第6話 魔物が巣くうムリクスイアの森

故郷の国、トルキア王国を出た俺は、その足で国の東に有る祠へ向かう筈だった。


何でも、別の大陸に瞬間移動ができるというゲートがあるらしい。


しかし、トルキアの追手(国税局)を蒔く為に、あえて反対方向にある凶悪な魔物が住んでいると言うムリクスイアの森に隠れる様に身を潜める。


正直、森に入る前は、いくらトルキア王国で揃えられる最高の武器や防具を装備しているとはいえ、所詮は駆け出しの冒険者だからとビビッていた。


しかし、武器や防具に助けられ、命の危険を感じる魔物はいなかった。


そして、何より驚いたのが、自分の能力スキルである学習能力の恩恵である。


一度見た魔物の攻撃を、自分のモノにできるのである。

最初は、ちょっと苦戦をしたが、そりゃ、2,3日経てば、無双状態になっていた。


(まあ、時にはケアレスミスもするけどね。軽いミスね。そんなの15歳の主人公だから、許される。)


(これが、子供の時に見たマンガのヒーローの能力か?そういえば、一度見た拳法は通じないという拳法家がいたよな。鎧きてるのに拳で戦う拳闘家とか、あれは武道の精神に反していたよな、鎧きてるのに、一度見た拳は通じないとか・・。鎧きている相手を叩くのも、大丈夫ってわかってても勇気がいるよな。俺だったら殴れないもん。鎧着てる奴、拳痛めそうだし、下手すると折れそうだし・・・。だからヒーロ何だって、大人になって気づいたけど・・。)


(よし、童心に返ってイッチョやってみますか・・。)


丁度、手前から見慣れた芋虫みたいな魔物がやって来たので、俺は言葉の通じない魔物に、話かける。


『フッ、又お前か、お前の攻撃は既に見切っている。逃げるなら、今のうちだ。一度見た攻撃は勇者には通用しない。』


グリーン芋虫は、先制攻撃をした。(俺の中の心の実況)


『フッ、仕方が無い。愚かな奴よ。』


アルフは5のダメージを受けた。(俺の中の心の実況)


『なかなか、歯応えの有る奴よ。』


(やっぱり、一度見ただけで通じないって、断言できんよな。毎日のコンディションも違うしな・・。)


グリーン芋虫は、様子をみている。(俺の中の心の実況)


(確か・・・コイツ、貧弱な火炎魔法を口から出したはず、口に風魔法を打ち込めば、直ぐに消える。)


俺は、覚えたての風の呪文の詠唱を開始する。


ポコペンポコペン ウインド・・・。


グリーン芋虫は口の中から、毒汁を出した。(俺の中の心の実況)


(あ、ヤベッ、詠唱が終わる前に、何か吐き出したなあ・・コイツ、ちゃんと俺の様子を観察して攻撃してきた。しかも火じゃないじゃん、なんだ緑色だ。子供の時に見たスライムゼリーみたいだぁなあ)


ゴックン


喉にヒリツク痛みを感じたと思うと、身体が徐々にピリピリと痺れ始める。


(ヤバい、飲んじゃった。詠唱が終わる前に・・又、やり直しだ。)


気がつくと、鼻血が出ている。(うわぁ、何年振りだ・・。鼻血なんて。)


咄嗟に、道具袋に手を入れる。


(毒消し草よ、この指止まれ!!。)


俺のスキル運の良さMaxの恩恵発動、俺は、確認せず、一気に握った薬草を食べる。


(正直、一気食いはキツイ、今度は、粉末か、溶液にしておくべきだな・・。)


『ウインド アタック!!。』と俺が呪文を唱えると、風の真空破がグリーン芋虫を切り裂いた。


(クソ・・ポコペン 言わなくて良いんだ。)


グリーン芋虫は倒れた。(俺の中の心の実況)


経験値1を獲得。賢さが10上がった。(この世界では、戦の後、経験値が数値化され、目視できる。)


(エ、あんなに苦戦したのに、経験値たったの1・・・、こんな戦いで賢さ10上がるのも、少し嫌だな・・。エェイ、ヤケクソだ)


『なかなか、骨のある相手であった。俺の中で永遠に眠れぃ、お主の技と共に・・。』

(この世界の平均寿命って、幾つ何だろう・・医学的に50歳、まさか40歳は、無いだろう・・・)


こんなような死闘を連日連夜繰り返し、気がつけば、ムリクスイアの森に巣くう魔物達の魔法や、攻撃を総て身につけた。もちろん、毒などの特質攻撃の耐性も身につけたのである。


気がつけば、3ヶ月が経過していた。


当然、魔法の道具袋にたくさん入っていたアイテムが底をついた。


母から来た伝書鳩に、暗号を結び、空へ飛ばす。


【太陽は出ていきたいが、雲が出ていれば、出ていけない。雲は未だ出ているか。】


3日後、戻ってきた伝書鳩に結んでいた紙には、【国税局はいなくなったが、多分どっかで監視しているので未だ帰らない方が良いよ。天気の事は、今日の事、それとも、この手紙が届く日、何時の日が聞きたいかわからないと、答える事が出来ません。答える身になって欲しい。】と書いていた。


俺は、総合的判断で故郷に戻らず、トルキア国の東にある祠を目指す事にした。

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