第9話 想定外
今日も慈善活動に赴いていた。移動中、急に神様が血相を変えて近くの駅前に降り立った。なんの変哲のないその場所に一体に何があるのだろうと思いついていくと、その場の全ての時が止まった。
「えっ、なに!?」
その神の御業に驚き素っ頓狂な声を上げてしまった。
「間に合った」
一言そういった神様の姿がかなり疲れているように見えた。
「時間なんて止められたの!ていうかなにに間に合ったの?」
「ついてきて」
ついていくとそこに一人の女性がいた。
なんとなく嫌な予感がした。
「この人がどうしたの?」
「この人は数秒後事故にあう」
「え・・・」
なんとなく事故で死ぬということを考えていなかった。
今まであった人はみんな病気や衰弱死だった。なんとなくみんな自分の死を受け入れ前向きに次の人生を考えていたような気がする。でも、この人はどうだろう。突然死が目の前に現れた。この事実を突きつけられて冷静にいられるだろうか。神様は覚悟を決めたような顔をしている。これから起こることが何となくだけ予想できてしまった。神様はその女性の時間だけ動かした。
「こんにちは、その命頂戴に参りました。」
「えっ、なにいってるんですか?」
「私は死神です。あなたは、今からあそこのトラックにひかれます。そして死にます。運命は変えられません。その前にあなたの寿命と引き換えにあなたの願いをかなえに参りました。」
神様がなぜそう名乗ったのかは分からない。でも、死神を演じている彼がとてもさみしげに見えた。
「私死ぬの?いやよ、なんで私なの?他の人にしてよ! 」
時が止まっているという現状が目の前の死神と名乗る人の信ぴょう性を底上げしているのだろう。神様の言葉を飲み込んだうえで取り乱し、現実逃避をしている。
彼女は阿鼻叫喚し途中からは彼女の言葉が聞き取れなかった。死を前にした通常の人間はこうなるのだと知った。胸が苦しい、息ができない。彼女の叫びが心に刺さる。しばらくして、落ち着いたのかへたり込んだまま静かになってしまった。
「たすけて。寿命を引き換えに生きさせて」
「それはできません。私は死神なのですから。」
神様はうそをついている。彼は死神ではない。願いをかなえられないのは単純に寿命が足りないのだろう。そして自分の非力さを嘆いているのだろう。力のある神様なら助けられたかもしれない命だ。そんな表情に見える。彼が死神とうそをつくのもやり場のない怒りや恨みを買うためなのだろう。なんて優しくて悲しい神様なんだ。
「なにが神だ!悪魔じゃないか!こんな風に時を止めてまで私に死を伝えて寿命をもらっていくなんて私には家族もいるのにこんな。」
絶望の表情で涙を流す彼女にかける言葉はなかった。
「夫と話がしたい。」
それが彼女の願いだった。
「わかりました。では、電話をできるようにします。それがかなえられる最大限です。いいですか?」
返事はなかったが答えは決まっていた。契約は成立した。
「では、ごゆっくり」
彼女は息を整え、さっきまでの彼女が嘘のように平然を装ってスマホに向かっていた。
「もしもし、そうた?今大丈夫? ごめんね、忙しいのに。 ちょっと声が聞きたくてね。 いま? いまは駅前のスーパーで買い物した帰り。 今日はね、からあげ! 早く帰るのはいいけど事故しないようにね。 体調管理はしっかりしてね。大好きだよ なんでもない。 じゃあばいばい。」
相手の言葉はわからないが、きっと当たり前にあるはずの幸せな未来の話をしていたのだろう。それは命があって初めて見ることができる世界の情景。命があって初めて成り立つ笑って話せるこれからの話。誰もが持ってて当然のもの。彼女にはないもの。
通話を切ったあと名残惜しそうにスマホを胸に抱く彼女の姿がどうしようもなく胸を打つ。
「時間ですね。来世はあなたが幸せでありますように」
「勘違いするなよ死神、今世も幸せだった。あいつさえいなければ・・・」
トラックドライバーを睨む瞳にすべてが詰まっていた。
神様は私を抱きしめるようにしてその場を離れ、それからすぐ時間は動き出した。
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