第18話 おっさん、本領を発揮する②

「まぁ、綺麗な毛並みですね。どんな種族なんですか?」


 洋一が抱えながらソーセージを食べさせている。

 頭を撫でさせてもらいながら受付嬢は世間話をした。


「さぁ? 森で拾ったからよくわからん。飯を与えたら懐かれてな。以来こうして一緒に暮らしてる。家族みたいなものかな?」


「あの、テイマーというお話じゃ?」


 疑問が確信に変わる。


「師匠は料理人がメイン技能で、それでモンスターを餌付けできるだけなんだよね」


「えぇ……」


 困惑の受付嬢。

 テイマーというのは昔から動物の声が理解できる、意思疎通できる存在に与えられるジョブだ。

 それだけで馬の世話をしたり、家畜の面倒を一任できる町においては喉から手が出る人材。


「だからメインが料理人なんだよ。ベア吉の食事のついでだ、ついでに何か作るよ」


 ここじゃ手狭だから少し開けた場所はあるか?と聞く。

 受付嬢からは裏庭に修練場があるとのこと。

 洋一達はそこを少し借りることにした。


「なんだなんだ?」


「しらねぇ奴がなんかやってる」


 見物客がゾロゾロと現れる。

 洋一は食事の参加者は多いほうがいいだろうとみんなに声掛けした。


「皆さーん、今から僭越ながら炊き出しをします。小腹が空いてる方、お金がない方。ちょっと興味をそそられた方。よければ味見してってください」


「おう、セセリア、こりゃ一体何事だ」


「あ、ギルドマスター。新人の冒険者さんがテイムモンスターの餌をあげるついでに炊き出しをすると言い出しまして」


「へぇ、金回りがいいようには見えないがな」


 髭面の大男が受付嬢の背後から現れる。

 どうもギルドマスターのようだ。

 洋一達が何者なのかの確認を行なっているようだ。


「まだGランクですし、仕事も街の中でのものなんですよ。ですがお連れ様に貴族様がいらっしゃいますので」


「それでお前が目をかけたか。だが、実際は違った?」


「はい。お貴族様も砕けた感じで、あっちの男性を信用してるようでした」


「問題は振る舞うメニューだな。依頼はどんなのを扱ってきたんだ?」


「完全新規で、次に向かうのはワイルダーさんの酒場の『ゴールデンロード』です」


「初っ端からそこ? 皿洗いってわけじゃねぇんだろ?」


「ジョブは料理人兼テイマーという不思議なお方で」


「メインがテイマーじゃねぇのか?」


「なんでも、餌を与えたら勝手に懐いたとかなんとか」


 モンスターが人間の振る舞った餌に懐く?

 聞いたことのない話だとギルドマスターは首を傾げた。


「まずはお手並み拝見だな」


 そんなギルドマスターが注目していくうち、飯時に帰ってきた冒険者たちがゾロゾロと洋一達の奇行に注目し始めた。


「まずは鉄板のステーキだな」


「匂いで釣るのか。お肉は?」


「ワイバーンのでいいだろ。程よく熟成していて頃合いだ」


「じゃあ解体する土台を作るね」


 ヨルダが魔法を連続で行使。

 【土塊】【水球】【着火】【乾燥】の四つの魔法を器用に扱いながら瞬く間に土台は完成する。

 

「は? 魔法を四つ同時に扱う? 冗談でしょ」


「生活魔法も含んでるし、できる人はできるでしょ」


「そういう問題じゃないのよ!」


 ヨルダの魔法を見て、貴族上がりの冒険者らしい少女が息巻いている。

 加護がどうこう言ってたし、冒険者として働いてる時点でヨルダと同じ。

 でも、その運用法は聞いたことがないと凝視している。

 そんな声を聞いてヨルダはちょっと誇らしげだった。


「ベア吉、荷物を出してくれ」


「キュウン!」


 ベア吉はご飯を食べて大きくなるなり、毛皮をゴゾゴゾ弄って、隠していた荷物を取り出した。

 要件を終えたらツノを切ってサイズを元に戻すのは忘れない。

 そのあと何事もなかったように解体していく。

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