喰らえ! NTR耐久試験

「須藤さん、お久しぶりです。ちょっとお話いいですかね?」

 須藤が会社を出たと同期から連絡を受け、張り込んでいた須藤のマンション前で声かけを行う。


「誰かと思えば根性ナシか、何だその格好は、遂にスジモンにまで墜ちたのか?」


 失礼のないようにスーツ喪服を着用し、清潔感溢れるスキンヘッド、青タンを隠すサングラスティアドロップを渋々かけてはいるが、こちらの誠意がまるで伝わらなくて悲しい。

 特に青タン隠しにファンデーションを駆使してくれたキウリに申し訳ない。

「キウリもファンデーション使うの?」って口に出して、あわや国際紛争になりそうだったよ……


「おい、ついてこいヘタレ。この先に公園がある。そこで聞いてやる」

「あ、最初に言っときますけどICレコーダーに記録取ってますから。ヤバいことはナシでいきましょう」


 チッと舌打ちが聞こえ、黙って歩き出した。


 公園は所々に照明が点いているが、歩道から少し外れると薄暗い闇に包まれていた。

 そこらのベンチに座り、俺も隣に座ろうとするとアゴで立っていろと指示される。


「それで話って何だよ。言っとくけど舞衣への接触は認めないぞ。

 オマエとこれ以上関わって、俺と舞衣の愛の結晶赤ちゃんに悪影響が出るのも困るからな。


 それとICレコーダーか? 奇遇だが昨日偶然手に入れた。卑怯にも部屋の中に隠されてた。

 オマエの差し金だったら残念だな。舞衣がDVをでっち上げる証拠にするつもりだったんだろ?

 ざーんねーんでーしたー」


 薄笑いのニヤニヤ顔がムカつくが、なんだか舞衣もマズイ状況にありそうだ。

 今日、キッチリ型にハメないとヤバそうな気配がプンプンしてる。


 俺はつとめて感情を出さないように気をつけて、須藤へと話しかける。

「簡単に言うと舞衣から手を引いたほうがいい、と言うことです。

 俺のバイク、舞衣から返して貰いましたが、舞衣は俺に会ったって言わなかったでしょ?

 わざわざ俺の住むさいたまに来て、俺の部屋で酒盛り(ハートランド1本)しちゃいました。


 婚約指輪だってしてなかったし、だから結婚のことも知らなくて。

 妊婦って聞いて安心しました。アレ(婚約指輪)着けてないの舞衣は何も言わなかったから。

 (瓶ビール飲むときの)口の使い方は相変わらず下手でしたね。練習不足です。

 だけど、最後のお掃除で『ポン』って音出すとこは良かったです(動画で見ただけ)」


 NTR(疑惑)を告げられ、みるみる顔色が赤黒くなる須藤。こいつ血圧で逝ってしまいそうなタイプだな。

 もう一押し……上から目線でマウント取るか!


「そんで入籍前って聞いたから、一応親切のつもりで忠告って言うか。

 独身最後の火遊び(大鍋炒め)だから、大目に見るってのも『男の度量』とは言うけど……


 舞衣に関しては、一応俺のほうがアンタの先輩だし、教えてやろうって。

 俺が逃げ出したのも理由があるんだと、それと──」


 ガツンと衝撃が走り、「待ってました」とばかりにティアドロップがひしゃげ飛ぶ。

 馬乗りマウントポジションの体重を感じ、2発目を覚悟したところで、「うわぁっ」と須藤の声が聞こえ、暗闇に「目」と「歯」が浮かぶ。


「ありがとうネギトロ。警察に電話通報するから、そのまま押さえててくれ」


 俺と合わせて喪服にを着たステルス・アフリカ人が、俺の護衛に着いて来てくれて助かった。

「若い頃の高級スリムスーツが捨てられない病」である、渓流スイーツのオッサンにも陰で感謝を捧げておこう。そういや命の恩人でもあったな。



 ◇



 無事に須藤がパトカーで出荷される姿を録画し、同期に一斉送信しておいた。

 警察から、すぐそばの緊急病院で治療し「診断書」を取って、早めに署まで出頭するように言われたが、取りあえずソレは後回しだ。


 須藤のカバンから、シレッと確保していたマンションの鍵を手にし、急ぎ向かう。

 本当なら警察と一緒に踏み込みたいところだが、まだ犯罪化の確信を得られない。そして事態は一刻を争う。


 ネギトロは事情聴取で連れていかれていた。

 良かった。マンションの監視映像に影男シャドーマンが映り、バズる訳にはいかない。


 ……あれ、公園に監視カメラはあったかな? ダメだバズる未来しか無いぞ!

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