偽の太陽は天蓋の下
月野基也
1話完結
偽の太陽は天蓋の下
月野基也
さっきまで少年たちが思いきり漕いでいたブランコは、微かなその重みを余韻に残し、キコキコとしばらく揺れてから静止した。
夕暮れ時。風に乗って運ばれてくる夕食の香りの引力に任せて、子供たちは明日の確固たる約束とともに消えてゆく。ただ一人の少女を残して。
黄昏を反射するほど磨かれた黒い石ころを手で弄びながら、少女はソノ視線に気づき石ころを手からぽとりと落とす。細く柔らかいその首をグニャリと天に向け、大きな二つの瞳は……
*
通称巻き貝と呼ばれている、螺旋状の道が頂上まで続く古墳状の公園。そこに天体望遠鏡を設置し目的のメシエ天体を自動導入する。最近発見された系外惑星のあるところだ。ハビタブルゾーンの中に三つの惑星が廻っていたが、もちろんこの望遠鏡では見えるはずもない。
「それとこれとは話が別か」
サイエンスライターを生業とする彼は、地味だが堅実な仕事で若いがそれなりのオファーを抱えていた。ところが一年ほど前からそんな自分の立ち位置が、ボロボロと崩れゆく崖の上にあるのではないかと思えてしまう出来事が、その身におこっていた。
*
一九四七年六月二十四日。ワシントン州レーニア山上空を一機の自家用飛行機が飛んでいた。目を凝らし探していたのは、消息を絶った弟が乗っている輸送機だった。
*
「では今日の講義はここまで」
大学での文化情報論の講義を終え、常田翔子は長い渡り廊下を抜けて隣の古い建物に入った。ここの三階に常田の研究室がある。水筒に入った冷たい麦茶で喉を潤すと
「さてメールメール」と言いながらタブレット端末で新規のメールをチェックしてゆく。学内のやりとりが大半を占めるなか気になる一通があった。
常田翔子さま
初めまして。
私はサイエンスライターをしております遠藤ハジメと申します。
普段は宇宙開発などを中心に取材、イベントなどに関わっているのですが『超常現象のナゾの謎』というムック本に寄稿しておられた常田先生の記事が個人的に興味をそそられまして、ぜひ一度お話を伺えないかと。
*
一九六一年九月十九日。ある夫婦が休暇からの帰り道、ニューハンプシャー州の道路上で何者かに追跡されていることに気づく。すると旅を共にしていた飼い犬のメルが、涎を撒き散らしてシートを食い千切ろうとしているのを見たあと……夫婦は記憶を失う。
*
遠藤ハジメは愛車を運転しながら東京西部に向かっていた。常田翔子に会うためだ。送ったメールに程なくして返信があり、向こう指定の日時場所で会えることになったのだ。指定されたのは彼女の勤務する大学近くのファミリーレストラン。十七時だ。
「遠藤さんですね」
アポを取った段階でおそらくネット検索で顔写真を見たのだろう。先に着き適当な席に座っていた私をすぐに見つけてくれた。とりあえずドリンクバーで飲み物を取ってきたあと、彼女はテーブルに自ら持ってきたムック本を置くと
「この記事に興味がおありだとか」と言いながらページを開いた。それは超常現象の盲信派、懐疑派両方の説を複数取り上げながら展開してゆくもので、彼女はUFOのページに寄稿していた。
「はい。先生の解説していたUFOを目撃する心理パターンの事例。宇宙人説ではなく、心の内から来るという幾つかの説が大変興味深く」
「でもそこに載せているのは特別変わった説ではなくて、好きな人にはよく知られた話なんですよ」
「そうですか。私はサイエンスライターやってはいますが基本お堅い仕事ばかりで、こちら方面には今まであまり縁がなくて」
「だったら今日はなぜ」
そう言われて、遠藤はアイスコーヒーを一口飲んでから少し小さめの声で話し始める。
「実は……笑わないでくださいね。一年ほど前からUFOを見るんです。もう数回。どれも光り輝く玉といった感じで。大きさはまちまち。一番大きかったときは満月の三倍ほどでしょうか。周囲に細かいトゲというかノイズのようなブレがあって。こういう仕事をしてますし、天体観測が趣味なのでそこから考えうる見間違いなどは排除しました。でもわからない。まさにunidentified (未確認) flying (空飛ぶ) object (物体)。それで自分が納得できる説を探してそういう本を手にとってゆく中で、先生の記事に当たったと」
「そうでしたか。それでこの中にしっくりくる説はありました?」
