第19話
19.
『赤い情熱! メンメンガールズ応援ブログ』
優がそんなタイトルのブログを見付けたのは偶然だった。
自宅の居間でメンメンガールズについてのネット検索をしていたら、たまたま行きついていた。
ちなみに、メンメンガールズ全体としてのホームページやSNSの類はあったが、目当ての『緑野メグミ』個人のものはなさそうだった。
(ちぇっ、個人のがあったら、応援メッセージ直接伝えられたのにな!)
優は心の中で独りごちた。
六月の蒸し暑い平日の夕方、この時間はまだ親も帰ってこないし、中学に上がった妹も部活でまだ帰っていなかった。コーネは優の膝の上でゴロゴロ言いながらうたた寝している。
優は高校でも美術部に入ったが、活動は緩い物で、帰宅部のように家に直帰しても問題なかった。
ちなみに、中学時代と同じくゴーゴンはパソコン部、湊はサッカー部に入った。
ブログは、『イチゴラバー、イチラ』と言う人が運営していて、メンメンガールズ、特にリーダーの赤井イチゴの記事が多かった。
プロフィールはこんな感じだ。
『メンメンガールズ、赤井イチゴ推し。赤い至宝を見守るガーディアン。
新人を育てる紳士な面もある。』
記事の内容は、ライブの感想が主で、歌や踊り、服装についてなど、細かい観察と考察がなされていた。
この前のお習字ライブのことも記事にあり、その時書かれた応援幕の写真が載っていた。他の記事を見ても人の写真は貼られていないので、メンメンガールズは勝手にとった写真をネットに載せるのはダメなのかもしれない。
緑野メグミのことも書いてあり、キュートな有望メンバーで、育成のためチェキを一緒に撮ったと書いてあった。
(メグちゃんのこと褒めてくれてて嬉しい! この人、わっかってるな~~)
嬉しくなった優は、即ブログにコメントした。
『イチラさん初めまして!
僕もそのライブでメグミちゃんとチェキを撮ってもらいました。もしかしたらお会いしていたかもですね!
メグミちゃん、ほんと可愛いですよね!
あ、赤井さんも頼れるお姉さんって感じで素敵でした!
これからもブログ更新楽しみにしています!』
コメントにハンドルネームを記入するところがあって、一瞬悩んで『
(もしかしてこのホームページをメグちゃんが見るかもだからな。俺の書き込みだって分かって欲しいし!)
メンメンガールズ公式ホームページにもコメント欄があったが、そちらにはまだ恐れ多くて、何もコメントを残していない。
「たっだいま~」
元気な声が聞こえ、妹、
(げ、もう帰って来た! パソコンシャットダウンしないと!)
一瞬優はそう思ったが、
(……まぁいっか、もう色々ばれてるしな)
と、開き直ることにした。
結衣は洗面所で手洗いうがいをすますと、優にもたれかかってPC画面をのぞき込んだ。
何か月か前まで優もいた中学校の制服、半そでの白いセーラー服に紺色のスカーフと言ったかっこうだ。
「お、お帰り」
でもまだ多少いじられたくない優は、不自然に自然な感じを装いながら、ちらりと結衣を見た。
「なぁ~ん」
コーネが目を覚まし、結衣の方に伸び上がった。
結衣はコーネの耳の辺りをわしゃわしゃすると抱き上げ、ニヤニヤしながら言った。
「お兄ちゃん、またメンメンガールズ見てんの~。推し、緑のコだっけ~?」
「推し……」
(メグちゃんのこと推しって言うのなんかピッタリこないよな……、なんかこう、もっと重みのある、特別な言葉ってないだろか?)
優はそんなことを考えながら一瞬だまっていた。
「なにお兄ちゃん、ガチ恋派?」
「……中学の部活仲間なんだよ」
「へ~、それで好きになったと」
結衣はからかうようにニヤニヤを続けて言った。
「もう、いいだろ! 応援してって頼まれたんだよ!」
嘘をつくのが苦手な優はあっという間に赤くなり、しどろもどろになって答えた。
「ふ~~ん」
結衣はしばらく優の顔を見てニヤニヤしていたが、ふと真顔になって言った。
「なんかこのお姉さん、見たことある気がするんだよね。結構前に」
「そうか? 習い事でも一緒だった?」
「ん~~違う気がする。ピアノかスイミングやってたの?」
「聞いた事ないな。お習字はやってたみたいだけど」
「じゃあ違うか~」
「同じ市内に住んでるから、一回くらいたまたまどっかであったんじゃん?」
「うぅん、そう言うんじゃなくて……」
結衣は手を顎に当て、真剣に思い出そうとした。
「見てるとちょっと怖い気持ちがするんだけど、安心もするような……」
しばらく小首を傾げながら、結衣は思い出そうとしていたが、
「あーー思い出せない‼」
と叫ぶと、髪を搔きむしった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます