第18話 おっさん、本領を発揮する⑤
それからしばらくして、長期討伐に向かっていた貴族パーティ『豪華絢爛』がすごい剣幕で帰ってきた。
どうやらお目当てのモンスターが見つからなかったらしい。
確かワイバーンを討伐にしに行ったはずだ。
帰るのは数週間後を予定していたが、ほぼ行って帰ってくるような蜻蛉返りの速度で戻ってきている。
調査不足もあるんじゃないか? という考えがギルドマスターの頭から離れない。
しかし貴族のお坊ちゃんたちは非はギルド側にあると頑なに信じ込んでいた。
少しも損はしたくないとその顔に書いてあった。
「どういうことだ、ギルマス、目標物が存在していなかったぞ? 準備が全てパアだ! ギルドは今回の責任をどのように負ってくれるのか!」
子爵家の三男坊が自分が世界の中心であるかのような高慢な態度で帰るなりギルドマスターに口角泡を飛ばす。
「依頼主への確認は済まされましたか?」
「する訳がない! こちとら被害者なんだぞ! 迷惑料をもらってもいいところだ! ああ、気分が悪い。Bランク冒険者のボク様の気分を損じたことは大きな損失であると理解するがいい」
「それよりも随分と美味しそうな匂いがするわね。自分たちだけ美味しい思いしたのかしら?」
専属魔法使いの女が冷酷な瞳をギルドマスターへと向ける。
受付嬢がそれに対してあっけらかんと答えた。
「新しく冒険者になった方が、今度世話になる酒場での予行演習にと食事会を開いたんですよ」
「あたしたちの分は? 当然残してあるんでしょう?」
「おかえりになられる期日は随分と先でしたので、全て平らげてしまいました」
「は? 平民の癖して生意気よ、あんた?」
男爵家の三女が受付嬢に詰め寄った。
「よせ、リンダ。ボク様たちが誰かの食べ残しなんて口にできる訳がない。その店に案内しろ。直々にタダでご馳走になってやる」
子爵家の三男坊が当然の権利だ! とばかりに振る舞った。
目上の貴族に対してはコソコソするくせに、格下だとわかるなり傲慢な態度をとりたがる。これがこの国の貴族だ。
恥などという項目は男の辞書に記されてはいないのだろう。
「やめておいた方が賢明かと」
「あんた、元騎士団長だからって現役貴族のうちらに刃向かえると思ってんの?」
「何せそのお連れ様方の髪色はハニーブロンドでしたので。多分生まれは侯爵、あるいは公爵の可能性が非常にお高い」
「なっ!? だが冒険者なのだろう? 先輩として社会勉強を教えてやる」
「忠告はしましたぞ?」
「ふん、こちとら貴族様なんだぞ、すぐに正体を暴いてやるさ」
傲慢貴族の子爵家三男坊は、教えてもらった店に乗り込んで、そこでも傲慢な振る舞いをした。
「ボク様がきてやったぞ、控えおろう!」
ギルドと同様な振る舞い。
こんな場末の酒場に来てやったのだ、光栄に思うがいいとその顔は物語っている。
しかし、客たちから一斉にその態度を咎められた。
客層を平民と侮ったのが運の尽き。
そこに集まったのは伯爵を含む高位貴族ばかりだった。
洋一の腕前を偉く気に入ったワイルダーの計らいだった。
「ワイルダー君、あれは今日の予約客にいたのかね? せっかくの料理が不味くなって構わん。摘み出しなさい」
「ハッ、今すぐに」
「おい、はなせ! ボク様は子爵家のご子息様だぞ!」
「空気の読めない野郎だな。今日は貸切だ。それも上得意様のな。子爵家? そりゃ結構。だが今日は懇意にしてくださっている侯爵様のパーティーだ。子爵がなんぼのもんかは知らないが、帰っておくのをお勧めするぜ?」
「ボク様はBランク冒険者様だぞ!?」
「そうか、俺はSランクだ。用事はそれだけか? だったらさっさと帰ってくれ。目障りなんだよ」
圧倒的力量差で、ねじ伏せられる子爵家三男坊。
男爵家息女達も今回ばかりは分が悪いと逃げ出していった。
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