転生先は失踪した勇者の息子でした。王様に呼び出されて、最初に言われたのは『父親の借金返せ!』でした。借金のカタに無理矢理冒険に旅立たせようとしてます。王様、支度金100Gでは銅の剣も買えませんよ。

野松 彦秋

国に追われる勇者

第1話 ●●●億分の1の奇跡

(あれ、此処は何処だ??。)


見渡すと、いくつもの行列が同じ方向で並んでいる。


『あの、ここ何処ですか?。』と邦夫は自分の前の女性に聞く。


邦夫が呼びかけた女性が振り返る、黒人の太った女性だった。


『私にも分からないわ、気がついたらここにいて。ただ、皆並んでいるし、そのうち分かるんじゃない。』


『ああ、そうなんですね。有難うございました。・・・日本語御上手ですね。』と邦夫が言うと、黒人の女性は少し険しい顔をした。


『貴方も英語が御上手ね・・。』と黒人女性はそういって、前を向く。


(???。俺の英語が上手??。・・・どういう意味だろう。)


邦夫は、少し不思議に思ったが、また話しかけるのも失礼だと思い、そのまま自分の順番がくるまで黙って並ぶことにした。


(俺は、確か、客先に急いで向かっていて、バイクタクシーに乗ったよなぁ・・・。タクシーよりバイク便が早いからと、ノーヘルで・・・。)


40歳独身の邦夫は、昨年より東アジアの某国に赴任し、海外工場で品質管理の仕事をしていた。

言葉の問題はあったが、日本の物価よりも安く、生活は楽だった。


但し、仕事は忙しく、仕事をする為に生きているという様な生活が続いていた。


(雨が降ってきて・・・・。乗っていたバイクが、雨で滑って、オレ・・・落ちたよな。)


少しずつ、記憶が蘇ってきた邦夫だった。


『あれ、その後の記憶が・・・。』と邦夫は呟く。


『次の方、そう、貴方です。ハイ、ここに来て、もうちょっと前に来て下さい。』


気がつくと、足元の前に、白い線が引かれている。邦夫はその位置に移動する。


すると、頭の上の方で、『おめでとうございます!!貴方は、当選致しました。』と声が聞こえた。


受付の女性が、驚いた表情で、『エッ、本当に当選する人が出るなんて。そんな運が良い人が・・。』と言って、机の上にある名簿に目を通すそぶりをした。


『おめでとうございます。尾崎邦夫さん、貴方は転生者に当選致しました。』


『●●●億分の1の確率です。とても運が良いかたですね。貴方は、これから直ぐに別の世界に転生し、もう一度人生を歩む事が出来ます。』と受付の女性は、ニコニコしながら説明を始めた。


話を要約すると、いや先に結論を言うと、俺はバイクの交通事故で死んだ。


黒人の女性の言葉を、日本人の俺が理解できたのも、彼女が俺の言葉を理解できたのも、お互い死んだ者同士コミニケションが取れるようになると聞き、合点が言った。


普通死んだ後は、天国で転生する迄時間(何十年若しくは、何百年)を過ごさなければならなく、又、前世の記憶を消して転生しなければならない。だが、俺は転生者の特例対象に当選したので、前世の記憶を持ったまま、即日転生できるそうだ。


しかも、望んだ能力を3つ選び、その力を持って転生する事ができるという特典付き、この特典を持って転生できる確率は、地球に生命が生まれた可能性と匹敵するぐらい希少で、受付の女性曰く、正に奇跡との事だった。


俺が望んだ能力は、運の良さMax、あらゆる物を鑑定できる目、学習する能力の3つだ。


仕事人間だった自分の頭に、もう一度サラリーマンをするなら、欲しいと思った能力がこの3つであった。日本社会に毒されているなと、後で気がついた時には、既に転生の手続きの書類にサインをしてしまっていた。


気がつくと、ある家の布団の上に寝かされていた。


筋肉質で巨体のヒゲの男と、優し気な女性が自分の顔を笑顔で見つめている。


(これが、俺のこの世界の両親か、東洋人じゃないな・・西洋だな、来ている服も、中世みたいだし。)と最初に思った事は覚えているが、その後の事は成長するにつれてあまり、覚えていない。


どうやら、前世の記憶を持っているだけで、新しい人生の記憶は、普通に成長するとともに薄れていくものらしい。


俺は、選んだ学習能力のお蔭か、彼らの会話を聞き取れる様になるまでにそれ程時間がかからなかった。


親父の名はプロティン(そのままだな・・・。)、母の名はマルティナと言った。

(二人は、俺をアルフと名付けた。どうやら、俺の名は、アメリカのドラマの犬型宇宙人の名前らしい・・。)


それから、あっという間に5年が過ぎた。5歳の時、親父のプロティンが魔王退治の旅に出る。

(魔王退治って、子供の時遊んだRPGの世界じゃんと驚いた俺。なんと、この世界、魔法もあるのだ。)


『アルフ、俺が居なくなっても、お前が母さんを守るんだぞ!!。』と親父のプロティンは、未だ5歳の息子に無責任な事を言って旅立っていった。


(今考えると、その時の親父の顔は、何か晴れ晴れとした表情だった気がする・・・。)


3年後、城からの使いが家にやってきて、親父が行方不明になったと告げにやってきた。


3年も家を留守にされると、家族はその生活が慣れてしまっていて、母も俺も、それほど悲しまなかったが、何か王様が父プロティンに怒っているという噂を聞いた。


その噂の真相が分かる日が、俺の15歳の誕生日の日であった。


『アルフ、アルフ、起きなさい、今日は、貴方の15歳の誕生日、王様との謁見の日よ!!』


(あれ、これって、やっぱり昔やったゲームの言葉だよねぇ・・・)と思いながら、俺は目を開けた。

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