第19話 おっさん、蘊蓄を語る④
「ギルドマスター、お話が」
「何かわかったか?」
受付嬢のセセリアに調べさせていた図鑑の件について、報告があった。
「実は該当するモンスターが、どこにも存在しなくてですね」
「やはりか。既存の野生動物のどれにも該当しない、だろう?」
「知っていたんですか?」
「ああ。外れて欲しいと思っていたが、まさか当たるとはな」
「ベア吉君は一体どんな生物なんですか?」
「俺の予測では……」
禁忌の森に封印されている存在の可能性を持ち上げる。
「まさか!」
「もしあれが禁忌の森から出てきた存在だとしたら、この国は終わるかもしれない」
「あんなにもふもふで可愛らしいベア吉君が?」
セセリアは信じられないという顔をする。
「俺の右目をやったのと同一存在だとしたら、だ」
そこには深々と切り付けられた傷跡があった。
未だの死の傷は生々しく、ほとんどは眼帯で各dされているが、未だ傷はいえることがない。
「ヨウイチさんには随分と懐いてるように思いましたが?」
「飼い慣らした存在が料理人の顔をしてこの街にやってきた。俺はどう扱っていいかわからん」
「でもヨウイチさんのお料理、すごく美味しかったですよ?」
つい昨日のことを思い出しながらセセリアは語る。
「お前はあの肉をなんだと思った?」
ギルドマスターは顔面を両手で覆い、机に突っ伏している。
どんな肉か?
確かに食べたことのない味わいであった。
「えーとオーク肉よりは随分と硬く、ミノタウロスよりは柔らかい。うーん、想像できませんね」
「俺の味覚が正しければ、あれはワイバーンだ。騎士団時代に
「えっ」
「昨日駆け込んできたお貴族様の獲物を横取りしたのがその新人である可能性が浮上している」
「あー……、ベア吉君が懐いていて、ついでとばかりにワイバーンも狩っている?」
「問題はその方法だ。見たところ、獲物の類が見当たらないんだよ、あの新人は」
「あ、確かに。でもお連れ様が魔法使いでしたし?」
「ワイバーンがなんて異名で呼ばれてるか知らないのか?」
「魔法使い殺し、でしたっけ」
「ああ、山のような巨体。上級魔法以外は受け付けず、基本空の上だから魔法の射程外。その上向こうからは攻撃し放題と来ている。騎士が囮になって惹きつけ、その隙を魔法師団が狙い撃ちする。三個師団が集まってようやくだ」
「じゃあ、あのお貴族様パーティだけではどっち道倒せなかったのでは?」
「当たり前だ。だが、実力が足りないと言って諦めさせることができると思うか?」
「無理そうですねぇ」
ただでさえ貴族という存在は、わがままだ。
自分が目立つためならなんでもするし、平民がいくら死んでも自分には関係ない。むしろ自分が目立つための礎になったんだから感謝しろと平然と言ってのけるのである。
「知らないとはいえ、横取りした相手だ。憎からず思っていることだろう」
「ヨウイチさん、大丈夫でしょうか?」
「ゴールデンロードに通ってる限りでは安心だろう」
「確かあの店のオーナーさんは?」
「元Sランク冒険者だ。その上で貴族であらせられる」
「どちらにせよ、彼らでは相手になりませんね」
「だからこそだ、タダで食べ損ねた。その料理を食べたくて仕方なくなってる頃合い。いつケチをつけられるかわからんだろう?」
「でも、ワイバーンを狩れる存在なんですよね?」
「ああ、どんな手段を使ったかわからんが。だからこそ衝突させたくない。もう俺たちの責任で背負いきれない案件になっている」
「まだ来て一日目ですよ?」
「きっと、不幸な星の元に生まれたんだろう」
「私たちで何かしてあげられないでしょうか?」
「接触しないように仕事を斡旋するくらいしかできないな。せめて貴族のツテがあれば変わるんだが」
「難しいですね」
そうだよなぁ、とギルドマスターは机に状態を突っ伏したのだった。
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