第31話
31.
優は口の端に付いたフォンダンショコラのチョコを紙ナプキンで拭きとると、リュックから七夕ライブのチェキを取り出した。
優は写真を一瞬見つめると、三人の前に出した。
「これ、この前の七夕ライブで撮ったやつ」
「おーっ‼」
ゴーゴンと湊が言った。
「よく撮れてんじゃん! 二人でハート作ってんし!」
「メグミ殿も優も、いい笑顔でござるな」
「ほんとメグちゃん、いい笑顔じゃない? 本当に嬉しそう」
実知子がチェキを手に言った。
「そう思います!?」
「思うよー! 大抵のアイドルの笑顔って、可愛いけどちょっと作られた笑顔って言うか、自分が一番可愛く見える笑顔を研究して何度も練習して作られてものじゃない? ちょっと強張りと言うか、少し力が入った感じがするんだよね。
でもこの写真のメグちゃんは、ほんと自然な、嬉しそうな笑顔じゃない?」
「ですよね‼ 俺もそんな気がしてました‼」
優は勢い込んで言った。
しかし、優はチェキを再び両手で持ち見つめると、急に肩を落とした。
「メグちゃんは最高に可愛いのに、俺、全然イケてないよな……。ニキビ面でひょろくって、おまけに背中曲がってんし」
優は独り言のように呟いた。
「そう? そんなことないと思うよ!」
実知子が励ますように言った。
優がゴーゴンと湊をじっと見ると、二人はあからさまに目をそらした。
「はぁ……もてる男になりたい……」
優はため息交じりに言った。
「いや、メグちゃんに釣り合ういい男になりたい。最低でも、隣にいてもメグちゃんが恥ずかしくないような奴に」
優はここでガバッと実知子の方を向いた。
「どうやったらいい男になれますかね?」
「私は今のままでも優君のこと素敵だと思うよ♡」
実知子が小首を傾げて言った。
「ん~~、でも強いて言えば、ニキビを治した方がいいかな?
あと、猫背で姿勢が悪いから背筋をちゃんと伸ばして、ちょっと顎を突き出す癖があるから顎ももう少し引いて。
あとせっかく背が高いのに痩せ過ぎだから、もう少し筋肉をつけて。
それから髪がちょっとツンツン立っちゃってるから少しワックスとかで寝かせて、前髪を額にかけて目にかからないくらいの長さで斜めに分けるといいかも~。私の好みだけど♡
あと――」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
手を前に出し、優がストップをかけた。
「それってまだ結構続きます? 心折れそうなんですけど」
「あ、ごめんね! でも優君伸びしろたっぷりだから、ついついアドバイスしたくなっちゃって」
「『伸びしろたっぷり』って褒め言葉でござるか?」
ゴーゴンがテーブルをはさんで向かいの湊に、小声で訊いた。
「まぁ、みーちゃんはそのつもりだと思うぜ」
湊もこっそり答えた。
「でもいいところもいっぱいあるから♡
背が高いでしょ、顔も小さくて結構整ってるから、姿勢を良くしてニキビを治せばモデルもいけるかも⁉
それに何より、好きなコへの情熱がいいよね、一途で♡」
「は、はぁ。ありがとうございます」
可愛い女性に褒められると言う慣れないことに、顔を赤くした。
「俺もニキビは治したくて、しょっちゅう顔洗ってるんですけどねぇ」
「優君、スキンケアってどうやってるの?」
「ハンドソープの超強力殺菌ってやつで一日三回は洗ってるのに、こうなんですよね」
優は頬を指さし、ため息交じりに言った。
「ん~~、とりあえず、それ使うの止めた方がいいかな。あまり刺激が強すぎるのはよくないと思うよ。
あと、チョコレートとか、油っぽいものは少なくした方がいいかもね」
「えーっ!」
優は今まさにフォンダンショコラを食べようとフォークを構えていたが、手を止めた。
「俺、チョコ大好きなのに!?」
「他にも、肌を清潔に保つとか、皮脂を洗い流し過ぎないとか色々あるけど、一番いいのは、皮膚科のお医者さんにかかることかな」
「えー俺、あまり病院とかクリニックって行きたくないんですよね……」
優は結構な医者嫌いだった。雰囲気が怖いらしい。
「じゃあ、ニキビ対策色々してみて、治らなかったらの最後の手段にしとけば?」
実知子がスマホをバッグから取り出し言った。
「とりあえず、ニキビ対策の情報送るね! スマホ買ったんだよね? ライーン使ってる?」
「はい。ありがとうございます」
優はライーンの画面を開いたスマホを実知子に渡し、友達登録してもらった。
「これでよし♡」
実知子が満足げに言った。
すぐに優のスマホがピコーンとなり、実知子からニキビ対策について書かれたHPのアドレスと、よろしくね♡と書かれた投稿が来た。
優は送られてきたHPを見ると、そこにもチョコはニキビ対策によくないと書かれていた。
「う、うぅ……。分かりました、俺、チョコ断ちします。メグちゃんに相応しい男になるために!」
優はフォンダンショコラの残りを悲しげに見た。
「ゴーゴンごめん、残していい?」
「仕方ないでござるな」
そう言うと、ゴーゴンはフォンダンショコラにフォークを伸ばした、
「俺も片付けんの手伝うぜ!」
空いたチーズスフレの皿をゴーゴンの方に押しながら、湊も言った。
ゴーゴンは優の残りのフォンダンショコラの半分を湊の皿に移し、湊の方に皿を戻した。
ゴーゴンと湊が美味しそうにフォンダンショコラを食べるのを、優はフォークをくわえ未練たっぷりにじとっと見つめた。
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