第21話

21.


「で、ホームページかブログを作りたいという話でござったな」


 ゴーゴンが背もたれの長い高性能そうな椅子から振り向いて言った。

 相変わらず癖の強い真っ黒な髪を自由に遊ばせ、黒縁眼鏡を若干斜めにかけ、ウィンクした日満梨ひまりがでかでかと描かれたTシャツを着ていた。


 ここはゴーゴンの自室。いくつかの長い机の上に複数のディスプレイと、机の下や上に、何やら分からない厳つい機械がたくさん備え付けてある。

 十二畳ほどある部屋の反対側には、ベッドと小さなちゃぶ台と本棚が、辛うじて生活臭を醸し出している。

 

 優はゴーゴンの椅子の近くにぐでっと座っていた。微粒子ビーズの詰まった大きなクッションの上に座ると、どうもだらけた姿勢になってしまう。


 優は昨日部屋に籠っている間、どうしたらよりメグミを応援できるか、どうしたら個人的なやりとりをできるかを考え、イチラのブログを見習って自分もホームページかブログを運営することを決めたのだ。

 そして、パソコン関係に詳しいゴーゴンに教えを乞うた。

 ちなみに籠っていたのはせいぜい三十分弱で、その後こそこそ居間続きの台所に戻り、担当の味噌汁とサラダ作りをした。

 

「そう、メグちゃんを応援するためのやつ! 俺にできる応援って何だろうって考えたんだけど、こんなのもありかなって思って。

 それに、もしかしたらメグちゃんが見てくれて、連絡くれるかも知れないし!

 どっちがいいかな? ゴーゴンならそう言うの詳しいだろ?」

 

「そう上手くいくでござるか? まあ、優が自分で管理するならブログの方が簡単でいいでござるが、ホームページよりできることは限られるでござる。恵殿に見てもらって連絡欲しいだけなら、恵殿が使ってるSNSの類でもいいと思うでござるが」


「めぐちゃんが使ってるSNS? ……分かんないや」


「分からないなら、閲覧するのに登録とか面倒なことが要らないものが無難でござるな。ブログとか」

 そう言うと、ゴーゴンはキーボードをカチャカチャとさせ、パソコンに何かを打ち込んだ。

「ちなみに、そこで何をしたいんでござるか?」


「えー、よく分からないけど、俺の連絡先が載せられてめぐちゃんと個人的なやり取りができるかも知れなくて、ライブ感想とか書いて……」

 優はイチラのブログを思い出しながら言った。


「あ、自作イラストか載せられたらいいかも。ちびキャラメグちゃんとか、可愛いだろーなー」

 うっとりしながら優は言った。


「掲示板とか欲しいでござるか?」

 ゴーゴンが事務的に言った。


「欲しい!」

 優は即答した。


「他には何か必要でござるか?」


「うーーん、特にないかも」


「それならブログで十分でござるな」

 ゴーゴンが眼鏡をくいっと押し上げ言った。

「ところで優、スマホ購入の件はどうなったでござるか? あまり長い文章でなければ、スマホからの更新が便利でござるが」


「んーー、母ちゃんに頼んだら、今までのお年玉貯金から本体買って、通信料は自分でバイトして払うんならいいって言われたー。だからバイト決まったら買ってもらうことになった。

 ゴーゴンはいいよな~、こんだけパソコン類買ってもらえて、タブレットとスマホも持ってて」

 優は少しうらやましそうに言った。


「まあこのPCは親から買ってもらったでござるが、他は全部自分の稼ぎで賄ってるでござるよ?」

 ゴーゴンが一台の小ぶりなノート型パソコンを指しながら、真顔で言った。

「下手するとうちの親、優のとこよりお金については厳しいでござる」


「すげーなゴーゴン! パソコンの仕事ってそんなもうかんの⁉」

 目を輝かせて優が言った。


「まあ、ある程度の技能があれば」

 眼鏡をまたくいっとさせ、ゴーゴンは言った。


「へー、まあ俺には無理そう」


「おそらく」

 ゴーゴンは事務的に言った。


「まあそんな訳で、バイトも探さなきゃなー」


「とりあえず、ブログ開設にスマホは必須ではないでござるが、体裁の確認にたまにスマホで見てみた方がいいでござる。さっきも申したが、短い記事の投稿にはスマホが便利でござるし」


「そっか。じゃあとりあえずブログ作りたいな」


 優は起き上がってゴーゴンの目の前のディスプレイをのぞき込んだ。


「プラットフォームは目星がついているでござるか?」


「プラットフォーム?」


 ゴーゴンはキーボードをカチャカチャさせ、検索バーに『ブログ』『プラットフォーム』と入力した。

 出て来た検索結果を優に見せながら、ゴーゴンは言った。

「こういった、ブログ作成とかのサービスやっているところのことでござる」


「へぇ、たくさんあるんだな!」


 そんな感じに話を進め、ゴーゴンに習い優もどうにか色々パソコンを動かし処理を進め、何とか二時間くらいかけてブログの枠だけ出来上がった。


「後は自分で好きな記事を書くでござる」

 ゴーゴンは疲れたように言った。


「ありがとう、ゴーゴン!」

 優は座ってディスプレイを見るゴーゴンの肩に腕をまわし、ポンポンしながら言った。


 まだタイトルも仮の『ああああ』と適当なもので、ネットにも未公開のスカスカブログだったが、優は大きな一歩を踏み出した、そんな達成感を感じた。

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