第弐話 武士、入学せし
秋 夕刻
名を拝受してから、一年が経過し、十五歳になった。昼食の際に、パラベラム殿に「シモンよ、夕方、私の部屋に来るんだ」と云われ、深縹のカーペットが延々と敷かれた廊下を歩み、パラベラム殿の部屋の扉を三度叩き、扉を開けた。
パラベラム「シモン、酷な事だが、学園へと行く前に、お前に云わねばならない事がある」
シュラハト「なんでしょうか、父上」
パラベラム「単刀直入に云う。お前は私の子では無い。お前はイズモで拾った。15年前の大地震、大津波でイズモは滅び、ヤマトは火山が地震で噴火した事によって、ヤマトは飢餓で滅んだ。その際に、私は騎士団と共にイズモに行きお前と手紙と武具を見つけた。手紙には「この武具はこの子供の物でございます。この子だけはお助け下さい。」と書かれていた」
シュラハト「イズモとヤマトが滅びたなどと書かれた本や、話は聞いていませんよ!」
パラベラム「私が情報規制をして、書物はお前の手に渡らないようにした」
拙者は困惑しながらも、話しを続けた。
シュラハト「わ、分かりました…。父上、武具はどこにあるのですか?」
パラベラム「悲しまないのか?」
シュラハト「血がつながっておらずとも、私の事を家族と思ってくれているのでしょう?」
パラベラム「そうか…。良し、武具を置いた部屋に連れて行こう」
パラベラム殿と共に廊下を歩き、屋敷にある図書館に入り、パラベラム殿が数冊の本を手に取って鍵を本棚に差した。すると、図書館にある魔道書だけの部屋の扉を開け、真中の本棚を扉の様に開けて入った。そこには、打ち刀と短刀と蜻蛉を模した大鎧が置いてある。
パラベラム「これがお前の武具だ」
二尺五寸の打ち刀を握り、刀を抜いて、虚空を斬った。
シュラハト「これが私の武具ですか?」
パラベラム「そうだ、それがお前の物だ。…鎧は下男に運ばせよう」
そう云うと、父上は部屋を出て、やつがれがここに来るよりも前にいる下男が入って来た。
下男「シュラハト様、こちらの鎧をお部屋に運べば良いのですね」
シュラハト「その通り。俺の部屋まで運んでくれ」
下男は十分程度で運び終わり、やつがれは打ち刀の切れ味を確認した。
春 入学の二日前
早朝から馬車でアーレント公国を旅立ち、帝都にある上級貴族用(上級貴族とは公爵・侯爵・伯爵の事を指す)の寮へ向かった。
延々と続く大きめのレンガ道や土を押し固めてできた道や、大戦で生まれてしまった、屏風で区切った様な大山の道や、三千里と続く壁が出来そうなほどの岩の数々の峠を通り、帝都に到着した。
欠けた月と道に点々と置かれた灯りと御者のお陰で、迷わずに寮に来ることが出来たのである。最終確認して、荷物を部屋に運ばせた。
部屋の内装は、中央に置かれた低く面積が長い机と、ソファアと、壁にくっつけられた本棚と、大鎧と、机と椅子と、ベランダと、扉でこの空間と断たれた寝室があった。そして、さほど大きくは無いが、お風呂も付いている。
時間を確認すると、今は十一時。大浴場は十二時まで解放していると説明されて、必要な物のみ持ち、大浴場へと向かった。
脱衣所に入り、服を脱ぎ、浴場に入った。体を洗って露天風呂に出ると、そこには体を大の字に広げて立ち、欠けた月から地上へ放たれる月光を肉体に浴びている筋骨隆々の大男が居た。大男は体勢を戻し、振り向き「こんな時間に生徒が来るとは珍しい。つい先ほど荷物を片付けた所かな?」
シュラハト「私は「シュラハト・シモン・アーレント」と申します。あなたは学園の教師ですか?」
大男「うむ。学園で教師をしている者だ。そして、我が名は「フォルティッシモ・オングル」という名だ!」
シュラハト「よろしくお願いします」
フォルティッシモ「かしこまらず、わしと共に湯に浸かろうではないか!」
そう云われ、大浴場が閉まる寸前まで共に浸かって、のぼせた。
次の日
