ライブ 2

第14話

14. 

 

「歌って踊ってお習字そろばん、寺子屋系アイドル! メンメンガールズです!」


 そう元気に言う、赤白黄青緑のフリフリワンピースを着た五人の可愛い女の子達。

 よく見ると一人「んっ?」っとなるごついコもいるが、可愛いていでステージは進む。


 

 優はメグミの二回目のステージ、『頑張ろう日本! トリスミ お習字ライブ』に来ていた。

 これは、数年前に起きた大地震の復興支援と地域活性化を掲げた、地元スーパー主催のチャリティーイベントだ。

 メンメンガールズは歌を一曲披露し、お習字で大きな『日本頑張ろう垂れ幕』を作り、その後グッズ販売をするらしい。グッズの収益は、一部復興支援に使われるとのこと。


 優はこりずにゴーゴンと湊をイベントに誘った。

 ゴーゴンには断られ、湊は「うちの手伝いが終わったら、行けたら行く」とのことだ。


 トリスミの広い駐車場の一部に簡易ステージが作られ、その横に白いテントが張られグッズが並べられている。ステージは駐車場の地面と同じ高さで、混んできたら後ろの人は見づらそうだ。

 ステージと白いテントはお店を背にし、駐車場の方を向いている。

 会場にいるのはほぼ長いレンズのカメラを首からぶら下げたガチ勢で、たまたま来たトリスミの買い物客はちらほらといった感じだ。


 特に客席に椅子が並んでいる訳でもなく、立ち見のようだ。

 一応、ステージ前には赤いロープが張られている。

 

 優はだいぶ早く来たので、一番前を確保できた。

 小さな会場なので、ステージとの距離が大分近い。


「あれ、お花のお兄ちゃん?」

 小さな子どもの声がした。

 振り向くと、少し離れた所にこの前のステージで場所を譲ってあげたコノミちゃんとお母さんがいた。コノミちゃんは五歳くらい、お母さんは三十代前半位に見える。


「あれ? よく会うね」


「この前はありがとうね。場所後ろの方になっちゃってごめんなさい」

 お母さんがにこやかに言った。


「ありがとぉ! おねぇちゃん、よくみえた!」


「そうなんだ、よかったね」

 そう言いながら、優は頭をフル稼働させていた。


(えっ、お姉ちゃんって、もしかして、メンメンガールズメンバーの身内⁉

 でも、誰の?

 この子のお姉ちゃんにしては、メンバーの歳離れてるし、お母さんもメンバーの誰かを産んだような歳には見えないし……)


「ねぇ、お姉ちゃんって――」

 優がそう言いかけた時、

「歌って踊ってお習字そろばん、寺子屋系アイドル! メンメンガールズです!」

 ちょうどステージが始まった。


 ステージが始まると、優は一瞬でコノミちゃん達のことを忘れ、ステージに見入った。


 ステージでは簡単な自己紹介が始まった。

 赤いコがリーダーのようで赤いコから始まり、最後がメグミだった。


「キュウリにゴーヤ、白菜小松菜、みんな大好き緑の野菜、緑野メグミです‼

よろしくお願いします‼」

 メグミはこの前と同じ自己紹介をした。


(久しぶりのメグちゃんだ! やっぱり可愛い!

 ……格好はこの前と一緒みたいだな)

 

 メンメンガールズ達の格好は、メグミのデビューしたステージの時と同じ、フリルの付いた短めの水玉ワンピースに、髪に同じ色と柄の大きめのリボンといった感じだ。


「では、聞いて下さい!」

 赤いコが幼さの残る元気な声で言った。

「私達、メンメンガールズのテーマソング『キラキラ☆メンメン』!」


 これまた前回と同じ、『キラキラ☆メンメン』の曲が始まり、メンバーは歌って踊りだした。


(メグちゃん可愛い! ダンス上手い! 最高!)

 優はあふれ出す涙を、こっそりハンカチに染み込ませた。


 ガチ勢は、始めの方の歌ではカメラを構えて写真撮影に忙しそうにしていた。

 優も親から借りた古いデジカメで何枚か撮った。

(今度はピンボケしてませんように!)


♪わたしたち~キラキラメンメン~

 キラキラメンッメン~、わたしたちキラキラメンコイ、メンメンガ~ルズ~♪


 サビが始まると、ガチ勢達はいっせいに光る棒のようなものを出して、体を揺らして振りだした。


 優は訳が分からず、びくっとした。

(えっ、何これ⁉ こんなことやってて言われてたっけ? 決まりでもあんの⁉

 この前のイベントじゃやってなかったじゃん!)


 優が周りの流れに乗れずあたふたしていると、メグミが優の方を見て微笑んだ、ように見えた。


(あっ、メグちゃんこっち見た! 笑った? 気付いてくれた⁉)


 一瞬で赤くなると、優も何かしなければと思い手を振ってみた。

 その流れで、周りのガチ勢を習って手を振り、体を揺らしてみた。


 メグミと優の視線が絡み合った、ような気がした。


(メグちゃんが、俺だけを見てくれた!)


 それはほん一瞬で、メグミはすぐにダンスの移動で違う所にいってしまったけれど、優にとってはかけがえのない一瞬だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る