第20話

20.


「うぅ、気になるけど、思い出せない~~」


 結衣はコーネを抱きながら、しばらく頭を振って悩んでいた。

 その隙に、優はパソコンをシャットダウンした。


 しばらくして、結衣は諦めたのかからかうような表情に戻って言った。

「ねぇねぇ、どんなとこが好きなの? 可愛いとこ?」

 結衣がコーネを抱きながら、肘で優の肩を軽くツンツンした。


「どんなとこって……」

 優は『好き』を否定することも忘れ、考えた。

「そりゃ可愛いと思うよ。でもそれだけじゃなくて――」


 優は考えながら、真面目に答えた。

「優しいというか、善くあろうとしているというか……なんか上手く言えないけど、きちんとしてて、周りの人全員にとって良いことを考えてると言うか……気配りができるっていうのかな? んーー、なんかちょっと違うな……」


「へ~、すごいね! 私とは真逆じゃん!」

 結衣が笑いながら言った。

「そんなの、ストレス溜まりそ」


「まあ結衣とは大分違うな」

 優はわざと大真面目にうなずいた。


 結衣は何も言わず肘で優の肩をドンと押した。


「何かきっかけとかあるの? 気付いたら恋してた派?」


「う~~ん?」

 優は軽くうなると、腕を組んで目を閉じ、その時のことを思い出した。


「きっかけは……描いてた絵をすごく褒められたんだよ。ほら、渡良瀬遊水地の水門の絵」


 その絵は渡良瀬遊水地の水門の辺りの風景を描いたもので、優はその辺りの、奥に山々が連なり、豊かな水をたたえた緑豊かな眺めが好きだった。広々とした静かな眺めを見ていると、胸がすっとするのだ。

 渡良瀬遊水地は館森市から車で三十分程の所にあり、優の母の実家に行くのにたまにそばを通りかかる。


「あぁ、市のコンクールで銀賞もらったやつ?」


「それそれ。その絵を好きだって言ってくれて、それからちょっと気になりだして」


 優はその時恵が言ってくれたことを思い出し、少し照れた。


(「この絵、見てると気持ちがすっとするね」とか、

「おおらかな広々とした絵に、優君の人柄がよくでてる」とか、とにかくベタ褒めしてくれたんだよなー。

 で、「写真撮りたいから今度その場所教えて」って言われて……簡単にそこら辺の紙に地図書いたんだけど、分かったかな?)

 部活では、優は水彩画を主に書いていたが、恵は写真の部門での作品提出が主だった。


「で、知れば知るほど好きになっていったというか――」


(って、これじゃあ好きって認めてんじゃん!)

 ここでようやく結衣に恵のことを好きだと認めていることに気が付いて、優は両手で目の辺りを覆いうつむいた。


「へー、なんかなんか『これぞ青春』って感じ! いいじゃん!」


(あれ、からかわないんだな)

 結衣が意外にも真面目に受け止めてくれたので、優はこれ以上恵好きを隠さないことにした。

 したが、すぐに次の質問でそれを後悔した。


「ねぇねぇ、告白ってしたの?」

 キラキラした瞳で結衣が優の目をのぞき込んで言った。


「ノー‼ コメントォ‼」

 優は立ち上がりながら叫ぶと、コーネを結衣の腕から奪った。


 心の平穏の為高速でコーネをなでなですると、結衣と目を合わせぬままコーネと一緒に居間をでて、自室に籠ってしまった。

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