第参話 武士、畏怖される
色々ありながらも、季節は夏夏に移り変わり、この世界の常識を殆ど理解した。
そして最近、数人の友人が出来たが、時に拙者が人切りを行っている、という噂が聞こえる。入学する少し前に切った二人以外、人は殺していない。それとも、あの二人を殺した事に尾ひれがついたか、あの件の事なのか。と思い思いで今、拙者と「アルカイック・エクレール・ロワン」との模擬試合が始まろうとしている。
彼は稲妻の如き素早さを持つと聞いている。ここは木の板の床の武術用の教室だ。右側には我々二人の試合が始まる事を、刻一刻と待っている観客たちと、仁王立ちで審判をする教師の「カテドラル・エメ・コシュマール」。
彼の準備は終わっている。拙者も後は兜を被るのみ。武器は双方が得意とする物。彼は片手剣とナイフ、恐らくあれは魔術を放つことができる物だろう。拙者は打ち刀だけ。
兜を被り、大きく吸った息を吐き捨て、準備完了の合図をした。
三日前
いつも通りに廊下を歩いていると、金髪の学生の鞘が拙者の鞘に当たったのである。拙者は我慢できる訳が無く、「貴公、鞘当てなど誰であろうと許さぬぞ!!」と怒鳴ると、男は「なんのことだか」と云い、首を切り落とすつもりで打ち刀を握ると、「俺の子分が何かしたなら俺も謝るが、それで済まないのであれば、俺と模擬試合をしろ」と云われた。それから少しあったが、結局模擬試合が決まった。
現在
カテドラル「試合開始ィィィィィ!!!!!」
開始から五秒、アルカイックは稲妻を纏い、稲妻を放ちながら迫ってくるのが見え、居合で降りかかってきた刃を弾くと、彼は観客が座る少し高めの座席の壁に着地し、拙者に突撃してきて、それを弾く、それが五回続いた。双方が居合で一気に詰め寄り、鍔迫り合いによって生まれたエネルギーが剣ごと床に行き、床に稲妻が走ったかの如く、日々が床を這い、それに耐えられなかった床は陥没した。
拙者は少々体勢を崩し、それを狙った彼が突っ込んできたが、その剣を滑らせ、鞘で左手首を突き、ナイフを落とした事を確認し、打ち刀の頭で喉を突き刺した。そこでカテドラル先生が着地し、「試合終了! 勝者シュラハト・シモン・アーレント!!!」
数日後
拙者の人切り疑惑が重みを増し、治療が終わったアルカイックと金髪の学生に謝罪された。
翌日
近頃、道を歩けば恐れを抱いているような顔で、拙者を避ける生徒が多い。人切り疑惑か、アルカイックとの模擬試合の影響か……。
今朝、拙者に果たし状が送られてきた。内容は下記の通り。
「シュラハト・シモン・アーレント様へ。17時に魔術試射及び訓練用棟の物資保管室で待つ。」
という物。やはり果たし状としか思えぬ。アルカイックの部屋に行き、聞いてみると、
拙者「やはり果たし状にしか見えないんだ」
アルカイック「それ果たし状じゃなくて、ラブレター的なやつだろ。…と云うか、何故俺の部屋に来るんだ。俺はお前の友では無いだろ」
拙者「昨日の敵は今日の友と云うではないか」
アルカイック「その昨日は何日も前の事だろ」
拙者「まぁ良いではないか」
アルカイック「仕方ない。もし、もしもだぞ! 果たし状であれば、俺が見届け人として見てやる。それでいいな?
拙者「助かる。じゃあ、17時になる数分前に噴水で合流しよう」
アルカイック「分かった。武器は一応手入れしておけよ?」
と云う会話をして、現在噴水で待っている。周囲から多数の視線を受けながら。
遅い。遅すぎる。アルカイックは約束を破る人間とは思えぬ。……まさか、あの会話を盗聴し、密かに拙者と対決しようという理由で、アルカイックを止めているのか……。ならば密かな対決、受け入れようではないか!
