ライブ3

第23話

23.


「違ってたらすみません。もしかして、イチラさんですか?」

 ゆうは祭の人ごみの中、レンズの長いカメラを首から下げた赤バンダナ男に声をかけた。

 頭に赤いバンダナ、赤いTシャツ、青いジーパンをまとい、大きなリュクを背負っている。

 三十代位の中肉中背の男で、モシャっとした髪と太い黒縁の眼鏡が、優にゴーゴンを連想させた。


 7月7日の夕方、館森市の七夕祭りに優は来ていた。

 もちろんメンメンガールズのステージを見にだ。

 

 祭は毎年市内の南北に走るメイン道路を歩行者天国にかえ、行われる。

 大きな吹き流しや短冊の付いた笹などの七夕飾りが、その長い道路を彩っている。


 歩行者天国の南側の一番端に、トラックの大きな荷台が上にパカリと開くトラックステージが設置されている。

 優とイチラはステージの前にいた。


「そうであるが」

 イチラは優を上から下まで見ると、ビクッと肩を揺らした。

 今まで嫌味を言って来た人物が優だったと認識したのかもしれない。

「も、もしかして、ふ、藤優ふじゆう君かな?」


「そうです」


「そ、そう」

 イチラはしばらく目をきょろきょろしていた。


「ブログコメントとイラストありがとう。我等、良い同志になれそうですな!」

 イチラは、今までの嫌味をなかったことにして、多少ぎこちなく優肩をポンポン触った。


 ちなみに、あの後優はイチゴの二頭身イラストを描いてブログに載せ、イチラに使用許可を出していた。


(なかったことにした‼)

 優はそう心の中で突っ込んだが、そこまで根に持っていなかったので気にしないことにした。


「みんな~今日も来てくれて、ありがと‼」

 元気一杯の5人の女の子達が、手を振りながらトラックステージの袖から出てきた。

 メンメンガールズの5人だ。


「ん~わたしたちっ! 歌って踊ってお習字そろばん、寺子屋系アイドル!  

 メンメンメンコイ、メンメンガールです‼」


 ステージ中央で、イチゴを中心に決めポーズをするメンメンガール。

 メグミは、イチゴの右わきに中腰になり、両腕をイチゴとは反対の向きに広げていた。


「メンメーン‼」

 イチラと近くにいたファンの数人が口に手を添え、合いの手を叫んだ。

 優はいきなりのことに、びくっとした。


 メンバーたちは、浴衣を思わせる上着に、下はふわり広がる幾重にも重なる短いスカートを組み合わせた格好だ。

 白を基調とした色違いで、それぞれ淡い担当色のものを着ているが、ピンクの帯がお揃いで、統一感をだしている。


 耳には全員、シンボルカラーの小さな短冊のようなイヤリングをつけている。

 それぞれ違った髪飾りをつけており、メグミは数枚の笹の葉を模した髪飾りを、両耳の少し上の辺りにあしらっている。

 

 一方優は、白いTシャツの上に淡い緑の半そでシャツを重ね、濃い色のジーパンをはいていた。最近母に買ってもらった、結衣がコーディネイト一式を見立てたものだ。

 小さ目のリュックを背負い、中には最近買った7色に色が変えられるペンライトを入れていた。


(メグちゃん可愛い‼)


 メグミはやや小柄ながらもすらりとした手足にまっすぐ伸びた背筋のせいか、足の動きや手の振り、一つ一つの所作が美しく見える。

 重めの前髪に両脇に少しの髪束を残し、肩ぐらいまでの艶のある髪を両こめかみの少し上のあたりで笹の葉を模した髪飾りで止めている。

 やや丸みを帯びた顔の輪郭に、ちょこんと小さな鼻と口。くりっとした黒目がちの瞳に、澄んだ白目。


(メグちゃん、やっぱり可愛い‼)


 優は、久しぶりに見るメグミを前に、目頭が熱くなるのを感じた。


(俺達、織姫と彦星みたいだよな。前はよく会えてたのに、今はもう、イベントの時しか会えない。……織姫と彦星って、なんて可哀そうなんだー!)


 メンバー達は少しステージ上でばらけ、トークが始まった。


「みんな~、今日も来てくれてありがとう‼ 今日は七夕だね! 織姫みたいに、みんなと会えるの、待ってたよ!」


「イチゴちゃ~ん!」

 横にいたイチラが両手をメガホンのようにして叫んだ。

 

「みんなはどんな短冊書いた? 私はこれ!」

 赤いコ、リーダーのイチゴはそう言うと、大きめのピンクの短冊を広げて見せた。

『多くの人にメンメンガールズのパフォーマンスが届きますように!』

 

 イチラが素早くカメラを構え、カシャカシャと写真を撮った。

 優もつられて、リュックからスマホを取り出し、構えた。 


 次に黄色いコ、白いコ、青いコと短冊を見せ、最後にメグミの番となった。


「私の願いは、これです!」

『ファンと私の、皆が幸せでありますように!』


(メグちゃんが俺の幸せを願ってくれた! メグちゃん、俺はそんな優しいメグちゃんを見られて、今幸せだよ~~)

 優は目頭が涙で熱くなるのを感じながら、カシャカシャスマホで写真を撮った。


 優がジーンと来ている間もステージは進んで行き、いつもの自己紹介が終わると、歌となった。


「では早速、歌っちゃうよ~‼

 始めはこの曲、私達のテーマソング、『キラキラ☆メンメン 七夕バージョン』!」


♪ おっりー姫、ひこー星、えいえーんの星。えいえーんの絆! ♪


いつものテーマソングの一部が、七夕仕様になった歌と踊りのパフォーマンスが披露された。

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