第28話
28.
「はいでは、第三回恋の進路相談会を始めます!」
何故か湊の姉、実知子が場を仕切りだした。
「よ、みーちゃん待ってました!」
湊、
今日もいつもの席、喫茶店の奥まった、少し騒いでも目立たない席だ。
四角い大きなテーブルの一辺に、左の辺に湊と実知子、奥まった真ん中に優、右の辺にゴーゴンの順で座っている。実知子は湊と優の間だ。
(この
優は心の中で少し呆れて呟いた。
ゴーゴンはと見ると、人見知りを発動させて少し怯えたような目をしてメニュー表で半分顔を隠している。
「実知子さん、今日はわざわざ来て頂き、ありがとうございます!」
優はぺこりと頭を下げ、改めてお礼を言った。
実知子は普段は東京の大学に通い、都内に住んでいる。
「いいの~、丁度実家帰る用事あったし、優君にも会いたかったし♡」
実知子はニコリと笑い、小首を傾げた。
動きに合わせ、真っすぐな長い黒髪がサラリ揺れた。
実知子は淡いピンクのワンピースに、白いふわりとした半そでのカーディガンを羽織っていた。
メンメンガールズにスカウトされたこともある実知子は、柔らかい雰囲気の整った顔立ちをしていた。大きなパッチリした二重の目に、すっと通った小さな鼻、少しぽてっとした形の良い唇、そんな甘い顔立ちは湊とよく似ている。
「はぁ」
優はなんと返したらよいか戸惑い、ゴーゴンを見たがゴーゴンはメニューで完全に顔を隠していた。
「俺もお会いできて良かったです」
とりあえず優は無難に返すことにした。
「みーちゃん、弟のダチにまで手ーだすのやめろよな」
湊がメニューを熱心に見ながら、軽く言った。
ちなみに、両頬の赤みは大分薄れてきている。
「だって優君、なんか可愛いんだもん♡」
実知子は上目遣いに優を見て、にっこり笑って言った。
「年上はいや?」
「え、いや、嫌ではなくて、そのー」
優は可愛い女性に言い寄られると言う初めての経験に、どぎまぎして答えた。
「あの、俺、めぐちゃんが好きなんで……」
(ってか、早くめぐちゃん情報聞きたいのに~~!)
優は困りながら、心の中で叫んだ。
実知子は両手を口元に置き、こらえきれないと言ったように頬を膨らませた。
「ぷぷぷっ、真面目に困っちゃうところも可愛いー♡」
「みーちゃん! ハズイからそれ止めて!」
湊がメニュー表から顔を上げて言った。
「ベイクドチーズケーキと、ニューヨークチーズケーキと、チーズスフレ! あとブレンドコーヒーホットで! 約束だかんな!」
湊は実知子を見て、念を押すように言った。
「も~分かってるよ」
実知子がやれやれといった感じに言った。
「ゴーゴン、今日の俺とみーちゃんと優の分、みーちゃんが出すから!」
湊が嬉しそうに言った。
どうやら湊は実知子を参加させるかわりに、飲食代をおごるよう約束を取り付けたらしい。
「分かり申した。でも優の分はいつも通りでいいでござるよ?」
メニュー表からちらりと顔を出して、ゴーゴンが言った。
「そっか? じゃあそれで」と湊。
「それで! ありがと!」と優。二人の声が被った。
「そう? いつも湊がありがとね」
実知子が真っすぐゴーゴンを見て言うと、ゴーゴンはうなずくとすぐさまメニュー表の裏に隠れた。
(野生動物か!)
優は心の中でゴーゴンに突っ込んだ。
優は自分が教えてもらう立場なのでむしろ自分が払うべきかなぁとも思ったが、小遣いはチェキ代でほぼなくなっていたので黙っておくことにした。
「じゃあ私は、ニューヨークチーズケーキとアイスコーヒーにしようかな」
実知子が明るい声で言った。
この
「じゃあ俺は、『とろ~りとろけるフォンダンショコラ』お願いします」
優はゴーゴンを見て言った。
ゴーゴンはうなずくと、手元のベルを鳴らした。
しばらくしていつものメイド服姿のウェイトレスが来て、注文を取ってくれた。
ちなみにゴーゴンは『ふわふわパンケーキ ~真っ白クリームと真っ赤なべリーソースを添えて~』とブレンドコーヒーのホットを頼んだ。
「で、めぐちゃんのことなんですけど」
ウェイトレスが立ち去るのを待ってずに、背を向けたタイミングで優は言った。
「なんでアイドルになったか分かりました?」
「分かったよ~、でも人伝に聞いた話だからどこまで本当かは分からないけど、ね?」
実知子は確認するように、ね、の所で小首を傾げた。
「あと、今日この後予定入っちゃって、途中で抜けることになったらごめんね?」
「大丈夫です‼ 忙しいところすみません」
「こちらこそ、ごめんね」
実知子は両手を合わせ、小首を傾げて言った。
「これはニコちゃん、えーっと、芸名で言うと……緑川ニコルちゃんか、から聞いた話なんだけど」
「え! その人って、メグちゃんの前に緑担当してた方ですよね!」
「そうそう。お習字教室で同じクラスになったことあって仲良くなって、たまーに遊ぶんだ」
なんでもないことのように実知子が言った。
「ここの話は内緒にしてね。一応、裏事情だから」
「はい、分かりました!」
優は顔キリリとさせ言った。
「分かったでござる」
ようやく実知子に慣れて来たのか、ゴーゴンがメニュー表を置いて言った。
「ニコちゃん、前から好きだった人と両想いになれて、メンメンガールズの契約更新時期を待って付き合うことになったんだよね。
で、メンメンガールズを辞めることになって、ニコちゃんとか経営本部の人達――まあお習字そろばん教室の先生達なんだけど――が次の緑担当のコを探したんだけど中々やりたがるコがいなかったんだよね。
まあ微妙だからね、メンメンガールズ。本気の職業としてのアイドル目指すには中途半端だし、部活やアルバイト感覚でやるには平日は練習、土日祝日ステージでプライベートの時間も無くなって大変だし」
「へーそうなんだー」
「難儀でござる」
湊、ゴーゴンが言った。
「あんなにファンからは人気あるのに、やりたがるコはあんまりいないんですね~。意外だ~」
優も呟いた。
「で、ニコちゃんが困って、アイドルになったらもてるとか、好きな人に振り向いてもらえるとか色々前から仲良かったコ達に言いまくってたら、急にめぐちゃんがやるって言いだしたみた――」
「それって、めぐちゃんに誰か好きな人がいるってことですか⁉」
優は食い気味に訊いた。
「ん~、そうかも? 『本当に振り向いてもらえますか‼』って、ギラギラした目で訊かれたってニコちゃん言ってたから」
「え~~」
優はガクリと肩を落とし、うつむいた。
(そんな……めぐちゃんに本当に好きな人がいただなんて……)
優は絶望して、両手で頭を抱えた。
ゴーゴンが無言で頷き、慰めるように肩に手を置いた。
「なんでも、めぐちゃんはその人に告白したのにスルー、なかったことにされちゃったみたいなんだよね。だからアイドルになって、素敵になって振り向かせたいんだって」
(完璧、失恋じゃないか…………
俺、どうすればいいんだ…………)
頭はさらに重くなり両手で抱えきれなくなって、優はガクッとテーブルに突っ伏した。
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