「なんとなくは……。アブダクション(誘拐)と言うのですか。それをされたわけではありませんが、産道を通る。あるいは光の出口を目指す臨死体験との類似性も書かれていた胎内回帰説なんかは」
「なぜそれが?」
「ええと、そうですね。その……初対面で言うのもアレですが、母を亡くしたんです。一年前に。父は私が高校生のときに亡くなっていて兄妹もいないので。それからなんです。見るようになったの」
それを聞いた常田は一時停止したように暫し虚空を見つめ、我に返ってから
「そうでしたか。お気の毒に……クシュン!」
神妙な顔で言葉をかけた途端、彼女はくしゃみをしてしまった。
「すいません」
遠藤はその一時停止からのくしゃみのタイミングが妙におかしく、笑ってしまう。
心に小さな爆発がおこった。
そのあともムック本にあった説についての細かな解説を聞き、自分の体験とのすり合わせを行なったが、胎内回帰説を含め完全に納得する感じには至らなかった。そこでどうやら常田の時間が来てしまったようで、しかし彼女の方からもう少しこの件で話をしたいと、再度会う約束をして別れた。
家に帰る途中、遠藤は少し後悔をしていた。帰り際、彼女は何かを思ってる風な表情になっていた。やはり初対面で「UFOをよく見ます。母が死んでから」などと言う人間は、あまり関わらないほうがいいと感じさせてしまったのではないか。
「まぁでも、もう一度会う約束をしたのは向こうだからな。たぶん大丈夫だろう」と独り言を呟きながら、いつもよりキラキラして見える街の灯を感じて、運転を続けた。
*
一九六七年十月から、カナダのバンクーバー北にあるキーツ島という孤島に灯台守として一人で住んでいた女性。彼女は毎晩のように、壊れて空気の漏れるバンドネオンが奏でるような音を海から聴くようになり、それを合図の如く現れ乱舞する七色の光を目撃するようになる。さらに暫くすると、シルクのパジャマのような服に、頭から赤いゼリーのようなもの浴びた奇妙な男女の訪問者に悩まされるようになる。
*
某駅近くの居酒屋の個室。遅れて入ってきた遠藤を見て彼女は少し笑った。
「何か?」
「あ、いえ。前回と服装が」
前回彼女と会った時は紺のジャケットにチノパン。今は大きくハンバーガーのキャラクターが描かれたTシャツ姿。
「ああ、前回は仕事の服装で。今日はまぁ普段着です。変ですか?」
いいえと笑いながら、少しの世間話とアルコールを注文する。
「遠藤さんは、UFOイコールETHを完全に否定しているんですよね」
「ETHというのは?」
「extraterrestrial(地球外)hypothesis(仮説)。つまりUFOが宇宙人の乗り物で地球外の惑星からやってくる。という説です」
「ああ、それは否定します。曲がりなりにもサイエンスライターをやってますからね。もちろん数多ある系外惑星、太陽系の外の惑星ですね。さらにハビタブルゾーンと言われる液体の水が存在しうる軌道上にある惑星には、一定の確率で生物がいて、知的と言える状態まで進化している星もあるでしょう。でもそれと宇宙人が円盤に乗って、というのは全く別の話で」
「でも見てしまう」
そう言われ、ため息まじりに「ええ」と答える。
すると常田はテーブルの上の料理を端に寄せ、鞄から取り出したタブレット端末を置き、画面を遠藤に向けた。
「前回言ったように、あのムック本に載せたのはETH以外の説で有名どころを並べたものなんです。編集部からそういうのを求められましたから。でも、私が個人的に考えている事は少し違うんです」
そう言って画面をスワイプし、英字の新聞画面を出す。
「一九四七年六月二十四日。ワシントン州レーニア山上空で、アメリカの実業家が複数の空飛ぶ物体を目撃しました。この事件を報じた際に、記者がFlying Saucer(空飛ぶ円盤)と初めて名付けたと言われています」
「なるほど。じゃあUFO事件の元祖的なやつなんですか?」
「ええ、もちろんその前から空に浮かぶ不可解な物体は沢山目撃されていましたが、これが私たちがよく知るUFO現象の幕開けといっていいでしょう」
また別の記事。
「それと前後してニューメキシコ州ロズウェルの北西、約70マイルにある牧場にUFOが墜落。のちに色々と尾ひれはひれが付いて、宇宙人の死体まで回収されたことになってしまう有名な事件がありました」
遠藤は少し笑ってしまった。彼女は先ほど言ったETHを実は信じていて、それを私に説こうとしてるのか?
