第22話

22.


 優のバイト先はあっさり決まった。


 たまたま近所のトリスミでぼんやりアルバイト募集の張り紙を見ていたら、保育園、小学校が一緒だった健太けんたの母が働いていて、あれよあれよという間に事務所で面接させられ、応募した認識もないまま受かっていた。


 健太母とトリスミ藤見町店副店長は良い人達だったが、思い込みの激しい、あまり人の話をよく聞かない人達だった。

 そして優は、流されやすいタイプだった。


「いや~、夜って中々応募こなくて困ってたんだよ! 藤見君が来てくれて本当助かったよ! あ、履歴書後で出してね」

 副店長がニコニコして、裏が簡易履歴書になっているアルバイト募集のチラシを優に渡しながら言った。


「本当、優君が来てくれてよかったわ~。最近人手不足で困ってたのよ! 本当、ありがとうね~」

 事務所近くで品出しして様子をうかがっていた健太母が駆け寄り、笑顔で言った。


 優はそこまで言われて、今更特に理由もなく断れなかった。


 そんな訳で、優は火、木、日の週三回、19時から22時までトリスミでバイトすることになった。



 バイトが決まったので、母からスマホを買ってもらえた。

 ソミーの最新機種から一世代の型落ち品で、高性能でも割安だった。


 買ってもらったが当初の約束通り、本体等の代金と初めの一か月の使用料は優のお年玉貯金から出すと言われた。

 その後は月々の使用料を、バイト代から母に渡すように言われた。

 使用料が母の銀行口座からまとめて引き落とされる設定になっているのと、どれくらい自分が使ったのかを意識するよう、そんな方式になった。


 お年玉貯金には後いくら残っているか訊いても教えてくれないし、母は本当に財布の紐が固い。

 


 スマホ購入した日の夜八時、優は自室の机で、ようやく手に入れたスマホを大切に両手で包み込むように操作した。


(もっと早くに買ってもらえてたら、もしかしためぐちゃんの連絡先とかゲットできてたかもなー)


 そして、優は絵を褒められた時のことを思い出した。

(そうだよ、あん時持ってたら、渡良瀬遊水地のあの絵の場所はここだよー、地図送るからアドレス教えてーとか、自然にゲットできてたのになぁ……)


「はぁ~~」

 ため息をつくと体から空気が抜け、猫背がさらに丸くなった。


「でもまぁ、しゃーないっか」

 優は気持ちを切り替えて、スマホの機能を色々試してみることにした。


 試しにネットを見ていると、以前書き込みをした、赤井イチゴ推しブログ『赤い情熱! メンメンガールズ応援ブログ』にたどり着いた。

 新しい情報もなく、優が送ったコメントにもまだ返信はなかった。


 優はスマホの中にお絵かきアプリをあるのを発見し、試しに緑野メグミのイラストを指で描いてみた。かなりデフォルメした二頭身のイラストだったが、初めてそのアプリを使う割には可愛く描けた。


(初めてなのに上手く描けたな! 可愛いくかけたから、ブログに使おっかな!)


 優は早速そのイラストをブログにあげることにした。

 ブログはゴーゴンと一緒に大枠だけ作ったあと、何とかブログ名を付け、簡単な自己紹記事とお習字ライブの感想記事だけ書いて、全体に公開してあった。

 閲覧数はまだ一桁で、多分自分しか見ていない。


 ブログ名は『メンメンガールズを応援し隊 by 藤優』。

 ブログの枠の色を緑系にして、メグミ好きをアピールしてみた。


 まだスマホの操作に慣れておらず苦労したが、どうにかこうにかブログにイラストをアップすることができた。


「お~~っ!」

 優はちゃんとブログにアップされたイラストを見て、思わず声を出していた。


(すごいじゃん、俺‼ やればできるじゃん‼ 絵も可愛いし‼)

 そう思うと、それを誰かに見て欲しくなった。


(とりあえずゴーゴンと湊に明日教えよ! 後は……)

 優は『赤い情熱! メンメンガールズ応援ブログ』のイチラにまたコメントを送ることにした。


『イチラさんこんばんは。

 僕もメンメンガールズ応援ブログを始めてみました!

 まだあまり情報のないブログですが、イラストが上手くかけたので載せてみました。

 よろしければ、見に来てください!

  https://~~~ 』


 タイミングが合ったのか、優がもう寝ようとトイレに行っている間にイチラから返信が着ていた。


『藤優君はじめまして。コメントありがたう。

 君もなかなか良い趣味をしているようだね。


 メグミちゃんのイラスト、とても可愛く描けているね。素晴らしい! 

 今度是非イチゴちゃんのイラストを描いてもらえないかな? 

 よければ、小生のブログで使わせてもらいたく』


 優はここまで読んで喜びで舞い上がった。


(やった‼ 可愛い、素晴らしいって言ってもらえた‼

 そうだよな~このイラスト、やっぱ良く描けてるよな!

 自分では分かってても、人から認めてもらえると嬉しい~~。

 イチラさんもわっかってるな~、いい人だ~~)


 うきうきしながら続きのコメントを読む。


『イベントであったら是非声をかけてくれたまへ。語り合おうではないか。

 小生のトレードマークは赤いバンダナなり。

 次の七夕祭りのステージに行く予定なので、見かけたらよろしく』


「げっ」

 優は思わず声に出していた。


 赤いバンダナと『小生』と言う独特な一人称。

 優の脳裏には、感じの悪い赤バンダナ男が浮かんでいた。

 メグちゃん初ステージで優に「ださっ」と言い、お習字ライブで「にわか」と呼ばわりした、あの失礼な男だ。


(えーー、イチラさんってあいつなのかよ……。嫌だな……。

 でも、イラスト褒めてくれたしなぁ……。

 『素晴らしい』までもらっちゃったしな……)


 そう思いつつ、無難な返信をし、イチゴのイラストを描き始める優であった。

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