第18話 おっさん、本領を発揮する③
「なんか一瞬、あの熊デカくならなかった?」
「気のせいでしょ、サイズが変わるクマなんて見たことないわよ」
「あの毛色、間違いない!」
ただ、それを見たギルドマスターだけが震えていた。
目に向けて振り下ろされたような爪痕をさする。
かつて騎士団長をしていた時に、禁忌の森で遭遇したデーモングリズリーを思い出した。
「ギルドマスター? どうされました?」
「いや、気のせいだ。あれが
「なんのお話です?」
いきなり等級を出されて疑問符を並べる受付嬢。
ギルドマスターはますます洋一から目を離せなくなった。
「兄さん、こんな大層な獲物、どこで捕まえたんだい?」
一人の若者が肉のサイズに驚き洋一に声をかけた。
「こいつはな。町に来る道中で見かけたんだ。長旅になるだろうから、なるべく食い出がある奴がいいだろうなと捕まえて加工したんだよ。今ステーキにして出してやるから、待っててくれよ」
「このサイズのモンスターをステーキで出すのか。少し味が淡白になりすぎないか?」
「お、兄さんわかる口だね? そうさ、そのまま食えば少し淡白だ。だから仕事をするんだ。俺は料理人だからな」
観衆に見守られながらの一枚目。
十分に火が入った石の板の上、ティルネが作ったラードをぶちまけ、その上に白身が多い肉を置く。
ジュワーッ パチパチ!
最初に少し乾燥させているので、肉汁は閉じ込められているが、それでも内側から膨らんで油が弾けた。
「師匠、お鍋の準備できたよ」
「ありがとう、ヨルダ。肉ばかりじゃあ、消化に悪いだろうと思ってな。今日はスープも用意した。野菜たっぷりのスープだ。うちの弟子は農家のジョブも持っていてな。彼女の作る野菜は格別だ。生で食っても美味いものを用意させている。そっちも期待しててくれ」
洋一はスープの味見をしながら肉をひっくり返した。
焼き焦げた表面からは独特の肉の香りが広がっている。
もう匂いだけでうまそうだ。
味付けはシンプルに塩と胡椒。
一緒になんらかの葉っぱが添えられて、切り分けられて陶器の上に盛られていく。
「さて、お待たせしたな。俺からの奢りだ。味見は先着順で頼む」
ワッ!
人垣があっという間に集まって、皿に手を伸ばした。
「なんだこれ、うめぇ!」
「こっちのスープも体に染み渡るわ」
「おい、これを奢れるっていったいどんだけの金持ちなんだよ」
冒険者たちは称賛を並べ立てる。
ただの食事がこの町ではどれだけ珍しいことかは考えるまでもない。
「ギルドマスター、美味しいですね」
「あ、ああ」
この味、もしかしなくてもワイバーンか?
一度騎士団時代に上司から尻尾の肉を食べさせてもらったことがある。
受付嬢や平民の冒険者はまず手が出せないレベルの高級品。
それを無償で? どうかしている。
しかし洋一はどこからどう見ても金を持っているようには思えない。
じゃあどうやってその肉を仕入れたか?
まず間違いなく単独で仕留めている。
もしあれがミソロジーのデーモングリズリーであったのなら、それも可能かと思い至った。
考えれば考えるほどに、味がわからなくなる
口の中はうまいと感じているのに、ギルドマスターの胸中では悪い予感がむくむく湧き上がっていった。
「すいません、今日はこれで終いです」
そうこうしているうちに、食事会は材料がなくなったという理由でお開きになる。
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