来訪者その4 警備員の爺さん
「あれま、ここはどこだい?」
警備服を着た初老の男性が現れる。光はほとんどなかった。赤色の誘導棒を持っているので道路警備をしていたのだろう。4人目の召喚者となった男性の額にはRの文字が書かれている。
「ちょっと待っておくれよ。休憩中だったものでね。えっと、メガネ、メガネ」
男性は老眼鏡をつける。そして目を細めて辺りを見ると、
「あらま、驚いた。これは小人だね」
小人たちが何やら騒いでいるが、男性はウンウンと頷いているだけで小人たちの声の内容はあまり届いていない。どうやら少し耳が遠いようだ。
「どうもこんにちは」
初老の男性は小人たちに穏やかに笑いかける。
小人たちは
男性は「こんにちは」とにっこり笑う。そして、「ああ、でも休憩は終わりでね。すぐに現場に戻らなくてはいけなくてね。すまないね。もう行くよ」と言うと胸元のポケットからスマホを取り出す。時間を確認したかったようだ。しばらく画面を眺め、時間がまったく進んでいかないことに気づく。そして、もう少し、じっと目を凝らすとスマホの画面に映る自分の額に文字が書かれていることに気づく。
初老の男性はしばし考え、自分よりも前に来た人間に同じものが書かれていなかったか小人たちに聞く。また他国に召喚された勇者の話も聞いた。
「これは等級かな」
額を掻きながら男性は呟く。
「現場の若い者がね。アプリのゲームをやっていてね。さっき、当たっただのなんだのと騒いでいたよ。それと同じ意味の記号だろう」
この初老の男性は、予期しない不可解な事態にも関わらず、冷静に状況を理解してゆく。年の功なのか、観察眼があり、先の3人よりも視野が広いようだ。
男性は急いで仕事に戻る必要がないと分かったので、座って腰を落ち着かせる。
「フム、すると花火職人なんかは、かなり等級が高いんじゃないかな?」
小人たちはかの国に現れた勇者が虹色で現れたことを教えてくれた。しかし、先ほど召喚した恐い女もそうだったとは伝えなかった。
「西のマヨネーズさんの方はそうでもないような気がするね」とぶつぶつと呟き、「そうか、それで僕はRか。‥まあ、そうだろうね」と続けて、「昔は教師なんかもしていたけれどね。確かに今の僕の事なんか誰も彼もが無視するし、こういう仕事をしていると、話しかけたって僕の言葉なんてもう誰も聞いてくれないんだよ」
少し、しんみりとした感じで男性は呟く。
「僕はそれだけ孤独に老いてしまった」
現れた勇者の物悲しい雰囲気を察した小人たちが、男性を慰めるように彼の周りに集まり出す。男性は笑顔を作り、宥めるように小人たちの頭を優しく撫でている。その間、地面に散らばっている万札を見て、一瞬怪訝な顔をしてから、何かを納得したようにウンウンと頷いてから、ため息を一つつく。
「だいだい状況は分かったよ。‥フム、じゃあ、どうしようか。僕に渡すものなんて何かあったろうか」男性は独り言を続ける。「フフないね。だけれどもね。こんな僕も言葉だけなら少しだけ君たちに贈ることができるよ。これでも定年まで勤め上げた教師だったからね」
小人たちは待ってましたとばかりに騒ぎ出し、男性からの贈り物に期待する。
初老の男性は小人たちに向かって静かに語り出す。
「君たち、異世界の小さな者たちよ」と呼びかける男性は、なるほど確かに教壇に立つ教師であった。少し曲がっていた背がシャンと伸びている。
「君たちは与えられたものを喜びなさい。その事を感謝をもって
分かっているのかいないのか、小人たちは大はしゃぎしている。
「僕たちも気をつけて、君たちにできるだけ良いものを渡せるようにできればいいのだけれどね」男性は少し心配そうに小人たちを見渡している。どういう経緯で警備職のアルバイトをしているのかは分からないが、この瞬間、彼はかつての教師の姿に戻ったようだった。優しげな瞳と目尻の皺から、男性の生きてきた年月や、懐の深い人柄が分かる。初老の男性は話を続ける。「そして、この言葉は多分、これから君たちの世界に訪れてくるだろう僕たちからの、代表者的なメッセージになると思うのだけれどね」
小人たちは大喜びで国歌となった歌い出す。感謝の気持ちを込めて。
「どうかね。僕は君たちの勇者になれたかな?」
そう言った男性の身体は、いつの間にか花で飾られていた。
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