「他にも、この年は一気にUFOの目撃事例が増えます。一九四七年。第二次世界大戦終結から二年です。戦勝国とはいえ、アメリカでも多くの戦死者が出ました。残された人達には、直後よりも二年という時を経たその時期の方が、静かで深い喪失感のようなものに苛まれていたのではないでしょうか」
また別の画面を出して話を続ける。
「 一九六一年九月十九日。アメリカのある夫婦が休暇からの帰り道、ニューハンプシャー州の道路上で何らかの空から来た物体に連れ去られてしまいます。その間の記憶を二人とも失っていて、のちにそれが宇宙人にアブダクションされ円盤内部に連れ込まれていたことが催眠療法によって分かりました。その夫婦は黒人と白人。時代的に大きなストレスを抱えて生活していたと思われます。また長時間ドライブの最中でした」
「えっと、常田さんはETHを信じてるってこと?」
二杯目のビールを口にしたあとで、言ってしまった。
「あっ、いいえ、そうじゃないです。こうやって過去の遭遇事例を調べてゆくと、いくつかの共通パターンがあるんです。その中でも私が注目したのは、目撃者に孤独な人が多いこと。またコンタクティと呼ばれる宇宙人と接触し何らかの啓示を受けるような人達も、社会的に阻害された人が多い」
「なるほど」
出された料理に全く箸をつけていないことに二人は気づいて、笑いながらどこにでもある居酒屋料理を口にした。
「遠藤さんはファントムリムという現象を知ってます?」
「ファントムリム……」
「日本語で幻肢。事故などで手足等を欠損した人が、無くなったその部位がまるでそこにあるかのように感じ、また動かせると思ったり痛みを感じたりする現象です」
「ああ、それなら知ってます」
「ある提督が、カナリア諸島での襲撃を受けて右腕を欠損したあと、やはりファントムリムを体験し、これこそが魂の存在する証拠だ。と主張しました。つまり、肉体の一部を失ってもそこに存在を感じることができる。だとしたら最終的に肉体全てを失ったとしても、そこに自らの存在を感じれるのではないか、と」
話の方向が見えないが、彼女が生き生きと喋ってる様子を見るのは楽しい。まぁ多少酔い始めているのだろうが。
「また別に、ドッペルゲンガーという現象は知ってる?」
「もう一人の自分が、ってやつですね」
「そう。自らの目の前に現れるもう一人の他者としての自分。そのシチュエーションは、例えば一人で登山をしている時。もっと言えば遭難している時や、孤島に一人で住んでいる場合。例えばたった一人で灯台守をしているなど、どれも孤独に苛まれている時によく現れる現象なの」
「おっ、孤独というワードで繋がった」
「ピンポン! そう」
クイズ番組の解答権を得たときのように、彼女は手をひょこっと挙げたあと、真面目な顔になって続けた。
「ここからが私の考え。一九四七年にUFOを目撃した実業家は、一人自家用機に乗って消息不明の弟を探すため山脈の合間を飛んでいるときだった。またさっき言ったように、戦後から二年という、一部の人たちにとってはこの時間こそが空虚感を大きくし、喪失感がまとわりついていた時でもあると思うの。その時期にUFOの目撃例が急増した。黒人と白人の夫婦の事例も然り。共通項は社会からの孤独」
「それがUFOを見ることの原因?」
「ええ。ただファントムリムやドッペルゲンガーのように、自らの喪失を内なる自分に求める人たちとは別に、自身という器の外にソレを求める人たち。大きな喪失感や孤独が心に渦巻いたときの救いを、外側の何かに求める人たちがいるとしたらどう?」