土地を覚えるために、市場に行ったのだ。裏路地も通ると、ローブを着た華奢な体格の人物とすれ違った。そして、すぐ後に屈強な男たちが走って拙者に問うた。「さっき女が通らなかったか?」と問われ、やつがれは不信に思い、「その者は何者だ?」と問い、男は「通ったんならとっとと教えやがれ!」と怒った。やつがれは刀を抜き、「貴様ら白状せんと云うならば、その首切り落とすぞ」と大声で云った。周囲を見渡せば、十人ほどが我々を見ている。男は「なんだお前、ぼんぼん風情が偉そうに」と怒り、「我が名はシュラハト・シモン・アーレントだ」と大声で言った瞬間、誰かが呼んだであろう騎士が来た。騎士は「何をしている」と大声で云って、拙者に云った。「そして貴様、アーレントだと名乗りよって、逮捕する」と云いながら、近づいた。拙者はアーレント家の紋章が刻まれた懐中時計を見せても、逮捕しようとして来た故、大通りに出て、刀を収め、近くにある訓練所に走って行った。
訓練所に到着すると、運よく外にいた副団長の「ネクローシス・テネブル・グラオザーム」と出会い、説明した。ネクローシス殿は何度か公国に来ている故、拙者の顔を知っており、文通をする程度の仲である。
シュラハト「ネクローシスさん、弁明してください」
ネクローシス「おや、どうした急に」
シュラハト「どこの騎士かは分からないのですが、勘違いしているようで、このままでは俺は逮捕されるんですよ」
ネクローシス「勘違いしている騎士はあれか?」
シュラハト「えぇそうです。頼みましたよ」
騎士「ネクローシス様、そこにいる者はアーレントと名乗る罪人です」
ネクローシス「はぁ。お前、何を勘違いしている。あの方がパラベラム
団長の三男だぞ」
騎士「そ、そんな…訳が、」
一時間後
裏路地に戻ると、「お前のせいでめんどくせぇ事になっただろ」と大声が聞こえた。声の方に行くと、屈強な男が女性の髪を掴み、手錠を付けようとしていた。
「おい、何をしている」と大声で言った。
男「ちっ(舌打ち)またお前か…。来い!」と云うと、ロングソードを携えた屈強な男が来た。首にギルド連合の者であると証明するドッグタグを付けていた。
剣士「おい小僧、死にたくえねぇなら、失せろ」そう云って、剣を抜いて拙者に刃を向けた。拙者も刀を抜き、構えたの。
剣士が剣を振りかざし、避け、剣士の左足の膝下を切り落とし、左手も切り落として、何も云わせず膝をついた剣士の首を切り落とした。すると、男は女性の髪を放し、焦りながら弁明をしたが、構わずに殺した。人を斬ったのは十五年振りだろうか。
女性「な、なんで殺したの!?」
シュラハト「大きな理由は無いが、あのままではさらに貴公の様な人間が更に不幸になると思ったんだ」
女性「だ、だからって…」
刀にこびりついた血を拭き取り、鞘に納めて、服に掛かった血や顔に付いた血を拭けるだけ拭き、寮に帰って着替えて訓練所に行った。そこにはネクローシス殿と数人の騎士が居た。
ネクローシス「なにか忘れたか?」
シュラハト「いえ、にしても今日は騎士が少ないですね」
ネクローシス「明日学園の入学式だろ? だから子供関連で半数が休んでいるし、警備で学園に居たり、後はちょっと前に裏路地で死体が見つかったんだ。確か、剣闘士と素性が分からん奴の二つの死体があったんだ」
シュラハト「えっと…。云いずらいのですが、多分そいつ私が殺しました…」
ネクローシス「……は?」
夜
数時間尋問され、我が魂である刀を取られそうになった。今回は、殺した奴らが黒い噂の絶えぬ者らであった事と、公爵家の人間であるからか、罪に問われることは無かった。大通りを歩き寮に向かうと、裏路地に漆黒を身に纏った人物が立ち、拙者に云った。「貴公…、アーレントの小僧らしいな…! 私は黒煙旅団の…灰羽根のシュヴァイス」そう云うと、左手で来いと手招きして来たのである。シュヴァイスの方に向かって歩き、居合に適した距離にまで近づいた。
シュヴァイスが拙者に殴ろうとし、疾風の如し速度で刃を解き放ち、体を上半身と下半身で断ち切ると、肉体は灰と化し、周囲にある家の屋根から、恐らくシュヴァイスの分身が拙者目掛けて降りてきたが、すぐさま斬り、それらも灰に変わった。左腕で刀を拭き、屋根に居るシュヴァルスを追って、屋根に跳んで着地し、小さめの曲剣を二つ握り、攻撃を仕掛けた。