魔術試射及び訓練用棟に入り、柄に手を被せながら左手で物資保管室のドアを開けると、そこには、胸に手を当てて深呼吸をしている、ロングで恐らく鼈甲色の髪の毛の女生徒が居た。
刀を抜き、刃先を向けて、「我が名はシュラハト・シモン・アーレント!! 貴公が果たし状を送って来た犯人か!!」
女生徒が少し驚いた様な動きを見せながら振り向いた。女生徒は眼鏡を付けていた。「私はアートルム王国の第二王女、「レジーナ・テネブラエ・アートルム」あなたに頼みたい事があって呼び出したの」
そう云うと、眼鏡を外した。既視感のある顔、過去に一度だけ、アートルム家の第二王女に出会った事がある。数年前である故、少し違うが、本物と思われる。
いと美しき緋色の瞳と目が合うと、突如、恋でもしたかの様な気持ちが芽生えた。
詳しくは無いが、アートルム家は魔眼を持つ人物が多いと聞く。魔眼には、千里眼とか予見眼とか覇王の眼とか魅了眼なんかがあると聞く。恐らく、魅了眼を持っているのだろう。
跪き、
拙者「お久しぶりでございます。先ほどのご無礼は申し訳ございませぬ」
レジーナ「あら、わたくしの事覚えていたのね。さっきはもしかしたらわたくしと会った事を忘れている可能性を危惧して、念のため初めて会うような云い方したのだけれど。まぁいいわ」
功績と云う点であれば、アーレント家は他の公爵家よりも良い顔は出来るが、貴族社会では、階級が物を云う世界。実に大変である。
拙者「……それで、頼みたい事とは…何でしょうか?」
レジーナ「私は一週間後に、お父様とお母様とその……許嫁とのお食事会があるの。それで、私はその許嫁の事が、はっきり云って嫌いなの。だから、手紙で私は彼氏ができたって嘘をついてしまって、それで、あなたに彼氏役をお願いしたいの、ダメかしら」
拙者「な、何故私が彼氏役をやるのですか? 他にもいると思うのですが……」
レジーナ「何? 文句あるの?」
拙者「い、いえ」
レジーナ「正直に云うと、あなた顔は整ってる方ではあるし、何よりアーレント家だもの。それに………人だし……」
最後の方は聞き取れなかったが、受けることにした。九分九厘無理やりと云って過言では無いが。
拙者「なるほど。承知いたしました。わたくし、シュラハト・シモン・アーレント、アーレント家の名に於いて、彼氏役を完璧にこなさせていただきます!」
レジーナ「ありがとう。そういえば、云い忘れてしまったのだけれど、お父様が諦めるまでだから、もしかしたら数年掛かるかもしれないから。じゃ、明日また会いましょう」
レジーナ殿が部屋に戻った後、拙者は驚きが消えぬまま、部屋への帰路に就いた。その道中、アルカイックに出会った。
拙者「アルカイック!! 無事だったのか!」
アルカイック「シュラハト! 何があった!!」
先の件の事は云わずに、「貴公の云う「らぶれたー」という物だったさ」と伝えた。
翌日
今日から一か月、長い休みが始まる。そしてやつがれは、これよりちゃんとした礼儀と、ダンスと、蛮性を抑える特訓をするらしい。どうも拙者は、蛮人とでも思われているらしい。実に遺憾である。
終
続く
一口解説
庶民及び貴族の名前
庶民には幼名は無く、産まれてから死ぬまで、常に使い続ける。
貴族は、神から名を貰う。親や兄弟は幼名で呼ぶ事が多い。
四大国家
オリエンス帝国
主に中国とタジキスタン周辺とモンゴル下半分が領土。(領土を書いたメモが読みづらいため少し曖昧)
武力は世界一と称される。
シュークレイド帝国
主にユーラシア大陸及びその周辺。(上記にもあるように、領土を書いたメモが読みづらい為、これも曖昧)
武力はオリエンス帝国と並ぶか、超える。
アストルム元老院君主制国
フランス周辺が領土。砂漠化が進んでいる。
「叡智を優遇し、愚を蔑む」と云う言葉があるほど、知恵を持つ者を優遇する。
四年に一回、賢者と呼ばれる天才を十人選び、元老院議員にする、云わば選挙の様なものがある。
カテドラル民主主義国家
設定一切無し。
武士転生 国芳九十九 @Kabotya1219
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