第4話 新しき都市伝説

見の日の午後、暗い顔をして帰宅した俺に、母が心配そうに確認する。


『アルフ、何だか元気が無い様子ね・・・暗いわよ。どうしたの?。』


『いや、一日で生活が一変しちゃって、ちょっと疲れただけだよ。今日は、食欲ないや、もう寝るね。』


『そうね、ごめんなさいね。いいわ、お前の好きにしなさい。ああ、明日ね、もしお前に時間があれば、冒険者ギルドに行って、冒険者登録してらっしゃいね。』


『お城の方から、もらったパンフレットに、書いてあったわよ。』


『メンドクサイね。・・・仕方ないな。明日・・ね。』と母にそう伝え、俺は自分の部屋に向かった。


(最低ランクの冒険者で、旅の資金を地道に稼ぐ、資金が溜まるのにどれだけかかる事やら・・。)


『ご飯台所に置いとくから、夜起きてお腹が空いたら、食べてね!。』と後ろから母の声が聞こえる。


『了解!。』と答えた俺だったが、その日は自分の思っていた以上に疲れていて、布団に入ってそのまま次の日の朝までグッスリ寝てしまった。


次の日の朝、一番に冒険者ギルドに向かう。


冒険者ギルドは、冒険者の管理を行う団体で、仕事の斡旋をしてくれる。


当然、依頼を終えると斡旋手数料は取られるのだが、ケガをした時の保険も加入させてくれるので、冒険者にとっては無くてはならない組織である。


『北町のアルフさん、ハイ、登録が終了しました。銅級ブロンズクラスのライセンスです。』


『自分のライセンス以上のクエストは原則参加禁止です。昇給試験は1年に夏と冬の2回です。』


白銀級シルバークラスへの昇給試験には、100ポイントの実績が必要になります。』


『あと、加入する冒険者組合保険について・・・ウンヌンカンヌン。』


長い研修説明を受け、その日の午後、俺は正式に冒険者となった。


冒険者の特権として、副業の自由という項目がある。冒険者とは、正に実力で稼ぐ職業である。


実力があれば、金持ちにもなれる。しかし、裏を返せば実力が無い者は冒険者一本では食ってはいけない。その為、冒険者ギルドは冒険者に副業の自由を与えていた。


実力の無い冒険者が、自分が冒険だけでは食べていけないと判断した時、直ぐに仕事を替えれる様にという配慮でもあり、又、冒険は命を賭けて行う事もあり、年間の犠牲者も少なくない。


そんな状況である為、冒険者ギルドは大体何時も人手不足。登録者を常に持って置きたいギルドと、収入を安定させたいという冒険者の本音からできた特典であった。


(シメシメ、これは使える特権だ。これを使えば、法の穴を潜って一山当てられる。)


俺の灰色の脳が、探偵としてではなく、商売人として高速回転しだす。


俺の最後のスキル、学習能力が昨日の失敗を見つめ、学ぶ。


『己を知り、相手を知れば100戦戦って危うからず!!孫子なんぞ、失敗した事無いから、自分の事分からなかっただろ。この机上の空論野郎が・・・。俺は、敗北の経験から自分を学ぶぜ!!。』と呟き、俺は有る場所へ向かった。


其処は昨日、女性警備員に罠にめられたあの国営競馬場。


俺は、近くにある売店で、画用紙と画板、筆を買い、絵描きの帽子はこれしかないという帽子を探した。


子供の時に憧れた大マンガ家が被るあの帽子を買い、伊達メガネも用意した。


準備万端で、国営競馬場の職員の人に、話しかける。


『スイマセン、ボク、絵かきを目指しているんです。入場料を払うので、馬を観察させてください!!。馬券は買いませんので・・。』


『君、高校生??』


『いえ、冒険者ライセンスを取ったばかりの冒険者です。これを。』と言って、俺は作りたてのライセンスを職員に見せる。


俺に話しかけられた職員は、自分の上司を呼び止め、事情を説明し確認している。


数分後、許可を下りた。


『それでは、1日のパスポートチケット代 1ゴールドね。』


『ハイ、1ゴールドです。有難うございます。』と俺がお礼を言うと、職員の人は優しそうに俺に声をかける。


『兄ちゃん、若い時は、夢に向かって頑張るのも、いい経験だ。諦めるなよ!!。』


『有難うございます。この御恩忘れません。』と俺は、ワザと筆を持っている方の腕を頭上高くかざしたのである。


(おじさん、俺頑張るよ。競馬の予想屋になって、一山当てたるでぇい)と心の中でガッズポーズをして競馬場のパッドクへ直行したのである。


投票前の馬が見えるパッドクで競争馬の状況、強さを鑑定眼で確認。


その情報を、投票している人に話しかけ教える。


この時、その人がどういう人かも鑑定し、悪人の人には話しかけない様にする。

此処がポイントともいえる。


大体の人は、最初俺の予想を馬鹿にする。しかし、2戦、3戦と俺の予想が当たると、4戦目にはほぼ100%俺の予想を聞きに来る。


その時、俺は初めて商売として、予想を教える。情報料、20ゴールド。

条件は、俺の事は誰にも話さない。


当たっても外れても、それは固定の料金だ。


一日客の数は限定5人、一人1日一回迄、100ゴールド(日本円換算で約10万ぐらいの価値)が俺の一日の収益だ。


1日100ゴールドの仕事を、週5日で1ヶ月続けると、元手の100ゴールドが2,000(換算200万円)ゴールドになっていた。


その年、俺の国トルキア帝国で一つの都市伝説が生まれる。

国立競馬場を舞台にした伝説である。変な帽子を被った眼鏡の子が当たり馬券を教えるという伝説。

トイレの花子さんと並ぶ、競馬場のオサム君が誕生した年であった。


その噂を耳にして、俺は失望を禁じえなかった。・・・ウソです。

(内緒という約束だったのに、だから大人は嫌いだぁ・・気持ちは分かるけどね。)


借金さえ、返せればそれで良いのだと、自分に言い聞かせた15の春だった。


その時は、思ってもいなかった。奴らが俺に目をつけるとは・・・。

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