第5話 失敗

初仕事を終え、疑問に思ったことを聞いた。

「らいと、仕事って結局なんだったの?」

「え、さっきおばあちゃんと話したでしょ」

それが何の仕事だったのだろう。

「話したけど、何の意味があったのかなって。そもそも神様の慈善活動はどんなものなの?」

「そうか、説明してなかったね。神様は基本的には何もしない。ある条件を満たす場合を除いては。」

「条件?」

「条件は死が近いこと」

死が近い。そうか、私が神様にあったのは自殺する前であのおばあちゃんも

もう長くない寿命だったのだろう。

「じゃあ、あのおばあちゃんもってことだよね」

「そう、それで死の近い人間と契約をする」

契約。私のように眷属になったりするようなものか?

「どんな契約?」

「寿命を引き換えに願いをかなえる。これが一番スタンダードなものだよ。簡単に言えば寿命を売ったり買ったりするような感じかな。命にも価値があって徳を積んできた人は少ない寿命でも大きな願いをかなえられ、逆に悪行を積んだ人には多くの寿命を使ってもあまり願いはかなえられない。」

私と契約するときにそのようなことを言っていた気がする。でも寿命を引き換えにかなえたい願いなどあるのだろうか?あれ?

「さっきのおばあちゃんとはどんな契約をしていたの?」

「あぁ、彼女とは残りの寿命すべてと引き換えに孫にもう一度会わせるというものだった。でも、彼女の寿命はあと3日だった。彼女はかなり徳を積み、そのうえ報われない不運な人生を送っていたが3日だけでは死んだ人をよみがえらせるのことはできなかった。」

「お孫さんは死んでたの?」

「そうなんだ。それも不運の一つだね。不運であればその代わりになる幸福を用意するのが神様の役目なんだけど見逃してしまったようなんだ。それで、命の価値を上乗せして願いをかなえやすくしている。それでも死者と会うのには足りなかった。だから代わりに君に合わせた。孫と同い年の君にね。」

えっ、じゃあもうおばあちゃんは・・・。

「じゃあ、おばあちゃんは私を孫の代わりとして死んでいったってこと?」

「そうなるね。」

不愛想にしてしまったことをまた後悔していた。

最後の願いなのだと知っていたらもっとおばあちゃんによりそってそれで私のできる限りの願いを全部かなえてあげたのに・・・。

「私、失敗したね」

「そんなことないよ。彼女は君に孫の姿を見ていた。そして最後には《幸せでした》と言ってくれた。これは君がいて初めて成し遂げられたことだ。失敗じゃない。」

「でも、私は何もしてあげられなかった。」

「そうかもね。でも彼女は孫に何かをしてもらいたいわけではなかった。むしろ何かをしてあげたかったんだよ。少なくとも彼女は君の人生を照らすことはできたはずだよ。」

確かにおばあちゃんに言われた言葉は自分の将来を考えるきっかけになったかもしれない。

「うん。」

「今日はこれで終わりにしよう。家に帰ってご飯だ!」

その神様の明るさが少しだけ私にはありがたかった。


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