引き裂かれた愛

タケヒコは、奴国の首都・那珂の街を歩いていた。那珂川沿いの道は、石畳が美しく敷かれ、両脇には商店や工房が並ぶ。活気に満ちたこの街も、クニノミコトの圧政の下、不安な空気が漂い始めている。


「タケヒコ様!」


突然、誰かがタケヒコの名前を呼ぶ声がした。振り返ると、そこには海虎のメンバー・リョウが息を切らせて立っていた。


「リョウ、どうしたんだ? そんなに慌てて」


タケヒコはリョウを落ち着かせながら尋ねた。


「タケヒコ様、王宮から使者が来ました。カヤ様を王宮に連れてくるように、とのことです」


リョウは、興奮した様子でタケヒコに伝えた。


「何だって!? カヤを王宮に!?」


タケヒコは、突然の知らせに動揺を隠せなかった。


「はい... 私も、ただならぬ事態だと感じました。タケヒコ様、どうかお気をつけてください」


リョウは、タケヒコの肩に手を置き、真剣な眼差しを向けた。


「ああ、ありがとうリョウ。僕も、何かおかしいと感じていたんだ」


タケヒコは、カヤの身を案じつつ、リョウの忠告に感謝した。


「タケヒコ様、どうかお気をつけて。我々も、何か動きがあればすぐに知らせます」


リョウは、タケヒコに頭を下げた。


「ああ、頼んだよ。カヤを守らなければ...」


タケヒコは、リョウの言葉に力強く応えた。


タケヒコは、那珂の街を走り抜け、王宮へと向かった。王宮は、奴国のシンボルである金印を頂く高楼であり、その威容は圧巻であった。


「タケヒコ様、ようこそ王宮へ。クニノミコト様がお待ちです」


王宮の門で、タケヒコを出迎えたのは、クニノミコトの側近・イクサであった。


「イクサ... カヤはどこだ?」


タケヒコは、イクサを警戒しながら尋ねた。


「安心したまえ、タケヒコ様。カヤ様は無事だ。さあ、中へ入るがいい」


イクサは、タケヒコを王宮の奥へと導いた。


タケヒコが案内されたのは、王宮の庭園であった。そこには、クニノミコトとカヤが2人きりで佇んでいた。


「タケヒコ、来たか」


クニノミコトは、不敵な笑みを浮かべてタケヒコを迎えた。


「クニノミコト... カヤに何の用だ?」


タケヒコは、カヤを守る決意を胸に、クニノミコトを鋭く見つめた。


「ふっ、タケヒコよ。お前は、カヤに惹かれているだろう? その気持ちを利用させてもらう」


クニノミコトは、冷酷な笑みを浮かべた。


「何だと...!?」


タケヒコは、クニノミコトの言葉に激昂した。


「カヤを我がものにしたいと思わないのか? その力を我が国のために使いたいと思わないのか? タケヒコよ」


クニノミコトは、タケヒコの心を見透かすように語った。


「クニノミコト... お前は、カヤを操り人形のように扱うつもりか?」


タケヒコは、怒りに震える声で問い詰めた。


「ふっ、お前には選択肢はないのだよ、タケヒコ。カヤを我がものにするか、さもなくば...」


クニノミコトは、冷たい瞳でタケヒコを見つめた。


「さもなくば、どういうつもりだ?」


タケヒコは、クニノミコトの真意を問いただした。


「海虎のメンバーを皆殺しにし、お前を王宮の地下牢に幽閉する。どうだ、タケヒコよ。選ぶがいい」


クニノミコトは、タケヒコに究極の選択を迫った。


「タケヒコ様!」


カヤは、タケヒコの名前を叫び、彼の腕を掴んだ。


「カヤ...」


タケヒコは、カヤの瞳の奥に、悲しみと決意を見た。


「タケヒコ様、お願いです。私を、クニノミコト様のものにしてください...」


カヤは、涙を浮かべながらタケヒコに懇願した。


「カヤ...!?」


タケヒコは、カヤの言葉に衝撃を受けた。


「タケヒコ様、あなたの命と、あなたの仲間たちの命、どちらが大切ですか? 私は、あなたの命が欲しいのです」


カヤは、タケヒコの腕の中で震えていた。


タケヒコは、カヤの願いを聞き入れ、クニノミコトに従うことを選んだ。それは、愛するカヤを救うための、苦渋の決断であった。


こうして、タケヒコとカヤの愛は、クニノミコトによって引き裂かれてしまった。

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