そう言われ遠藤は気付いた。最後の家族だった母を失って天涯孤独になった自分。仕事では多くの人に会うが会社に属しているわけではなく、この一年の喪失感は何事でも埋まらなかった。
自分のこと。
彼女は黙って私の目を見つめる。
「寄り添える 誰か を求める」
私はそう答える。
彼女は柔らかく微笑みながら
「自らの孤独という心の欠損に耐えかねた人、人たちの一部は、自分という存在の外側に、寄りかかれる何者かを創り出した。そしてもっと大きな括り。人類として考えてみたらどう。人類を一つの集合意識だと仮定した場合、この地球にずっと一人……私たちは孤独。だからその外側。人類の外に、地球の外に、そうやって……大いなる意志なんて言葉は使いたくないけど、人類という脳の中に生み出した寄り添ってくれる存在。暖かな光。それがUFO現象なんじゃないかって」
常田はテーブルの上に右手をそっと差し出した。それを見て彼女の手のひらの上に、自分の手を置く。すると彼女は、ゆっくりと静かにまた話しだした。
「実は、私もUFOを見ていたの。小学生のときだけど。父は転勤族で何回も転校したわ。友達作りも上手くいかなくて、公園でいつも一人で遊んでいた。そんな時に」
「そうだったんだ」
「誰にも言わなかった。怖い感覚は無かったし。でもそれがきっかけで心理学や社会文化論を学んで今の道にきたの。ずっと自分が体験したことが何の意味があったのかを探していた」
遠藤は頷きながら
「これが答えだと」
「ええ、最近まで確信が持てなかったけど、そんな時にあなたがメールをくれた。会ってみると、天涯孤独になってしまった後からUFOを見るようになった。と言われて、私のたどり着いた答えは、私にとってはきっと正しいと思ったの。そして私たちにとっても……」
そう言って、彼女は遠藤の手をぎゅっと握った。
*
常田翔子とはあれから三週間会っていない。仕事でアメリカの宇宙関連施設をいくつか取材しているのだ。粛々と仕事を進め、今はアリゾナの大地でレンタカーを走らせている。誰かの忘れ物なのか、ダッシュボードの上に小さな緑色の宇宙人のマスコットがちょこんと座っていた。それを見て彼女との会話を思い出す。
UFOそのものは、孤独な人類が求める象徴としてのイメージ。だからまるで魂をイメージするような光り輝く玉であることが多い。じゃあ宇宙人は? 孤独を埋めるための他者ならば、人間の姿であるべきなのに。すると彼女は答えた。
「脳の中のホムンクルス。体性感覚と言って、人間の体の各部位の機能が、脳のどこに対応しているのかを表した脳地図のこと。その脳地図の比率を保って、それをもう一度人の形にした状態を脳の中の小人。錬金術師が作り出す人造人間に例えてホムンクルスと言っているの。その見た目は頭部が異様に大きく目はギョロッと、か細い首に幼児のような胴体、腕と足はひょろ長く女性のような指先。まるで……」
典型的な宇宙人のシルエット。つまりあの形は、脳の中で思い描く人間の本質をイメージ化したもの。社会のしがらみを取っ払って、ただ寄り添える存在を求めるならば、それはあの宇宙人のような姿になるのだろう、と。
そんなことを思い出しながら随分と長時間ドライブをしてきた。休憩のため、道路から外れて車を止め車外に出ると、強烈な太陽が全身を照らす。点在するサボテンは、まるで狂乱のダンスを踊っている最中に、全身から棘が皮膚を突き破り固まったミイラのようだ。赤茶けた大地と岩山を切り裂くように敷かれたアスファルト以外、人工物は見当たらず、高速で走り抜けるトラックが去ってしまえば、焼けつく空気とともに微かな排気ガスの匂いと砂塵が体に纏わり付き、また次の風でどこかへ飛んでゆく。
