0を無にかえす

猫部部員 茶都 うなべ

裏の顔

一皆さーん!こんにちは時刻は午後1時。

Q-mix RADIO INのお時間です。一

一はい。Q-mixアナウンサーの笹塚昭徳と渡良瀬澪ですよ!一


 今日も始まったか。太陽がポカポカと照らす公園で、夜空のような美しい黒髪を持った少女は微笑んだ。

 彼女が見た目通りの年齢であれば、学校に行っているであろう。しかし、彼女は、神様だった。


―はい!という訳で今日のメールテーマは、

     春が来た〜♩春が来た〜♩です―

―春かぁ。花が綺麗な季節だねぇ

   じゃぁもうすぐ1周年だねぇこの番組―


「花が咲く季節か...しかしあれもやって来る季節じゃな。」


 さっきとうってかわって、困り顔の神様。

 彼女の名前はルナ、月の女神様である。

 そして彼女は自分の見た目を誤魔化すために、自身の見た目を利用し交換留学としてやってきたルナ・カーライトとして生活している。


―ということでテーマメール読んでいこうかえっとね皐月生まれの猫好きお姉さまさん―

―ありがとうございますね。猫が好きなお姉さまなのね―

―笹さんは猫派?私は猫派ですよぉ!―

―うーん...僕は猫いや犬かな...―


 ラジオネームから繰り広げられる会話。彼女はこれがとても好きであった。


 日光を反射して芝生が光り輝く。そこに転がって笑顔で聞く、そして感情が昂る、無意識に魔力を振りまくルナ。


 ルナは知らなかった。ここに住み着いていた幽霊達が、その無意識に振りまかれていた魔力を得て活性化していた事に。


  ――――――――――――――――


「ねぇDさん起きてください。ねぇってばっ!」


 緩く三つ編みて結んだ琥珀の髪を揺らし綺麗な女は、酔いつぶれた男性を起こそうとしていた。


「ごめんねぇぇえ無理だ。」


 もう彼はどう転んでも起きなさそうだ。彼女はそう見切りをつけ、横にいた、


「ごめんなさい笹さん用事があるのでいいですか?支払いは私やるので。」


「ぁあごめんね。Dは僕が責任持って帰すから。また明日。」


「また明日。」


ルナが見回りをする夜。


「起きろー...」


 薄暗い路地で琥珀の髪を持った女性が、埃まみれのスーツを着たおじさんに絡まれているのを見つけた。嫌そうにおじさんの腕を振り払おうとしているが、なかなかに解けない。


「へっへぇー姉ちゃんいいにおいするよ...ねぇ」

「おい。お前ついているぞ」


 絡んだ最初は不機嫌そうな表情だった女性が急に笑顔になったことで、更ににやつくおじさん。


「えーおれ運がついてるのー?いいねぇーお姉ちゃ」

「いや、こういうやつに憑かれてる。」


 手をぶらぁんとおばけのように、彼女は結構真剣な表情をしているのだが一向におじさんは気が付かない。本当に彼には幽霊が憑いているのだ。


「そいつをほったらかしにすると、更に悪いことが起こるよ。」


 おじさんの表情が少し真剣味を帯びてきた。大方心当たりがあったのだろう。心を読む前におじさんの姿をよく見ると、ボタンは取れていたり靴にはガムがくっついている。実に地味な悪いことだ。


「まぁバイバイ。いいことすればきっと消えるから。」


 勢いが怯んだことをいいことに、彼女はおじさんの腕から抜け出し手を振りながら立ち去っていった。


「みえてるからな。」


 一瞬彼女がこちらを振り向いた気がするのだがきっと気の所為だろう。多分、きっと。しかしなんだか聞いたことのある声だった、ルナはそちらの方ばかりに気を取られてしまうが、ルナが一連の流れを見ていたことに彼女は気づいていた。


 あの少女の正体はなんだろう、そう考えこむが一向に思い浮かばない。ネオンに反射する自慢の琥珀の髪を揺らしながら、街に溶け込もうとしている彼女だが、つけている髪飾りがほんの少しの違和感をもたせる。


「水の女神の髪飾り...」


 彼女は今日も触れて確かめる。自らを人たらしめる、髪飾りの存在を...


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

0を無にかえす 猫部部員 茶都 うなべ @tyanomiya_3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画