来訪者その1 制服の少女


 最初に王国に召喚されたのは学生服の少女だった。


「えっ? ––––えええええ!」


 驚き叫んでいる少女を見て、召喚に成功したポポンガ臣民は大喜びだった。

 何せ召喚の為に供物とした穀物は国庫の10分の1にもなる。しかし、別次元で暮らしていた生物(勇者)を召喚するのだ。当然ながら膨大なエネルギーが必要となる。それぐらいの出費は覚悟せねばならないだろう。聞けば失敗の例もあるのだという。その場合は召喚の為に要した供物はなくなってしまうのだ。だからこそ一発目での成功は非常に喜ばしいものだったのだ。ただ呼び出す際に放たれる光が噂よりも微弱なものだったのが気にかかるところなのだが。

 召喚された少女のおでこにはRという文字が書かれていた。


「えっ、ここドコ? えっ、小人? なんでなんで?」


 少女が興奮した様子で周りを見回すと、貴族風の綺麗な服を着た小人たちが少女を取り囲んでいた。少女はまだ中学生であり、年相応に小柄なのだが、小人たちはその少女の腰ほどの背丈しかなく随分小型だった。


「おお、勇者さま」「勇者さま」「どうか我らに大いなる勇者の御技を授けたまえ」「たまえー」「たまえー」


 と小人たちは群がった。

 少女は最初の内は戸惑ったが、小人たちがわんやわんやと騒いでる声を、耳を澄ましてじっくり聞いてみたら、自分が呼びされた意図が分かった。


「えっ、私から何か欲しいってこと? 技術みたいな?」


 小人の中でも一際偉そうな王冠を被った小人が体をピョンピョン飛び上らせ少女にねだった。


「そうですぞ。くだされ。くだされ」


 聞けば、小人たちは少女が暮らしていた、つまり我々の世界から、何かしらの知識を授けてほしいのだと言う。


「えー、無理だよ〜。私、学生だよ。しかも中学生」


 と少女は尻込みするが、小人たちは期待して目を輝かせている。とても断れそうもない。


「えー、困ったな。ん〜、何かあったかな? あ、そうだ」


 申し訳ないが、実際のところ中学生に与えられる知識などたかが知れている。呼び出されたのが大人で、何らかの技術職についていれば話は別だろうが。


「じゃじゃーん。それじゃあ、鶴を折ってあげちゃいまーす」


 少女は財布から千円札を取り出す。


「これをこうしてね。こう折って、こっちに折ります」


 小人たちは少女の手際に「おー!おー!」と感嘆の声を上げていた。


「で、最後にここを折り曲げて完成です。どお? すごいでしょう!」


 何の変哲もなかった千円札が見事に鶴に折られたのを見て、


「おお、鳥だ!」「紙から鳥ができましたぞ!」


 小人たちは大喜びで少女から鶴を取り上げて、鶴の折り紙を頭の上に掲げて踊り回った。

 そして、


「褒美じゃ! 勇者様に褒美を取らせよ!」


 王様が一声かけると、大勢の小人たちがポポンガに生息する花輪の冠や腕輪や首飾りを持ち運んできて少女に身につけさせた。少女は花で飾られてゆく。


「あははは。ありがとー。‥‥なんか嬉しいな」


 ちょっと涙目になって少女は小人たちからの感謝を受け取った。


「‥‥ごめんね。こんなつまらないことしかできなくってさ。何かもっといいものを上げられたらよかったのにね」

 

 そんな少女の言葉などお構いなしに小人たちは大喜びだった。

 そして、鶴を掲げた王様たちは少女に別れを告げる。勇者を元の世界に帰すのだ。


「ありがとー」

「勇者さま、バンザーイ」

「勇者さまに感謝を!」


 祝福の声をたくさん受けて、少女はもう泣いてしまっていた。こんな風にあけすけに感謝をされた事は生まれてから一度もなかったからだ。

 だが別れの言葉を告げられて元の世界に送り出されようとした時、少女はある重要な事に気がついたのだった。


「えっ、あ! ちょっと、まっ、千円返して! 私の今月のお小遣い〜〜〜!」


 少女は小人たちからの前から消え去った。

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