自らの足元さえ揺らめいているように感じられる熱気のなか、この三週間ほど薄れていたあの感覚が突然、蘇ってきた。たった一人誰も知らない場所で、一匹の私。さみしい。
皮膚がざわつく。体毛が棘のように総毛立つ。
——来る。
次の瞬間、眼前に巨大な白い玉が現れた。大きい。さっきまで私を照らしていた灼熱の太陽の十倍はある。そうさっきまで。太陽は消え、紺碧の青空は漆の黒。光り輝く黒い無限天井のそれに姿を変えていた。星々は一切ない。その中に立体感も遠近感も吹き飛んだ、ただただ白く大きな穴が、いや、魂が浮いている。
何も出来ないまま硬直していると足元が地面から離れてゆく感覚。徐々に体が浮き上がってゆく。違う。そんなんじゃぁない。まるで全身が粒々の小さなビー玉に変化し、摩擦は薄れて着ていた服がさらりと体の輪郭から滑り落ちる。そしてその輪郭も徐々に保てなくなり、白い魂の中にある巨大な白象の鼻息に吸い取られてゆく。
これも幻覚なのか。彼女の説を信じるなら。
いや、幻覚じゃない?
乗ってきたレンタカーの屋根が数メール下に見える。実際に浮いているのか?
もはや眼球すらビー玉になってしまったその視線を上げ、白い魂を見つめると少しづつ、少しづつ、その中心から何かがこちらに向かってきた。
近づいてくる。近寄ってくる。魂の膜を破り、どろり体液を漆の天井に撒き散らしながら、のそりのそりと巨大な白象がビー玉人間の私に向かってくる。その白象には何かが乗っていた。象使いだ。子供の象使い。細い手足に幼児の体。そこから生えた大きな頭。
さらに近付いてくると、その頭のほぼ中央に大きな黒い、まるで私のビー玉眼球など相手にもならないと勝ち誇った瞳が、満面の笑みと共にこちらを見つめていた。
そんな……ほ、ん、も、の?
彼女の説が正しいとか間違ってるとかじゃなく、自分は本物の存在と遭遇していた?
違う。そんなはずはない。彼女の説を聞いたときの溜飲が下がる感じ。彼女も同じ体験をしていたと知った時の救われたような感覚。そして何より彼女の存在。そう、あのくしゃみをした瞬間から、常田翔子に惹かれていた。
でも……私にとってこれは。
だめだ。彼女は怖い感覚は無かったと言ったが……私にはこんな体験はもういらない。おまえの満面の笑みなどいらない。
そして叫ぶ。
「翔子ー!」
叫んだ。叫んで、震えた。
すると声が聞こえてきた。叫びに答える声。彼女の声。
どこだ! どこにいる! 必死に形骸化した自らの体と視線を振り回す。
「ハンバーガーのTシャツは?」
象使いが笑いながらそう言った。
宇宙人が微笑みながらそう言った。
黒い目玉の髪のない常田翔子がこう言っ[#「こう言っ」に取消線]た。
「今度はあなたの番。幼いころ、あの公園のブランコから立ち去ったあなたが、私の『次』だというのは知らされていたの。ただあなたはそれに気づくまで時間がかかってしまった。これで交代。また『次』の人が現れるまではあなたが人類に寄り添ってあげてね」
受け継がれる贖罪の羊。私が人類の孤独という吐瀉物の受け皿になる。
「そうそう。人間の常田翔子とはお互い惹かれあっているから安心して。もしかしたら貴方たちの子供が『次』かもしれないから、白象の乗り心地が悪ければ、早く……」
<了>
偽の太陽は天蓋の下 月野基也 @tsukino-motoya
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