【8回目】

 

【8回目】


 僕は再度戦略を練り直すことにする。目的はダンジョン攻略。であれば、冒険者ギルドで仲間を集って、即席のパーティーでダンジョンに潜ることでボス攻略を果たそうという作戦だ。


「ギルドマスター、勇者よりも早くダンジョンを攻略したい。パーティー募集の案内ある?」


「は? トライ、お前、勇者パーティーはどうしたんだ?」


「うん、さっき追放されちゃって」


「追放ってお前……」


「それより時間がないんだ。募集している中で出来る限り、レベルが高いパーティーに僕を紹介してもらいたいんだけど……」


「ったく、お前は……。即席パーティーだと、戦闘連携部分で疑問が残るぞ?」


「戦闘力は皆無だけど、ことサポートに関しては自信があるから大丈夫だよ。伊達に勇者パーティーで鍛えられてない」


「そうか……、まあ、お前さんがそういうならそうなんだろうな。よし、わかった! このパーティーなんかどうだ?」


 僕はおっさんからパーティーの名前、レベルと職業が明記された用紙を渡された。僕は黙々と目を通す。流石にレオン、マミ、ナイツ、キュアほど完成されたパーティーではないが、僕なんかよりよっぽどレベルも高く。優秀な冒険者ということが想像できる。


「うん、ありがとう。是非このパーティーを案内してほしい」


「ああ、わかった、話しをつけておく。急ぎってことだし、ダンジョン入口に集合でよいか?」


「うん、それで大丈夫だ。先に入口に向かっているから、そう伝えてほしい」


「ああ、了解だ。回復アイテムと転移石はちゃんと持つんだぞ」


「うん!」


 僕は先んじてダンジョンの入り口へと向かうことにした。


 *


「トライさんは、あの勇者レオン様のパーティーだったんすか?」


「うん、そうだね。と言っても、僕は戦闘では役に立たないから、荷物持ちみたいなものだけどね」


 ギルドマスターから紹介してもらって、武闘家と魔法使いの二人のパーティーに僕も入れてもらうことになった。先頭を歩くのが、武闘家のヤン、次に僕、最後に魔法使いのミレイが続く。


 僕が苦労したB5F。僕たちの目前に現れたのは、僕の行く手を阻んでいる軍隊蟻たち。


「軍隊蟻が三体、予想通りだな。ミレイ、お願いしてもいいかな?」


「まあ、わたくしの魔法なら、軍隊蟻は問題なく倒せますわ。ですが、三体となると、リキャスト時間が必要になります。どうしても隙が生まれてしまいますが、いかがしましょうか?」


「僕が盗賊のスキルで、落とし穴を作って動きを制限する。ヤンはもし、取り逃がしたら、対処してくれ」


「了解っす!」


「よし、行くぞ!」


 僕たちは身を潜めていた壁から飛び出して、軍隊蟻に姿をさらけ出す。僕の後方、ミレイがすぐに詠唱を開始する。


「燃え盛れ、火球ファイアボール!!」


 魔法で作られた火の玉が軍隊蟻の外皮を溶かす。軍隊蟻の鉄の外皮は炎の魔法に弱いのだ。こちらを敵と判断した二体の軍隊蟻が、六本の手足を器用に動かして、僕らに向かってくる。


 いまだッ!


トラップ発動!!」


 軍隊蟻がちょうど横一線になったタイミングを狙って、同時に落とし穴へと落とす。職業スキル、【落とし穴】は、敵にダメージを与えることは出来ないが、短時間、対象の動きを制限することが可能だ。


「リキャスト時間はクリアしました。行きますわよ! 燃え盛れ、火球ファイアボール!!」


 一体に火炎の球が衝突して、軍隊蟻は炭と化す。残り一体!


 落とし穴から飛び出た軍隊蟻の関節を狙って、武闘家のヤンが正拳突きを食らわす。最後の軍隊蟻は機能を停止した。


「さすがは勇者のパーティーの一員ですわね。こうもあっさり」


「それに軍隊蟻がこの先にいるって、気づいていたよな……」


 う。ユニークスキルである死に戻りについて、ズルをしている気分になったので、誤魔化すことにする。


「いや、僕なんかよりも君たちの方が凄いよ、こうもあっさり、軍隊蟻を倒すなんて!」


 やはり、単独で攻略するのと、パーティーとしてダンジョンを進めるのとでは、難易度が雲泥うんでいの差だ。そもそも、僕は支援しか能がないため、魔物を斃せるメンバーがいないと機能しない。そういった意味では、この二人は戦闘員として非常に優秀な冒険者だ。おっさんには感謝しないといけないな。


 今までつまずいていたB5Fを難なく突破して、手ごたえを感じ始めていた。


 そして、B10F。六角形の開けた場所、さながら闘技場だ。六角形の各頂点にそびえ立つ石柱がこの闘技場を支えていた。そして、僕らの前には、あの化け物が立ちふさがっていた。


「オーク……」


 僕たちの存在に気づいた奴は、雄叫びを上げて威嚇をする。B5Fで遭遇した個体よりも幾分か大きく、右手には石で作られた巨大な棍棒を携えている。明らかに、手ごわそうだ。


「ヤン、ミレイ、オークとの戦闘経験は?」


「もちろん、あるっすけど、あんな大きい奴、初めて見た」


「わたくしも……」


 僕たちの心の準備等、魔物が待ってくれるはずもなく、オークは僕たちに棍棒を振り下ろす。


「くっ!!」


 間一髪で僕らは回避するが、ダンジョンの石造の床がクレーターのように穴が開く。当たったら、即死だろう。


 魔法使いのミレイは詠唱を開始。ヤンがオークの膝に正拳突きを食らわせると同時に魔法を発動させる。


こごえよ、しばれ。吹雪ブリザード!!」


 オークの弱点である氷魔法、さらに火球ファイアボールよりも、高位の魔法、吹雪ブリザード!これなら!!


「や、やったか!?」


「……そ、そんな!!」


 確かにダメージは入っているようだが、倒すには至らない。オークは白い息を吐き出しながら、棍棒を振りかざした。獲物を見下ろす眼光は、最も近いヤンを狙っている。


「くッ、まずい!!」


トラップ発動!!」


 オークの足元に、落とし穴が現れる。オークはバランスを崩したものの、棍棒を振り下ろす。その棍棒はヤンの真横の床をえぐった。


 潮時だ。


 僕の死は軽い。でも、他の人の死は重い。僕は死んでも、もう一度やり直すだけだ。だが、他の人が死んだ場合には、僕が死なない限り、死んだことが運命として確定してしまう。


 それに、僕は死んだあとに追放時に戻るにしても、僕が死んだ世界に生きている人達はその世界線で生き続けることになるのかもしれない。それを考えたら、犠牲にする命がどちらかなんて火を見るよりも明らかで。


「転移石で逃げろ!!」


「でも、トライさんは!?」


「もう少し、奴を引き付ける!!」


「わ、わかりましたわ!! 死なないでくださいまし」


 その注文は答えられない。僕はミレイを見て、優しく微笑んだ。


 二人は転移石をアイテムインベントリから取り出す。手に持った転移石が輝き、二人の肉体が消失した。無事にダンジョンの入り口まで帰還しただろう。


 僕は二人の帰還を見届けてから、オークへと振り返る。今に見てろよ。


 僕の身体はオークの棍棒に粉砕された。


 次。

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