第20話 藤本要の場外戦術⑥

「悪い、遅れた」


 随分と長話をしてしまったと自覚をしているからこその謝罪である。

 普通であれば「そうか」で済むが護衛が護衛対象から目を離した場合はそうはいかない。

 オメガはお冠であった。


「護衛が目を離すなんてどう言う了見だ」


「悪かったって。ちょいとばかり世間話をだな」


「あそこの店のご飯は美味しかった。そう目くじら立てることはないだろう、オメガ」


「しかしロイド様。こいつは護衛の自覚があまりにも」


 オメガの言ってることは正論である。

 護衛が護衛対象を見失ってどうすると言う話だ。

 だが、オメガがいるのにヨーダがどうしても必要か? と言う話でもあった。


「ん? そういえばヨーダ様、リングが見当たりませんわね? どこかに紛失されました?」


「あー、あれか。あれはあげた」


「あげた!?」


 洋一に手渡したリングは、ヨーダがノコノサートから授かったものである。

 実父より渡された大事なものを人にあげるなどどう言う了見だとオメガは掴みかかる。

 今回ばかりはヨーダが完全に悪いので仕方がない。


「誰に!」


「さっきの店の度の料理人にだよ。どうもこの街には人探しに来てたみたいでな。あと数日で大陸を渡ると言う話だ。この指輪には位置を把握する機能がついてるだろ? それを地図と連動させて手紙を送る機会を作った。また食べたくなった時に、寄ってくれって理由でな」


「なんと、あの料理は一時的なものだったか。それは確かに惜しいな。そして縁を持ったことで次に繋げたのだな?」


「家宝を渡す以外の道はなかったのか?」


 家宝。そう、あのリングは家宝である。

 オメガが憤慨するだけの理由があったのだ。

 それをポンと渡したヨーダの神経はどうなっているのかオメガは詰問したのである。


「あの人は権力に興味がないみたいだった。だったら先に恩を打っておいて、旅をスムーズにしてもらう。そこで井伊思いをしたと感じてくれたら、こっちのお願いも聞いてもらいやすいだろう? 確かにオレの身分を証明してくれるものだが、オレにはこっちの身分証がある」


「そちらは?」


「第四魔法師団長の証。【蓄積】と言う加護だからこそできる魔法構築と解放の妙技。それを高く評価してもらったこの腕輪がな!」


「だからと言って手放していい理由にはならんだろうが」


「まぁまぁ。またあのギョーザというものが食べれるのなら安いものだ」


「妾はハルサメという料理が痛く気に入りました」


「ああ、そういうのでしたら僕はコッコ肉のクロッケが美味しかったな」


「なんだかんだでみんな楽しんでんじゃんよ」


 ヨーダは呆れるようにオメガを見渡し、そして学園寮に帰る。

 不思議と今日は周囲を張り付いてる気配を見かけなかったなと思い返した。


「まったく、君という奴は。よもやロイド様を囮にして下手人を誘い出そうとしていたとはな」


 自室に戻り、どうして今日あんな手段に出たのかと訳を話せば、オメガは額に手を置いて唸った。

 唸りもするだろう。わざわざ危険な状況に身を置いたと聞けば護衛の仕事を舐めているのかと言われても仕方がない。


「しかしな、オメガ。ロイド様のお命を狙ってるやつはやけに用心深い。護衛もオレたちだけ二人。狙いどきだと思ったんだけどなー」


「そんなので実際に襲われてみろ。僕たちは破滅だ」


「えー、実際に襲われなかったんだからいいじゃんよ」







 ヨーダたちがそんな呑気な話をしていたころ。

 反王国派は、街中を魔獣に襲わせる大規模テロを企てていた。

 しかし作戦実行前に予想外のトラブルに見舞われていた。


「何? 召喚した魔獣たちがなんの役にも立たなかっただと?」


「はい、解き放とうとしたら急にぶるっちまいまして。まるで恐ろしい上位存在の気配を嗅ぎ取ったみたいに使い物にならずで」


「だから襲撃は失敗したと?」


「へい」


「だが、他にもごろつきたちを雇っていたはずだろう? そいつらはどうした?」


「全員騎士に捕縛されました」


「なぜだ!? よもや我らの計画が露呈していたわけではあるまい?」


「なぜか厳戒態勢でして、怪しい動きをしたやつは軒並み……」


 部下は両手を合わせてお縄になったとジェスチャーした。


「クソ、悪運の強い奴め!」


 反王国テロリスト集団は、テーブルを強く叩いた。

 テーブルの上にはロイドの他に、紀伊の映像記録も残されていた。

 キルリストである。

 国際問題にして、ミンドレイの立場を悪くしようという企みであった。

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