いた?」
「皆無と言っていいかもの」
「だろ? 基本的にこの国の魔法は一発放ったらおしまいなんだ。多くたって5発。それを正確な場所に当てて、さらに威力も上げるとなると生徒には荷が重い」
「それで偉ぶっているというのなら目も当てらぬの」
「それが蔓延してしてしまった。しかし、それが通用しない世界があることを知った。国外に出たら当たり前のことなんだがな、その想像力があまりにも欠如しすぎていた。紀伊様が嫁入りする前に判明して良かったな」
「ゾッとせぬことじゃが、一緒に住む存在がこうも腰抜けじゃと、妾への責任追及が、免れんの」
「ま、そこらへんも含めてさ。貴族連中に少し冷や水を浴びてもらうって意味ではクーネル家のやったことは大きい実績だよ。もしその状態のままジーパと統合したらその矛先がまんま国民に向くわけじゃないか?」
「まぁ、鬼人が一方的に殴られ続ける姿は想像できぬしの」
「で、この話はおしまいでいいか?」
「まだじゃ。隠していることがもっとあるじゃろう? 契約者殿?」
「なんのことかなー? ははは……」
ヨーダは白々しく嘘をついたが、紀伊に追求されてアンドール国のダンジョン契約者であることを自白させられた。
以降は同じダンジョン契約者同士、仲良くしていこうと妙に親身に接してきた。
ますます逃げ場を失うことになるヨーダだった。
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