第20話 藤本要の場外戦術⑤

「ヨッちゃん?」


 洋一の、再度呼びかける声。


「だからそうだって」


 言われると思った通りの感想を述べられ、ヨーダ、要は肩をすくめた。


「なんか縮んだ? 髪も金色だぁ。最初は騙りだと思ったけど、餃子を注文するなんてまだ一人もいなかったからなぁ。ヨルダから聞いた限りでは食べ方も熟知していたし、確実に本人だとわかるんだけど……」


 脳が理解を拒む。洋一はそう解した。


「出、そっちの子がヨルダか。まさかぽんちゃんのところに行ってたなんて。どんな偶然だ?」


「まって、師匠。この人が探してた同年代の?」


 どう見ても男じゃん。ヨルダの顔にはそう書いてある。


「そっちの男装の甘いお嬢ちゃんとは年季が違うんだよ。男はな、匂いを誤魔化さないんだ」


「うっ」


「ヨッちゃんの場合は無頓着なだけだろう、うちの弟子をあんまりいじめるような真似は寄せ」


「そうとも言う。まぁ、無事に会えて何よりだ」


「さっきの人たちは? ヨッちゃんのお友達?」


 一緒にいた子供たちは随分と身なりが整っていた。

 今の要も同じだ。友達か、あるいは今の境遇で行動を共にする存在だろうかと洋一は考える。

 変貌してしまった腐れ縁を前に、なんて言葉をかけたものかと言葉を紡げずにいる。


「今学校に行ってるんだよ。学園ってーの? そこのクラスメイトでさ。偶然王族と知り合ったんだ。Sクラスに在籍できたおかげだな」


 ヨーダは笑いながら言う。

 そして護衛の都合上、あまり離れてもいられないとも告げた。

 今ここに長居できないと手短にやり取りを交わす。


「王族? 護衛とは聞いてたけど……大出世だなぁ」


「妹は? 家族とは……その」


 どこか言葉を選ぶような態度のヨルダ。

 表面上では出てきた実家のことなどどうでも良いと言っていたが、内心では不安でいっぱいだったようだ。

 しかしヨーダはどうでもいいことみたいに「あん?」と聞き返し、顎に手を置いて「あー」と何か悪戯を咎められた口調になっていく。


 よくわからないが、何かやらかしたのだろう。

 洋一は付き合いが長いからこそ、一目でその態度を看破する。


「ヨッちゃん、もしかして全員魔法でぶちのめしたりなんかしてないだろうな?」


 洋一の質問に、ヨーダの顔がすっと明後日の方向へ。

 これはやってるな。洋一は確信した。

 ヨーダはヘラヘラ笑いながら弁明する。


「悪い。やられっぱなしは性に合わなくて。つい手が出ちまった。でも天地神明に誓って言うぜ! 妹は仲直りした。継母は懲らしめたが、父親には価値があると認められた。お前はやるやつだって、そう認めさせた。そこは褒めてくれてもいいんだぞ?」


「あのヒルダが? どうやって仲直りを」


 ヨルダはあの性格の悪い妹が改心したと知って信じられないと言う顔をした。


「んー? あいつの体を周囲からオレに見えるように屋敷全体に魔法をはって、あとは放置だ。オレの名演技のなせる技かな? メイドや家族の手のひらの返しっぷりも見事でな。一週間もしないうちに死にそうな顔してたな」


「ヤッベェ」


 ヨルダはそのとんでもない魔法を起こした魔力量と、それを行使できる実力に感嘆する。

 目の前には生きた伝説がいると絶賛した。


「そんで、オレはいいけどポンちゃんはどこにいたんだ? 街じゃ全く見かけなかったが」


「俺はこの国で言うところの禁忌の森というところに飛ばされてな。そこで魔獣? モンスターをしばいて食い繋いでたんだよ。冒険者の服を野生動物に奪われてなぁ、葉っぱを巻き付けて生活してたら、ちょうど居合わせた騎士に原住民だと思われてな」


「ウケる」


 普通であれば、そんな境遇に追いやられたら同情するものだが、ヨーダは一切取り合わなかった。

 むしろ洋一ならそれぐらいできて当たり前であると疑ってない。


「んで、騎士様と一緒にこの街に?」


「いや、騎士の目的は別にあってな。その時の騎士の一人がこのヨルダだ。魔獣が強すぎて相手にならないから囮に選ばれて捨てられたんだよ」


「OH」


 少しだけ同情の視線を送る。

 洋一に対する態度と真逆の感想に、ヨルダは少し居た堪れなくなった。

 

「苦労したんだなー。まぁそれでポンちゃんに出会ったんなら万々歳だ。ポンちゃんの作る飯はうまいからな! あとなんか魔法使用回数も全回復するし、ステータスも微増するし」


「えっえ?」


「なんだ、知らなかったのか? オレも昔は底辺んだったんだ。ぽんちゃんと一緒に5年過ごしてただけでこうなった。だからお前もやる気次第ではオレくらいになれる」


「それはヨッちゃんだからだろ?」


「ほら、こいつは自分がどういう存在なのか理解してねぇんだ」


「うん」


 ヨルダは、同じ悩みを持つもの同士理解する。

 ああ、この人も洋一の無頓着さに苦労したのだと。


「で、ポンちゃんはどれくらいこの街にいるんだ?」


 元の性格を知っているからこそ、出てくる言葉だ。

 こうして表に出てきたということは、目的ができたことを意味する。


「オリンを探しに行こうと思ってな。ダンジョンの情報を探してる」


「そうか。オリンについてだが、さっきいた王族の中にジーパ国の留学生がいる。そいつのペットがな、偶然にもオリンと呼ばれていた」


「それがドールだとしたら?」


 洋一の問いかけに、ヨーダはニット笑って見せた。


「本体はジーパにいる。それとこれを渡そう」


 ヨーダは指にはめていた指輪を取り外して洋一に渡した。


「これは?」


「王国で動くときに使える便利なお守りだ。魔導士団であるタッケ家の紋章が入ってる。オレは新しく魔導士団を立ち上げたから不要でな。くれてやる」


 貴重なものじゃないのか? と洋一は思ったが選別として受け取った。


「これを見せれば手紙のやり取りが円滑だ。冒険者ギルドに限るがな。オレはこの国から出られないし、これからは手紙でのやりとりになる。まぁ、ポンちゃんのことは心配はしてないよ。無事を祈ってる。オリンを見つけたらまた一緒に冒険しようぜ。それまでにオレも近辺を整理しとくわ」


 それだけ言って、ヨーダは店を後にした。

 残された洋一達は、その指輪を懐にしまい、厨房へ引っ込んだ。

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