第27話
27.
「おっはよー……って
七夕祭の翌日、優が朝教室に着くと、両頬を真っ赤に腫らした湊がいた。
ちなみに、優、湊、ゴーゴンの通う群馬県立館森高等学校は男子校で、制服は学ランだ。館森市内の普通科の高校は全て男子校、女子校に分かれている。
優と湊は二組で、ゴーゴンは一組だ。
「あん?」
湊は不機嫌そうに優を睨んだ。
「友達にやられたんだよ」
湊が誰とも言わずただ『友達』と言う時は、大抵友達以上、恋人未満な女友達を指す。
教室にはまだ三分の一も生徒がおらず、湊の席は教室の後ろの隅にあり、周りに生徒はいなかった。
「え、なんで?」
優は若干声を潜めて訊いてみた。
「もしかして、振られたん?」
優はニヤニヤしてしまうのを抑えきれずに言った。
湊は特定の彼女を作らず、友達と称して複数の女の子とデートを繰り返しているので、もてない優にとって湊が振られるのは大変『ざまぁ』なことだった。
湊は両腕を組んで頷いた。
「昨日、コガネちゃんとチェキ撮ってもらおうと思ったらビンタされた」
メンメンガールズの黄田コガネは、ゴーゴンにパワー担当と言わしめるようなアイドルにはなかなかいない、ある意味恵まれたごつい体格をしていた。
そんなコガネは、湊の見た目の好みドンピシャらしい。
ちなみに七夕ステージの短冊は、何をとは書かずただ『掌握』の二文字だけが書かれていた。
「湊も七夕ステージ見てたん! 全然気が付かなかった!」
「俺は見かけたぜ。でもなんかガチ勢と盛り上がってたから、そっとしといた」
「えー声かけてくれれば良かったのに!」
「いやーあの雰囲気は、話しかけ辛いわ。連れが引きそうで」
「そっかぁー? で、なんでビンタされたん?」
「分からん! 友達と七夕祭行って、たまたまメンメンガールズのライブやってたから見て、コガネちゃんのチェキ買おうと連れに『並びたい』って言ったらやられた。こっち側ね」
湊は左頬を指して言った。
「……女友達と一緒の時に他の女と写真撮ろうとしたら、そりゃー怒んじゃね?」
「そっか? そんな心狭い奴じゃないと思ってたんだけどな……。
なんか他にも、『あんたの好みってあのコなの』とか『私のこと可愛いって言ったの、あのコと私、似たタイプってこと⁉』とか、なんか怒ってたな……。
意味分かんねー」
心底不思議そうに、首を捻りながら湊は言った。
「あー、まーなー」
優はコガネのごつさから何となく女友達のいいたいことが分かったので、緩く曖昧に相槌をうった。
「で、右側は?」
「で、たまたま別の友達も祭来ててビンタ見られて、そいつからも『私だけじゃなかったの⁉』ってビンタ食らった」
「ヒーッヒッヒ!」
優はお腹を抱え、魔女のような笑い方をした。
「受っけるー‼」
「優、笑い過ぎ」
ムッとしたように湊が言った。
「でも今回のことで分かった」
湊が真剣な顔をして言った。
「俺はコガネちゃん一筋で行く! 今回二人から振られたのも、きっとそう言う運命なんだ!」
湊はそう言うと、拳を握り、やや上の虚空を見つめた。
「へ、へー。運命なんだ」
優は笑い過ぎて出た涙を拭いて、若干引いて言った。
優の言葉に、湊は一人で納得したようにうんうんうなずいた。
「そう言えば、みーちゃんがメグちゃんの情報ゲットしたってよ。
なんか優に直接会って話したいってきかないんだけど、いいか?」
急に思い出したかのように湊が言った。
「え、本当っ‼ 是非‼」
「じゃあ、土曜日ゴーゴンとこ行く時連れてくわ」
「ありがとーありがとー‼」
そんな感じで、第三回『恋の進路相談会』に、湊の姉、実知子も参加することになった。
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