猛攻を防ぐたびに「キィン!」と金属音が周囲に鳴り響く。
隙を見て反撃をすると防がれ、さらには左手の曲剣で腹に一撃食らいかけるが、屈んで刀を左手で逆手に持ち、鍔を使って背中を突き刺すと同時に、左手首を握った。刀を抜き、柄で肋骨を突き、右手の曲剣の攻撃を避けるが倒れてしまった。倒れた所を攻撃されるが、刀で防ぎ、右手で短刀を抜き、右足を斬り、うつ伏せになって蹴りつけ、起き上がり少し離れた。
二つの曲剣を捨て、ナイフ一本を右手で逆手持ちし、拙者は短刀を鞘に納めて打ち刀を構えた。シュヴァルスが少し走り、鴉羽を生やした状態になり、拙者を蹴り飛ばして首を掴み、レンガの瓦屋根に押し当てて裏路地の方に進み、投げ飛ばされた。
痛みに悶えながらも立ち上がると、打ち刀を落としてしまった事に気が付いた。短刀を握り、一瞬で迫って来たシュヴァルスに蹴られ、倒れた。起き上がろうとすると、背中を踏みつけられ、シュヴァルスが「まさか…ここまで苦戦するとは…、やはりアーレントの血は恐ろしいな…。貴公の首をどこぞやの国にやれば、相当な金と地位をもらえるだろうな」と云うと、大通りの方向から、多数の足音が聞こえた。聞き慣れた声で「おや、金属音が聞こえるから歩いてくれば、なんだか大変そうだな」と云った。シュヴァルスは踏むのを辞め、云った。「……時間を掛け過ぎたか」と。大通りの方を見ると、多数の騎士と右手にやつがれの打ち刀を持ち、左手をポケットに入れて、騎士たちを引き連れたネクローシス殿が居た。ネクローシスさんは打ち刀を地面に突き刺し、「来い」と云うと同時に、拳を「ぽきぽき」と鳴らして、両手に嵌めた手袋を右手だけ外し、迫ったシュヴァルスの顔を右手でつかみ、地面に押し当て、レンガ道が壊れると同時に、シュヴァルスの体は崩壊した。
入学式当日
ベッドから這い上がり、時間を確認すると、入学式の十五分前であった。一瞬で目が覚め、制服に着替えて、鏡越しの己を見る。寝ぐせは無い。制服は白を基調としたデザインだ。打ち刀と短刀を携えて、寮を出た。
この寮は学園の敷地にあり、ここの敷地は学園から繋がっている。歩いての登下校する場所故に、二分で到着した。受付に照明証を見せ、入ろうとすると、剣を所持して入ることは出来ないと云われて、短刀だけ持ち、刀を仕方なく、仕方なく! 渡して入った。
椅子に座り、数分待つと、式が始まった。学園長や理事長や王族や父上や生徒会長が挨拶や一言云うなどを行い、最後に皇帝陛下が挨拶と一言喋った。
皇帝「えー、まず、新入生の諸君、入学おめでとう。私もここを卒業した為、諸君らは私の後輩となる。そして、諸君らはこの学園で、様々な事を学ぶだろう。喜怒哀楽の事があるだろう。友達ができるだろう。いずれ、この学園で体験した出来事の数々は、きっと役に立つ。私もここで経験した事は、現在も役に立っている。以上」
そう云って、恐らく城に戻った。
校内や教室を案内されて、入学式は終了した。
第弐話 終
続
ゲームロード画面風解説「ネクローシス・テネブル・グラオザーム」
リュウグウ騎士団副団長・グラオザーム伯爵家現当主
両手に死の呪いを持って生まれ、忌み子と呼ばれた。シュラハトとは敬語を使わずに話せる仲。
ゲームロー(以下略)
オリエンス帝国の文化では、〇月〇日を、「〇〇の日」と云う。一日や二日と云う物は無い。下記では〇〇(〇月・読み方)と書く。(後付け設定)
初立(一月・しょりつ)冬終(二月・とうはて)春前(三月・しゅんぜん)春芯(四月・しゅんしん)結春(五月・ゆいしゅん)雨時・夏前(六月・うじ・かぜん)夏夏(七月・げか)夏芒(八月・かぼう・かすすき)夏秋(九月・かしゅう)明秋(十月・めいしゅう)初冬(十一月・しょとう)塞寒(十二月・さいかん)
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