第2話 謁見

母マルティナと一緒にお城へ向かう俺。


『母さん、どうして今日俺は、王様に会わなければならないんだ。』と当然の疑問を母に投げかける。


『アルフ、・・・父さんが家を出て、10年。実は・・・いえ、何でもないわ。』


『貴方も15歳、勇者だったお父さんの息子だから、王様も期待しているのよ、きっと!』


母の最初の言葉は、先入観のある俺には届かなかった。


(これは、父を探しに冒険の旅に出発するシナリオだな。よし、先ずは、もらった支度金で、銅の剣を買って、それで山の近くで、魔物と戦って、金と経験値を稼ぐ・・・。)


俺は、母の最後の言葉をそのまま素直に聞いて、これから始まる冒険の世界に胸を弾ませていた。


城に着くと、母は、門の前で止められ、俺だけが謁見の間に通される。


謁見の間に通されると、其処には顔色の悪い王様が座っていた。


王様の名は、ドンピエール三世といった。


若い時は、名君と呼ばれたが、中年になると怪しい占い師にはまり、よく言えば凡君、悪く言うと占い師の操り人形と化した。


最近はやっと占い師の洗脳が解け、その占い師を拘禁、過去の自分の行いを悔いながらも、何処か人のせいにしたい王であった。


『よく来た、勇者プロティンの息子アルフよ!』


『ハッ、お初にお目にかかり、光栄です。王様!!』


『本日、其方を呼んだのは、他でもない、お主の父、プロティンに与えた旅の支度金1万ゴールドについてなのだが・・・。』


『ハツ、父の後を追い、私も直ぐに魔王討伐の旅に出・・・出・・・??』


『王様、申し訳ありません。聞き逃してしまいました、もう一度、言って下さい。』


『お主の父に与えた冒険の旅の支度金1万ゴールドだが、お主の父が行方不明じゃ。既に7年経っとる。逃亡した可能性もある。その金を、プロティンの息子のお主に返してもらいたいのじゃ。』


1万ゴールドといえば、日本円に換算すると1,000万円ぐらいの価値である。


『何を突然、父がそんな大金を持って、旅立ったとは聞いておりませんでしたが・・・。』


『そりゃ、そうじゃ、プロティンがお主ら家族には知らせないで欲しいと、言っておったからな。』


『ワシもバカじゃった。魔王討伐には、それぐらいの金がかかるという占い師の言葉に踊らされて・・。』


『支度金が高い為、お主の父が魔王軍とは戦わず、姿をくらませたのではないかという者もおったのじゃぞ!。』


『そんな、お金、私には、いえ我が家にも有りません。』


『そうじゃろうな・・・そこで、話は相談じゃ。お主にお主の父の仕事を引き継いでもらいたい・・。』


『ワシも鬼ではない。若い其方の可能性にかけてみたいのじゃ。もし、魔王の討伐に成功した暁には、ワシの娘のスザンヌの婿にして、この国の王にしてやろう。どうじゃ・・・??。』


『ハツ、誠に光栄な事ですが、私も未だ若輩の身、本日一緒に参りました母に、確認を取った後お答えをさせて頂ければと・・・。』と、慌てた俺は自分の頭を整理するために、即答を避けようとした。


御姫様のスザンヌ様の容姿も確認しなければ、決めれるわけが無い。

(前世で独身だった自分が言うのもおこがましいが、結婚には覚悟する準備期間が必要なのだ・・)

(その準備が長すぎて、婚期を逃した俺が言うのも何だが・・・)


『・・・必要ない、7年前にお主の母と話はできており、とっくに了承を貰っておる。』


ドンピエール三世は、洗脳が解け、名君と言われた若い時の周到さが蘇って来ていた。


『イェスか、ノウかじゃ。早く決めてくれ・・・。』と、王様は鋭い視線を俺に送る。


(つまり、俺には選択の余地は無いってことね・・。)


俺は観念して、力なく頷いた。


それを見た王様は、表情をクルっと変え、『よく、覚悟を決めてくれた、ワシは嬉しいぞ、勇者アルフよ。』とニコニコしながら俺を追い詰める。


『ヨシ、話は早い方が良い。パフェ大臣、能力鑑定の水晶を持ってくるのじゃ!!。』


『ハイ、此処に。』と王国の唯一の女性大臣であるパフェ大臣が両手で慎重に鑑定用の魔法の水晶を持ってくる。


俺は、指示を素直に受け、自分の両手を水晶へ乗せた。


俺の両手が水晶に触ると、水晶に文字が浮かぶ。


『体力(HP) 12 攻撃力 10 魔力(MP) 0 防御力10 判定 一般人です。』


(レベル1であれば、まあその程度だろう・・・。)という俺の思いとは裏腹に、王様の顔と大臣の顔があからさまに変化する。


『アルフ、お主、本当にプロティンの子か?。』と王様は、失望を表情に隠さず聞く。


(王様、それを俺に聞かれても、もし本当に知りたければ、城門で待っている人に・・・)と思ったが、『私は未だ15歳ですので、これからの自分を見てください!。』と俺は、ワザと強気に答えた。


暫く、俺は席を外す様に、命じられ廊下へ出た。


廊下で待っていると、王様と大臣達の声が聞こえる。正確な言葉は分からないが、声の雰囲気で想像がつく。



暫くして、再度の入室を許可される。


ひれ伏す俺に、王様が言う。


『勇者アルフよ。魔王討伐の為、冒険の旅に出る事を許す。これは支度金の100ゴールドじゃ。謹んで受け取れ。!!』


『ハハッ、有難き幸せ。』


物価を考えると、日本円で10万円ぐらいの祝儀である。


(王様、銅の剣 一本で150ゴールドするの知ってますよね。100ゴールドじゃ、ヒノキの棒しか買えませんよ。それで、魔王討伐をやらせるんですか??。)


(親父のせいだ。あのクソ親父、いま何処にいやがる。)


まあ、とにかく俺の冒険(親父の尻ぬぐい)は、こうして幕を開けた。

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