突撃! 隣の…… 誰?

「だ、誰だお前は!」


「どうもー! そこでへたり込んでる女の旦那でーす! 『だ、誰だお前は』だと? お前こそ誰だよ! てか俺の奥さんとホテルに入って何してくれちゃってんだよ!!」


「だ、旦那!? 何でここにいるんだよ! ……ってか何もしてねーし! こんなやつとなんか…… って! さっきからカシャカシャうるさいな!!」


 おっと、まだ連写モードになってたな…… いっけなーい! ……よし!    


「おぉぉい!! また連写してんじゃねーよ!!」


「んー? だって証拠は集めとかないと…… ねっ? ほら二人ともー、もっと仲良くしなさいよー! ほらピースピース」


 べ、別にダブルピースでも…… いいんだからね!


「て、手なんか出してねーから証拠なんて集めても無駄だぞ!?」


 ……ホテルに入って手を出してない? ……またまたぁー、もしかして早撃ちがバレるのが恥ずかしいのかい? ねぇ? ねぇ?


「早撃ち? ……そもそもこんなやつで勃つわけねーだろ! ……気持ち悪い」


 ……人の奥さんを気持ち悪いだと!? あんな粗末なもん写したのを送りつけといて! ……えっ? 気持ち悪い? なにそれ。


「…………」


 へたり込んだままうつ向き、涙を流しているアホ…… じゃなくて詩織。

 何? 詩織ちゃん、悲劇のヒロインのつもり?  泣きたいのはこっちだよ!


「とにかく! 何もしてねーんだから証拠集めも無駄で、俺は何も悪くねーんだよ!」


 ねーん、ねーん、うるさいな! 貧乏神か、お前は!


「でもね、ボンビ…… じゃなくて君、人の奥さんを口説いてホテルにまで入ってるんだよ? メッセージのやりとりとこの写真を証拠として、今から弁護士の先生に相談したらどうなるかなぁー?」


「うぐっ! し、知らねーよ!! こんな所にいられるか! 俺は帰るからな!」


 おいお前、それ死亡フラグ……


 そして、ボンビ…… じゃなくて、ソーロー…… じゃなくて、間男は俺達に背を向け、逃げるように目の前にある広い道路を早歩きで斜め横断して行っ…… あっ!!!


『斜め横断はいけないぞー!』と言おうと思ったが、道路を横断中の間男に左側から猛スピードで迫る一台の車が……


 ああ、ずいぶん古い車だな、あのドアはガルウィングか? なんて思っている場合じゃない! おい、轢かれるぞ!?


 ……詩織!!


 どうしようもないことをしたアホ女だけど、人が轢かれる瞬間は見せたくない。

 そう思った俺は、詩織の目を塞ぐためにへたり込んだままの詩織を咄嗟に抱き締め、俺自身もその光景を見ないように背を向けた。



 …………あれ? 音が…… しないぞ?

 もっとグシャア! とか、メ◯タァ! とか聞こえるかと想像してたんだけど……


 そして恐る恐る後ろを振り向くと……


 間男が…… いない!

 しかも轢いたと思った車もいない!!


「やったー! 成功じゃー!! ひゅー!!」


 何だ、あの道路で小躍りしてる白髪のジジイは…… 昼間っから酒飲んで酔っ払ってんのか?


 それにしてもどこに逃げやがった、あの男!  ……道路が煙で凄いことになってるけど、まさか…… 煙幕!? あいつは忍者か!?


 それにしては車が通った跡みたいに煙が残ってるが…… まあいい、早速弁護士に相談しに行こう! そうしよう!


「さ、さっくん…… 私……」


 自分のしでかしたことに今更ビビってんのか? 間男の次は…… お前だーー!!


「ご、ごめんなさい! ごめんなさいー!! うぅぅーっ!!」


 泣いたってダメでーす! 許しません!

 ただ、逃げられたら困るから裁きの時まで家で保管しといてやろう!


 そして弁護士事務所に寄る前に、ホテルの前で泣きじゃくり、謝り続けて動かないアホ型ロボットを仕方なく自宅へと連れて帰った。


 

 ◇



 その日は疲れて寝てしまって行けなかったので、次の日に弁護士先生に証拠を持って相談しに行った。

 これだけ証拠があれば十分と言われ、そこまでは良かったのだが、大変困ったことになった。

 ……間男が行方不明になっているんだ。


 現在、間男の家族が捜索願を出しているようだがいつまでたっても見つからず、迷惑なことに防犯カメラの映像を頼りに家に警察が来た。


 ただ……


「やっぱりそうですか…… 防犯カメラにもその一部始終がしっかりと映っていたんですよ…… 何かのトリックとしか……」


 俺が『妻が間男と不倫している現場に突撃し、言い争っているうちにヤツが逃げようとして車に轢かれたはず、だと思ったのに目の前から車ごと消えた』ときちんと説明したら何故か警察も納得してくれた。


 どうも防犯カメラにもバッチリその映像が映っていたらしく、今度はあの小躍りしていた白髪のジジイを探す、とか言ってるのが聞こえた。


 疑いが晴れたのはいいが……


「ごめんなさい…… ごめんなさい……」


『ごめんなさい』しか言えなくなった壊れかけのラジオのような詩織…… こっちは何も聞きたくないわ! 


 そんなに謝るなら何で不倫なんかしようとしたんだよ…… あんたアホォ?


 このまま離婚するしか…… でも、浮気しようとした理由は知りたいかも。

 あと、間男が言っていたことが本当なら『気持ち悪い』と手を出されなかったみたいだが本当なんだろうか……


 気持ち悪いって言ってたが、詩織はナイスバディで抱き心地は抜群、詩織は俺としか経験はないが夜もなかなか積極的で…… それの何がいけないんだよ!


 まあ、俺も詩織しか知らないから誰と比べたかは分からないけどな!


 最近は訳あってご無沙汰だが、カレーライスのように毎日でも美味しくいただける、このボディー!! ……もしかして間男のやつ、カレー苦手なのかな? 甘口が好きそうな顔をしやがって!


 ああ、カレーの話をしてたらカレーが食いたくなってきた!


 ……さーて、飯にするか!


 土下座する詩織の横を触れないように通り過ぎ、俺はレトルトのカレーを用意して、もりもり食べた。

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