来訪者その3 恐いお姉さん
異世界に呼ばれた3人目の者は、スーツを着こなした女性だった。
「‥‥ちょっと状況が分からないのだけど」
彼女は虹色の大きな光の中から現れた。小人たちは大歓声をあげてたいへん喜んだ。しかし額にSSRと書かれた女は、出て来た早々から不機嫌だった。
小人たちは「勇者さま、勇者さま」と興奮して女にまとわりつこうとする。
「ちょっと、触らないでよ! スーツに皺ができちゃうでしょう!!」
と一喝されると、小人たちは波が引くように女性から一斉に離れる。
囲うように距離を取った小人たちは、皆んなして女を見上げる。瞬時に今回の勇者さまには、絶対近づいてはダメなのだと悟ったようだ。
王様などは「怖いのう。恐ろしいのう」と震えている。
「で、あなたたち何? ねぇ、分かってる? 私の時間がいったいいくらだと思ってるの?」
小人たちを睨みつける女。
彼女はいかにもキャリアウーマン然としており、威圧的に見下ろす振る舞いに慣れているようにも見えた。恐らく社会的立場も上な人間なのだろう。
王様がビビり散らかしてしまったので、小人たちの中からもっとも弁のたつ貴族が姿勢を正し、子細を説明する。すでに2回召喚が行われ、あなたは3人目の勇者さまですよ。先の2人の勇者さまから、なんと鶴と歌を頂きました。という説明までしっかりなされた。
「はあ? 勇者、何それ?」
女は怒り出してしまう。
小人たちはそんな女を勇気を出して宥めようとするが、とりつく島もない。
勇者さまの歌を歌うなどもしたが、むしろ火に油を注いだようだった。
「はぁ? なんなの? ねぇ、さっさと帰して! いい加減にしてよ! 今、クライアントを待たせているの!」
あまりの女の剣幕に小人たちは押し黙ってしまう。
女は腕を組み、小人たちを鋭く睨みつけて、
「それ、前に来た人が置いていったって言ったわね」
女子中学生が作った鶴を顎で指す。
「そうですぞ。勇者さまから頂いた素晴らしい賜物ですぞ!」
さっきまで怯えていたポポンガ王が、勇者さまから頂いた鶴へ話を振られると、喜色を取り戻し、興奮して話し出すのだが、
「あ、そう。じゃあこれ」
と女は心底くだらないと冷たくあしらう。そして蔑んだ表情で財布から万札を取り出し、王様に差し出す。
そのお札を見て、小人たちが互いの顔を見比べて??を浮かべていたのだが、「足りない?」と女はさらに万札を財布から取り出して、雑に地面にばら撒く。
「勇者さま、こんなただの紙なぞ、いらぬのですぞ」と王様が言うと、女がついにキレる。
「あのね、そんな鶴なんかよりもこっちの方がずっと価値があるの。知らない? 分からない? 分からないでしょうね。私は今、それを死ぬ気で稼いでるの。あなたたちのくだらない勇者ごっこで時間を取られている暇はないの。だから早く帰して! それとも安っぽい歌でも歌いましょうか!」と怒鳴り出し、「何が勇者なの? とどのつまりは欲しがってばかりで気味の悪い生き物じゃない! あんた達なんかね! ‥‥」
と言いかけたところで突然、女は消える。貴族のひとりが気を利かして、現世に帰して退場させたようだ。
小人たちは、女が最後に見せた迫力に戦々恐々として、女が消えた後もまだ震えている。
「王様王様。今回はハズレということにしておきましょう」
小人の貴族はそう言った。
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