妻が不倫相手とホテルから出てきたのだが…

ぱぴっぷ

妻の様子がおかしい!

 俺の妻、詩織しおりの様子がおかしい。

 どこがおかしいかと言われたら上手く答えられないが、とにかくおかしい。


 元々おっとりほんわかとした性格で、友達からは『天然』と言われる詩織だが、それでもここ最近、少し様子が違うように感じている。


「さっくん、お風呂の準備出来たよー!」


「ああ、分かった」


 少しモヤモヤするが、詩織にもそういう時があるだろうと気にしないようにしていた。


「どうしたのぉ?」


 そんなモヤモヤを抱えながらリビングのソファーに座る詩織を見つめていると、目が合って詩織は首をかしげた。


「いや、何でもないよ」


 その手にはスマホが握られ、俺が返事をすると笑顔になったかと思えば、すぐにスマホの画面に視線を戻した。


 ……最近、スマホを見ている時間が多いような気もする。

 時々ニヤけていたりとずいぶん楽しそうだ。


 何を見ているのか聞くと、慌てたように『面白い動画』とか答えるが、指がポチポチ動いてるんだよな。


 怪しい……

 特にここ数日、スマホを見ている時間が長い。


 そして深夜、悪いと思いつつモヤモヤを解消するためだと心の中で言い訳をして、こっそり詩織のスマホを見てみると…… 


 詩織のやつ、男とメッセージのやりとりをしてやがった!


 遡って見てみると一ヶ月前から始まっていて、メッセージのやりとりから想像すると『お茶会』という体で行われた合コンで知り合ったみたいだ。


 近所の加藤さんの奥さんの名前も出ているし、主婦友達で集まって内緒の合コンを楽しんでいたみたいだ。


 そして更にメッセージを確認してみると、詩織はその『お茶会』に一ヶ月前に初めて参加し、その中の一人の男に口説かれているみたいだ。


 最初の方のメッセージでは仕方なく返信している感じがするが、途中から下ネタ交じりの会話になり、ここ数日のやりとりは……


『そんな可愛いのに旦那一人しか知らないなんてもったいない!』


『でも、私は満足してるよ?』


『俺ならもっと満足させるよ、最近旦那さんにしてもらえないんでしょ?』


『うん、でもいけないことだからダメ』


『一回くらいバレないって! ちょっと遠出して、知り合いに見つからないようにすれば大丈夫! それに俺、口もあっちもカタいから!』


『お下品だよー! でも、本当に? 一回なら大丈夫かなぁ』


『大丈夫、大丈夫! 相手にしてくれない旦那なんか一回だけ忘れて、俺とパーッとパンパンしようぜ!』


『もう! そんなことばっかり言ってー!  でも、大丈夫だよね、一回くらいなら』


 うん、アホかコイツら。

 詩織もおだてられてラリってんのか?


 ……はぁっ、まだヤってはいないみたいだが、ここまで詩織がアホだとは思わなかった。


 もうヤる気マンマンじゃないか!

 最近詩織の様子がおかしかったのは、この男とこっそりやりとりをしていたことで、スマホを見て笑っていたのはそういうことだったんだ ……よし、詩織の好きにすればいい!


 このメッセージすべてと、ついでに相手から送られていたちっちゃなアレの写真も全部コピーして保存しておいて…… 詩織のスマホを元の位置に戻し、ベッドに潜り込んだ。


 隣にはすやすやと呑気に眠る詩織が居て……

 つい昨日までは可愛い寝顔だと思っていたけど、今はアホ面にしか見えない。

 ヨダレを垂らして汚いな!


『浮気はダメ!』とか自分で言ってたくせに…… そんな事を思いつつ、無理矢理目を閉じて眠ることにした。




「さっくん、いってらっしゃーい!」


 笑顔で大きく手を振る詩織に手を上げて答えて俺は仕事へと向かう。


 その間にも男とやりとりをしているだろうが後で確認してコピーしておこう。


 とりあえず男と会うのは明後日で、そこでしっぽりずっぽりヤるみたいだから、俺は……


「課長、明後日有給下さい!」


「うん、いいよー」


 よし! 現場に突撃して懲らしめてやる!!



 ◇



 そして決戦の木曜日、詩織には仕事と言って俺は先に家を出た。


 そして家から少し離れた所で様子を伺っていると、おめかしをした詩織が家を出て行くのが確認出来た。


 バレないように出掛ける詩織のあとを付けて歩くこと十分、目的地なのか近所のファミレスに到着した。


 二十三歳とは思えない格好をした詩織、子供っぽいからやめた方がいいと何度も優しく注意したのだが、それでもお気に入りなのかいつもお出掛けの時に着ている…… そんなことはどうでもいいか。


 そして詩織はファミレスの店内をキョロキョロと見渡し、待ち合わせている人物と合流したようだ。


 うわっ、顔はイケメンだが、見るからにザ・遊び人って感じのチャラ男……


 よくあんな男とメッセージのやりとりをしてたな! 下心見え見えの口説きにあっさり落とされて…… 残念だよ、詩織。


 そして軽く食事をした二人は店を出て、歩き始めた。


 肩に手を回され、密着しながら歩き続けることまた十分、一番近くて安いラブホテルへと二人で入っていった。


 しっかりとその様子も写真に収め、あとは出てくるのを待つだけ……


 何で止めないのかって? ……ここまでアホだともう無理だろ。


 ロックしていないスマホには証拠満載、常連といってもいいくらい夫婦で食事をしに来ている近所のファミレスの、わざわざ窓際の席で待ち合わせをして、知り合いと出くわしそうな道を堂々と間男と並んで歩き、これまた近所に一軒しかないラブホテルに入っていく妻だぞ? アホは軽く通り越しているよ。


 でも『あぁ、これからお楽しみか』と思ったら少し涙が出てきた。


 そして、出てくるまでしばらく待機かと思っていたら……


 ……んっ? あれは、詩織? 入ってから三十分も経ってないぞ? 早いな、おい! もしかしてチャラ男くん、早撃ちしたのか?


 しかも入る時は肩に手を回されて入っていったのに、今は二人の間に距離がある。

 しかも詩織はうつ向いて、遠目から見ても落ち込んでいるように見えるが……  まあいい! 突撃じゃあぁぁぁぁっ!!


「コォラァァァァァー!! 何してんだ詩織ぃぃぃっ! 俺を裏切りやがってぇぇぇーー!!」


「さ、さっくん!?」


 スマホの連写機能を使い撮影しつつ、走って二人に近付くと、俺に気付いた詩織は、顔が真っ青になりその場にへたり込んだ。

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