不倫の真相

 結局あれから一ヶ月経ったが間男は見つからず、俺は途方に暮れていた。

 怒りの感情をぶつけるはずの相手が消えてしまった、そして……


「…………」


 なんだかかわいそうなくらいやつれた詩織がそばにいて、怒りの感情も少し落ち着いてきた。


 どうすんだよこれ……


 離婚届は既に貰ってきたが、先に間男を片付けてからと思っていたからまだサインはしていない。


 元々明るくほんわか天然な詩織も、毎日どんよりと暗い顔をしながら、会話もなく家事をこなしているだけ…… 

 服もいつもなら可愛らしいフリフリの服を好んで着ていたのに、今はあまり出かけずヨレヨレのシャツばかり着ている。


 自分の行いを後悔して反省…… しているのか? 

 どっちでもいいけど、いつまでも保留のままに出来ないよなぁ。


 ……そして俺はある決意をした。


「詩織」


「……っ!! ……はい」


 不倫をした理由を聞こう、そしてどうするかをいい加減決めようと思ったんだ。


 アホはアホだけど、やつれたアホを見ているのは心苦しくなってきたんだよ……


「どうして不倫したんだ? 正直に話してくれ」


 もし俺に何か悪い所があったのなら…… うん、次は間違えないように気をつけないとな、詩織相手とは限らないが。


 すると、あまり見たことのない真剣な顔をした詩織が、少し目を潤ませながらポツポツ語り始めた。



「一ヶ月前、加藤さんにお茶会に誘われて行ったのが始まりで…… そこで初めて会いました」


 うん、メッセージにあった通りだな。


「最初は主婦の集まりって聞いていたのに、そこに男の人が二人居て…… 帰ろうかと思ったんだけど、加藤さんに引き留められて」


 加藤さんの奥さん、何してくれちゃってるんだよ。


「加藤さんは友達って言ってたけど、二人のうちの一人と凄く親しげで…… 私はもう片方の男の人の話し相手にさせられて、そこで帰り際に連絡先を交換してくれってしつこく迫られて、断り切れずに交換してしまったの」


 うんうん、最初のやりとりは他人行儀で乗り気じゃなかったもんな。


「それで、ちょこちょこメッセージが送られてきて、返しているうちに仲良くなって……」


 で、粗末なキノコを送られてくる仲になったと…… ふむふむ、アホめ!


「そして、その時一ヶ月くらいさっくんに相手にされてなくて寂しかったことをつい喋っちゃって…… それから関係を迫られるように…… 最初は拒んでいたけど、私も当時、色々思うところがあって……」


 うんうん、思うところ? キノコのことばかり考えてたんじゃないの? 『欲求不満です』と書いてあるようなもんだったぞ? あのメッセージのやりとりは。


 まあ、詩織ちゃん的には俺とのことを真面目に相談していたつもりなんだろうけどね? 間男は明らかに俺を悪者にしようとして『きっと旦那さん、浮気してるよ』とか言って詩織を惑わせていたけどな!


 ……俺だって欲求不満だったよ! でも出来なかっただけなのに! チクショー!! ……おっと、話を聞かないと! それでそれで?


「そして、相談しているうちに魔が差して、内緒で一度だけならと…… おだてられて勘違いした私は関係を持つことを許してしまいました! うぅっ……」


 泣くな! 泣きたいのは俺だって言ってるだろ!? 魔が差したからってのを挿そうとしたのか、アホめ!

 

 でも、身体の関係は持ってないとかふざけたことを言ってたよな、あのそうろう……


「そして、ホテルに行ってしまったんだけど、そこで……」


 おっ? 何があったんだ? まさか、ノータッチでフィニッシュとか? それは早撃ちというより特殊能力だな! 


「シャワーを浴びて出てきた私を見て…… 『気持ち悪い』って、相手がトイレに駆け込んで…… うぅぅっ……」


 ……んっ?


「『そんな気持ち悪い肉の塊をぶら下げて恥ずかしくないのか!』って、色々罵倒されて…… うぅっ! 『騙された! こんなゲテモノ食えるか!』とか、『こんなんで反応するか!』って散々ひどいことを言われて、何もせずにホテルを出た所をさっくんに見られてぇ…… うわぁぁん! ごめんなさい! ごめんなさい! 浮気しようとして…… ずっと気持ち悪いもの見せて、ごめんなさいぃぃぃっ!!」


 …………えっ?



 …………いやいや、落ち着くんだ、俺!


『気持ち悪い肉の塊』? 『ゲテモノ』? 何の話だ?


 そして泣きながら腕で胸を隠すように顔を伏せる詩織…… えっ? えっ?


 お、思てたんと違う!!


 今の話が本当なら、ホテルに行ったはいいけど散々バカにされて出てきただけって事? うわぁぁ……


 あまりにも早すぎるホテルから出てくる時間、ショックを受けたように落ち込んでいた詩織、間男のあの反応、帰ってきてから今までの詩織の様子…… パズルのピースがカチっとはまったような気がした…… 知育玩具並みのパズルだが。


 っていうことは…… 本当に身体の関係はなかったんだ。


「うぅっ…… 不倫しようとしてごめんなさい…… 気持ち悪くてごめんなさい……」


 どう声をかけたらいいものか……


 気持ち悪い肉の塊ってアレだよなぁ…… 俺は気持ち悪いとは思わない…… むしろ毎日食べたいくらいだったけど、素直にそう伝えるのは何だか悔しい!


 もし気持ち悪かったらあんなにコネコネしたりバブバブしたりしないだろ? ……それも分からなくなるくらい罵倒されたんだな、詩織…… 不倫なんてしようとするから罰が当たったんだゾ!


 ……笑った方がいいかな? でも、そうしたらトドメを刺しちゃいそう。


 でも、うーん、うーん……


「ごめんね…… ずっと我慢させて…… 喜んでいるって勘違いしてた…… だから最近抱いてくれなかったんだね……」


 ち、違う!!




 実は俺……




 その日は急いでいて、チャックを上げる時に一緒に息子も巻き添えにしてしまって…… うぅっ! 可愛い息子に大怪我をさせてしまったんだぁぁぁー!!  うわぁぁーん!!


 ほっといたら治るだろと思ったら化膿して大変な事になって…… 病院に行ってやっと治ったからもうそろそろシても大丈夫だと思ってたのに!!


 こんな恥ずかしいこと、口が裂けても言えない…… ごめんよ、マイサン。



「裏切ってごめんなさい…… 気持ち悪くてごめんねぇぇ……」


 ヨレヨレのシャツでうつ向いて、土下座に近い格好だから…… うぅむ、シャツの胸元から魅惑的な深い谷の丸みが…… ヤベッ、ムラムラしてきた!


 うん、詩織には罰を与えよう! それが一番良いかもしれん!


《パパ…… ぼくもそうおもう!》


 息子よ、お前もそう思うか? よし、決定!!


「詩織…… 来い!!」


 そして、泣きじゃくる詩織を立ち上がらせて、俺も…… 久々に立ち上がらせた。

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